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俺にやたら構いたがってくる郁馬は『足が痛い』なんて言えば優しくもしてくれて、俺に合わせてゆっくり歩いてくれる。

けれど申し訳ないことに足が痛いのではなく、痛いのはお尻と腰だったりする。昨日は大丈夫だったのに今日になってそんなところが痛いだなんて…。とても郁馬に言えることではなく、歩きすぎて足が痛いことにさせてもらった。実際そんなに足が痛くなるほど歩いてはいないけど…。

隣を歩く光星をチラッと見上げたら、分かりやすく俺の“痛いところ”に気付いてそうな…、気まずくて、困ったような顔をしている。

お尻はさておき、俺のこの腰痛の原因は間違いなく光星にあるので、その心当たりがありそうな、自覚してそうな光星の顔を見るのが俺は少し愉快だ。


2回目の挿入は光星がまだまだしたそうだったし、俺も少しだけ余裕が残っていたから自分からしたけど、それでもあんなに激しいセックスをするつもりはなかった。俺は光星をイかしてあげるためにしようとしたのに、光星は俺をイかそうとするように乳首を舐め、性器を扱きながら俺の中まで刺激するように腰を揺らしてくる。

止める気配のない光星からの愛撫や刺激に俺はもう痛いのか気持ちいいのか分からなくなってきて、ひたすら喘いで、耐えることしかできなくて、気付いた時には興奮しまくっている光星に押し倒されている。

普段は優しい光星が、ギラギラした男の目をして俺を見下ろす。そして普段は穏やかな性格の光星が嘘みたいに、熱い息を吐きながら激しく腰を振り、気持ち良さそうに俺の中で絶頂を迎えていた。

ゆるくやってイかしてあげようなんて考えた俺がバカだったのだ。光星は優しいけど、興奮してセックスに夢中になっている光星にまで優しさを期待してはいけないと、その一夜でよーく分かってしまった。

べつに悪いとは言ってない。光星の俺しか知らないそういう一面を見れたことが俺は嬉しい。普段はポーカーフェイスでも考えてることは実はめちゃくちゃえろくて、きっと心の中では『またえっちしたい』とか思っているのだろう。


おかげさまで俺はお尻だけでなく腰にまできているというのに、光星は大丈夫なのかな。


すすっと光星の隣に近付き、腰をなでなでと撫でながら「腰痛くないの?」ってこっそり聞いてみたら、光星は一瞬で赤面した。さては昨夜の自分の行いを思い出したのだろうか。2回目凄かったもんな?ずっと腰振ってたもん。自覚あるんやろ。


「…えっ、…あっ、…ちょっと痛いかも…?」


ほんまかなぁ。全然平気そうやなぁ…という目で光星を見ていたら、郁馬まで「ん?どうしたん?」と光星に目を向けてしまった。

すると光星は赤面した顔を隠すためにくるりと郁馬に背を向けて、近くにあった店を興味なさそうなのにまじまじと見ているフリをしている。光星くんちょっとおもろい。


「ふふっ…どこ見てるん?光星くんこっちやで。」


そう言いながら光星の腕をグイッと掴み、歩く方向へ引っ張る。大人しく俺に引っ張られながら歩く光星を郁馬がじろじろと見つめていたことには、全然気付かなかった。


「…なんか嫌や。」

「ん?なにが?」


渡月橋がよく見える位置まで歩いてくると、光星は景色の写真を撮っている。よくテレビで見たことある景色に『なるほど、これが渡月橋か』などと特に興味もなくぼんやり眺めていたら、俺の横に立った郁馬がぼそっと小さな声で口を開いてくる。


「光星くん絶対永遠に惚れてるやん。」

「えっ?」


そうやで?光星くん俺のこと好きやで、バレバレか?って思いながらも何も言わずに郁馬を見上げていたら、写真を撮り終えた光星も静かに俺たちの横に歩いてきた。

光星に聞こえるようには話すつもりはなさそうで、すぐに視線を逸らす郁馬。

『なんか嫌や』って、どう嫌なんやろ。
俺も光星のこと好きやねんけど、それ言ったら郁馬泣きそうやなぁ…と、薄々感じ始めていた郁馬の気持ちに俺は少し困惑する。

足痛いって言ったら身体支えようとしてくれるし、『大丈夫?』って心配してくれる郁馬の優しさがちょっと重い。

長年の友達でまさかと思ってたけど、さっき電車の中で俺と光星を郁馬が引き離してきた時、『まじか』って思ってしまった。グイッと肩を掴まれて、郁馬の方に引き寄せられ、そんなこと普通友達にするか?って、考えてしまった。

なんで?引っ越し前はそんな雰囲気まったく無かったのに。離れ離れになってから俺のことが恋しくなった?


「あっ!俺ソフトクリーム食べたい!」


郁馬のことを少し考えていたけど、歩いていたらパッと視界に入ったソフトクリームが売っているお店に惹かれ、思わずクイッと光星のシャツを引っ張ってしまった。


「ソフトクリーム?うん、いいよ。」


クイッと俺に引っ張られた光星は振り向き、そう言ってくれるものの、郁馬には分かりやすくムッとした顔をされてしまった。原因は多分俺にある。

郁馬じゃなく、光星を引き止めたのが嫌だったんだろう。でも光星くん俺の彼氏なんやもん…。俺の行動は全部無意識だった。郁馬には話すべきかなぁ…?と少し悩み始める。

でも郁馬と友達で居られなくなるのは嫌だ。どうせ明日にはもうお別れだし、やっぱり言わずに帰ろう。…薄情かなぁ?


悶々とそんなことを考えながらソフトクリームを購入し、緑色をした抹茶味のソフトクリームをぺろぺろと舐めた。


「ふふっ…かわいい。」


抹茶のシェイクを頼んだ光星は、ドリンク片手に俺に向けてスマホをかざしてくる。そしてカシャッと写真を撮られてしまい、すぐに郁馬がその音に反応するように目を向けてきた。

ジッと光星を見つめるその顔は不機嫌そうで、光星はハッとしながらスマホをポケットに片付ける。


なんかごめんな…、光星くん…。

光星はわりと早くから郁馬の気持ち疑ってたけど、当たりかもしれん。でも郁馬が俺を好きやとしても、俺の好きな人は光星やからな。


光星の許可も取らず、光星が持っていた抹茶シェイクのストローにチューと吸い付いたら、郁馬は「えっ」と軽く拍子抜けしていたけど、光星はにこっと笑みを浮かべて「美味しい?」と聞いてくるだけだった。


「うん、美味しい。」


勝手に抹茶シェイクを飲んでも、優しい優しい俺の彼氏は俺のことを怒らない。

『実は付き合ってる』って言ってしまいたいのに口では言えないから、郁馬に見せつけるようなことをしてしまった。案の定郁馬はムッと唇を尖らせて、やっぱり不機嫌そうにしている。

やっぱ俺のこと好きなんかなぁ…?
何かの間違いであって欲しい。


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