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いつも朝目が覚めるくらいの時刻に目覚めた俺はチラッと隣で眠る永遠くんに目を向けるが、まだすーすーとよく眠っている。ほんとにかわいい。起こしちゃ可哀想だと思いつつ、頭をよしよしと撫でたら永遠くんの目がふっと開いた。
「あ、永遠くんおはよう。よく眠れた?」
「んん…。」
…あ、まだ起きたくなさそうだな。
起こしてしまったことに少し罪悪感が。
しかしそうは言ってもホテルの朝食の時間があるから、申し訳ないと思いつつ永遠くんを起こしたら、永遠くんはのっそり起き上がった。
「ふぁあ…よく寝たよく寝た。朝から晩まで光星くんと一緒に居れて嬉しいなぁ。」
「うん、俺も。」
寝起きの顔に、髪も寝癖で変な方向に向いているけどかわいいな。ずっと見ていたい。また昨日みたいなえっちな永遠くんも見たいな。またやりたい。永遠くんの中、気持ちよかったな……永遠くんのえっちな声もまた聞きたい、かわいかったな…。次はいつできるかな……
うわっ…、あっ…、あっぶねぇ…、今思い返すのは普通にやばいわ…。自分がまだまだ元気すぎて困ってしまう。永遠くんを前にして普通にして居られる自信がなくて、また変な気起こすわけにもいかないから、サッと慌てて永遠くんの方を見ないように目を逸らした。
朝食を食べ終わったあと、永遠くんは部屋に戻ってきてからまたずっとベッドの上でゴロゴロしている。身体やっぱりキツいのかな。俺だけピンピンしてるのも申し訳なくて、永遠くんに合わせて俺も部屋で寛いでいたら永遠くんのスマホがピコン、ピコンと立て続けに音が鳴り始める。
「もぉ、郁馬うるさいなぁ。はよホテルから出てこいって急かしてきよる。」
「そろそろ清掃も入るだろうし行くか?」
「そうやなぁ。あぁ〜身体が重たい…。」
のっそり起き上がった永遠くんは、だらだらと洗面所へ向かい、身支度をしてから俺の方へ両手を伸ばしてきた。
「光星くんチュー。」
「えっ…」
「えっ、てなに?嫌なん?」
「いやいやいやんなわけ!!」
キスさせてください…と永遠くんの身体を抱きしめてチュッと唇を重ねたら、永遠くんは俺を見上げて「ふふっ」と笑ってきた。
「今度は旅行じゃない時に一日中光星くんとイチャイチャしてたいなぁ。」
「…うん、…俺も。」
そういうこと今言うなよぉ!!
こっちは必死に我慢してんだから!!
そんな俺の心の中の叫びを永遠くんが知るはずもなく、永遠くんは鼻歌混じりにさっさと部屋を出て行った。
「郁馬もう家出て今こっち向かってるんやって。元気やなぁ。」
「せっかく永遠くんが京都居るんだから早く永遠くんに会いたいんだろ。」
「まあ次いつ会えるか分からんもんなぁ。」
スマホを両手で持ち、郁馬くんとやり取りしている永遠くんの手元を覗き込む。郁馬くんが永遠くんに友情以上の好意を持っていると確信している俺は、複雑な気持ちで永遠くんあての郁馬くんからのメッセージを眺める。かまってちゃんかと思うくらい、ずらりと可愛いスタンプが並んでいる。
永遠くんは俺の事をよく『かっこいい』って言ってくれるけど、俺から見た郁馬くんだって女の子受けが良さそうな爽やかな雰囲気をしたかっこよさだった。立場が逆だったら、永遠くんは俺じゃなくて郁馬くんを好きになっていたかもしれない。
たらればの話だけど、そう考えたら郁馬くんの気持ちを思うと同情してしまう。かと言って、永遠くんは渡せないから、早く郁馬くんの永遠くんへの執着心が薄れてくれるのを祈るばかり。
ホテルを出て、地下鉄に乗るために改札口で郁馬くんと待ち合わせすると、俺たちより少し遅れて郁馬くんが改札口に駆け寄ってきた。
「永遠お待たせっ!」
嬉しそうな顔してるなぁ…。俺はお邪魔なんだろうな…。二人が合流してから俺は控えめに彼らの後ろを歩いていたら、永遠くんが俺の腕に手を伸ばして掴んできた。隣を歩けということなのだろうか。
地下鉄に乗り、阪急電車に乗り換え、向かう先は永遠くんが行ったことないという嵐山方面で、永遠くんは行ったことないって言ってるのに郁馬くんから「嵐山行ったことあるやん!」と突っ込まれている。
「嘘やん、いつ?」
「小学生の頃遠足で行ったで?」
「えぇ?そうやった?覚えてへんわ。」
「クックックッ…」
また『覚えてない』か…。永遠くんの『行ったことない』は大体“覚えてない”というのが正解な気がして、南禅寺の時とまた同じような展開になりそうで笑ってしまったら永遠くんにぺしっと肩を叩かれてしまった。
「光星なに笑ってるん?」
「嵐山着いた瞬間にまた『来たことある』とか言いそうだな?」
「それはそれでまあいいやん。」
否定しない永遠くんにまたクスッと笑ってしまったら、永遠くんは俺の肩に腕を乗せて寄っかかってきた。
「あ〜しんどい。身体だるいなぁ。」
「…大丈夫?」
笑ってしまった仕返しか、しんどいアピールをしてくるかわいい永遠くん。昨夜の疲れが残ってると考えたら俺は労ってやるくらいしかしてやれることはなく、髪をよしよしと撫でながら声をかけていたら、突然グイッと郁馬くんの手が俺と永遠くんを引き裂いた。
キョトンとしている永遠くんの肩を掴みながら、郁馬くんは顔を顰めて永遠くんを見下ろしている。
「なんかイチャついてるように見えるぞ?」
「え?」
郁馬くんに言われた言葉に、永遠くんはチラッと俺を見上げてくる。やっべぇ…俺が髪撫でたからだ。気まずくてサッと二人から顔を逸らしたら、永遠くんは「ふっ」と小さく笑い声を漏らした。
「バレてしもたなぁ、光星くん。」
「えっ!?」
「郁馬にラブラブって言われたで。」
「はっ!?そんなん言うてないわ!!」
これは永遠くんの冗談だろうけど、俺はカッと顔が赤くなってそうで、そんな顔を郁馬くんに見せるわけにはいかず、吊り革を掴み、その手で顔を隠した。
その後の俺は大人しく二人のやり取りを黙って聞いていたら、数十分後には目的地に到着する。
電車から降りて、改札を抜けて、また俺の腕を掴んできた永遠くんが俺の隣をのそのそと歩く。
するとそんな永遠くんを不思議そうにジッと見つめていた郁馬くんが、サラッと一言、永遠くんに問いかけた。
「永遠なんでそんな変な歩き方してるん?」
「え…?」
「足痛いんか?」
「あ、…うん。…足痛い。」
いや…、足って言うか…、お尻だろ…。
しかしそれを口に出せるわけもなく、永遠くんも郁馬くんの問いかけに頷いたため、申し訳ないと思いつつもそういうことにしておこう…と、俺はだんまりを決め込んだ。
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