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サッカー一筋8年、香月 侑里 17歳。
初恋は幼稚園の先生、初めて付き合った相手は中学の先輩、でもあまり長くは続かず数ヶ月で別れ、高校生になりまた好きな人ができたと思ったら今度は二つ歳上の友人の姉。

考えてみれば俺って多分歳上好きだ。
自分の記憶から抹殺しようとしていた初彼女の存在を思い出した時、俺はそんなことに気付いた。

何故かその時はめちゃくちゃ魅力的に見えた中学の先輩と別れた理由は、俺にも『同じ高校を受験しろ』と要求してきたから。その瞬間、一気に気持ちが冷めてしまった。

同じ高校は無理だ。
そもそも俺はサッカーの強い学校に行きたかったがために大阪を出て寮に入れてもらっているのに、そんな俺の境遇を知っていてよくそんなことが言えたなと思ってしまったのだ。

まあ一度彼女が出来て、別れて、もうすぐに女遊びは懲りてしまい、毎日サッカーの練習に励んだ。練習ばかりしていたら中学校生活なんてあっという間に過ぎていった。

今の高校を選んだ理由は単純にサッカー部がそこそこ強く、良い成績を残している学校にスカウトされたからだけど、他校で何回か試合をしたことがあり上手い奴が居ると思っていた玲央も同じ学校に入学してきたから悪くない選択だったと思っている。

不満があるとすれば男子校でむさ苦しい事だけど女に気を取られ、練習が疎かになってしまっても良くないだろうから俺からしたら良い環境なんだろう。


そんな男子校生活も二年目となり、進級と同時にかわいい男子、片桐永遠が転校してきた。彼の髪の毛は、女子のようにサラサラしている。

耳下まで伸びた髪にスッと指を通す感触が気持ち良い。そしてなんと言っても良い匂い。

永遠と仲良くなってからというもの、俺は癒しを求めるように毎日よしよしと永遠の髪を撫でていた。頬ずりしやすい良い位置に永遠の頭があるから、男子高校生に癒しを求めるのもおかしな話だが、永遠の頭にすりすり頬ずりをして癒されたりもしていた。


そうして永遠と仲良くなったことで出会ったのが彼の姉、片桐 永菜だ。彼女もまた、永遠と同じようにサラサラとした髪をポニーテールにして結んでいる。

ラーメン屋のバイトで服は黒いTシャツに腰エプロン、ズボンという恰好なのにめちゃくちゃかわいい。

くりっとした目は永遠にそっくりだ。
元々毎日の癒しにしていた友人なだけあって、その友人の姉を見た瞬間、胸が打たれたような気持ちになり、俺は彼女のことをあっさり好きになった。


【 片桐永菜です ラインしたよ 】


サッカーの試合3戦目を難無く勝利し、俺は連絡先をなかなか教えてもらえなかった彼女からその日とうとうラインを交換してもらえた。

素っ気なくも見える文章だが十分だ。
真顔でこの文章を打っている彼女の顔も想像できてしまうけどまあいい。俺の顔面はそんな素っ気ない文章を見ただけでもデレデレとにやけていた。


【 ラインありがとう!嬉しい! 】


初めて送ったそのメッセージには、ぺこりとお辞儀をした動物のスタンプが送られてくるだけだった。でもいい。ぜんぜん。これでいい。


また今晩寝る時と、朝おはようって送ろうか。などと考えながらスマホをしまった。しつこい男と思われたくないから、適度な距離感は大事だ。



「侑里〜姉ちゃんからラインきたやろ?」

「きた。嬉しい。ありがとう。」


3試合目の試合の日、永菜はバイトだったから、応援に来てくれていた永遠が永菜に勝ったことを伝えてくれた。永菜に俺のラインを教えてくれたのも永遠で、翌日永遠に礼を言う。


「姉ちゃんなんて送ろ?って悩んでたで。」

「ほんま?なに送ってくれても嬉しいって言うといて。…あ、俺が言えば良いんか。」

「侑里顔にやけてるで。」

『カシャ』


言われなくても自分の顔がにやけている自覚はあるが、そんな俺に向けて永遠にスマホを構えられ、写真を撮られてしまった。


「ちょっ…!なに撮ってんねん!!」

「姉ちゃんに送っとくわ。」

「待って?変な顔のやつはやめてな?」

「大丈夫、にこにこしててかわいいで。」

「は?かわいいのは自分やろ。」


永遠のスマホを覗き込んでどんな写真を撮られたか確認しようとしたが、すでにその写真は永菜に送信された後だった。

そしてすぐに既読がついたがその後永菜からの返信はなく、既読無視だ。まあ仕方ない。俺の写真なんて送ってこられても困るだけだろう。


「どうしたらええやろなぁ。とりあえずもっかい二人で飯食いに行きたいなぁ…。」

「次準々決勝やろ?準決勝で勝ったらご飯行く約束はどうや?」

「準決勝?準々決勝はあかんの?」

「そんななまっちょろい条件はあかんと思う。」


んー、まあそうやな。3試合目でライン交換オッケーやったから下手しい『決勝戦勝ったら』とか言ってこられるかもな。


「分かった。ほな準決勝勝ったらご飯でお願いしてみよ。永菜ちゃんオッケーしてくれるかな?」

「んー、どうやろな。聞いてみて。」


永遠との会話の流れで俺は、さっそく永菜にラインを送った。


【 準決勝勝ったら一緒にご飯行ってほしいな 】


多分返事はすぐには返ってこないだろうから、授業が終わった後にスマホを見たら返信が来ていた。

ドキドキしながら返信を確認すると、そこには厳しくもありながら俺の闘志に火をつける一文が書かれていた。


【 決勝戦までは気ぃ抜いたらあかんやろ 】


その通りだ。気を抜いてはいけないのは確か。俺は彼女からのそのメッセージに、ライン交換できてちょっと浮かれてたなぁと気付いた。

再び気を引き締めて、放課後の部活に励む。


彼女の存在が俺のサッカー生活により良い影響を与えてくれていることを感じ、俺はますます彼女のことが好きになってしまった。


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