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土日が試合続きで休みがまったくないため、試合翌日の放課後はフリー練習だった。休むも自由、練習するも自由だったため俺はジョギングとストレッチだけして上がることにした。


「あ、香月来た。おつかれ。」

「お〜、侑里おつかれ〜。」


人気の少ない廊下を進み、特進クラスの教室を覗くと、友人二人が机に筆記用具を広げて勉強している。


「はい、侑里ちゃんのために次の試験範囲で出そうな数学の問題集作ってみたで。」

「おお!天才やん。ありがとう。」


うかうかしていたらあっという間に期末テストの時期が迫ってくるため、特進クラスで賢い友人たちはもう放課後テスト勉強をしている。

中間テストの時も永遠にはかなりお世話になったが、また今回も頭が悪い俺のために早い時期から協力してくれていてありがたい存在だ。


「ほんで姉ちゃんにはラインした?」

「うん、準決勝勝ったらご飯行ってって言うてみたけど決勝まで気ぃ抜いたらあかんやろって言われた。」

「おぉ、お姉さんさすがだな。香月を乗せるのがうまいっつーか。」

「ほんまそれな。俺多分あっさり頷いてくれるような子やったらそんなに惹かれてなかったと思うわ。」

「ふふっ…俺だんだん侑里のこと分かってきた。侑里ってドMやろ。」

「はっ?ドM!?」


永遠は紙パックに入ったいちごオーレをチューと吸ったあと、サラッと俺に向かってそんなことを口にしてきた。そんな永遠の発言に「ぶはっ!」と浅見が吹き出している。


「なんでそうなった?俺そんなん言われたことないねんけど。」


永遠が座っている席の隣の椅子をガタッと引いて座りながら言うと、永遠は「んー」と鼻の上にシャーペンを乗せ、後頭部に両手を当てて考えるようなそぶりを見せた。


「見た感じ侑里って普通に女の子にモテてんのに自ら険しい道に突っ込みたがってるもん。ぶっちゃけ姉ちゃんレベルの女の子そのへんにごろごろおるやろ。この前侑里目当てで試合見に来てた子も可愛かったし。」

「は?待って?お前それは分かってない。他者から見た自分を分かってないわ。なぁ浅見?」

「ん?…ふふっ…うん。」


そのへんにごろごろおるわけがない。
俺が17年間生きてきた中で永菜はダントツでかわいい。清楚で、透明感あって、見た目だけでこんなに惹かれたのは初めてやぞ。


「永遠、お前はめちゃくちゃかわいい!」

「え?なんで俺の話になってんの?」

「もっと誇っていいんやぞ?永遠、お前の姉ちゃんはかわいいんや!!」

「意味わからん。なんで一瞬俺の話になったん。」

「だってお前ら顔似てるやん。あのな?永遠みたいな男子高校生はそのへんにごろごろはおらんで?周り見てみろよ、この汗臭そうな俺ら。街歩いてたらこんな奴ばっかりやろ?」

「俺もかよ!!」


運動後で身体が火照っているのもあり、額から汗が流れていた俺と浅見の顔を何気なく交互に指差したら浅見に突っ込まれてしまった。


「あ、ごめん。浅見はべつに臭なかったな。寧ろお前は爽やかすぎるわ。」

「侑里失礼やで。光星に謝って。」

「ええっ!?今謝ったやん、話聞いてた!?」


永遠はこの話に飽きたのか、またシャーペンを手に取って解いていた問題の続きを解き始めた。そんな永遠のことをクスリと笑って眺める浅見。いつも浅見は永遠のことを『かわいくて仕方がない』という目で見ている。


「いいなぁお前ら。どこまでいったん?チューした?」

「チューしたで。」


両思いが羨ましくて俺の口からぺらっとそんな質問が溢れると、問題を解いていた永遠が顔を上げながらあっさり答えた。

それとは真逆に、浅見は恥ずかしそうにカッと顔を赤くしており、口元を手で隠している。


「光星が俺んち来たらずっと光星にくっついてる。」

「うーわ、ラブラブやん。えろい空気にはならんの?」

「ううん、光星くんすぐ勃つから問答無用でえろい空気やで。」

「おい永遠!シッッ!!」


ぺらぺらと恥ずかしいことを永遠に話されてしまい浅見の顔面は真っ赤っかだ。赤い顔をして口の前で人差し指を立て、永遠はそんな浅見を見てへらっとした笑みを浮かべている。満更でもなさそうだ。


「えろい空気なったらなにするん?」

「香月そろそろ黙ろうか。」

「くふふっ…光星くんがすぐ俺の服脱がして身体触ってくんねん。」

「おいっ!?永遠くんもちょっと黙ろうか!?」


恥ずかしさを通り越し、真っ赤な顔で怒ったみたいな態度になっている浅見を見ても永遠はにこにこと笑っている。

恐らく永遠は誰かにのろけたかったのだろう。
かわいい笑みを浮かべる永遠を浅見が怒れるはずもなく、赤い顔をしたまま恥ずかしそうに手で顔を隠していた。


順調そうな二人の話を聞き、学校では二人ともクールに友達同士のような顔をして互いに接しているけど、二人きりの時はとんでもないんだろうなと軽く想像してしまい、これ以上踏み込んだことを聞くのはやめておこうと口を閉じた。


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