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「あの姉弟いきなり現れてなんなの!?なんであたしがあんな言われ方されなきゃいけないのっ!?性格悪すぎでしょ!!もうやだっ!!」


カラオケルームから光星を連れ出して通路を歩いていたら、侑里の元カノが友達を引き連れて真っ赤な顔で怒りながら早足で歩いてきた。


「あんな言い方しなくたってよくない!?だからあたし関西弁の人って嫌いなの!!」

「うわ、びっくりした。」


こっちへだんだん近付いてくる盛大な俺への悪口に思わず振り向いたら、侑里の元カノにギロッと睨みつけられる。しかしすぐにフンッとそっぽ向いて、「嫌い!嫌い嫌い!」と連呼しながら去って行った。


「俺めっちゃ恨まれてんなぁ。そんな言い方キツかった?俺の中ではかなり優しく喋ったほうやねんけど。」

「言い方がキツイって言うより、言われた内容がキツかったんだと思う。」

「あぁ、なるほど。失礼やなぁ…関西弁関係ないやん。だって『あたしの気を引きたいの?』とか言われたんやもん。何言ってんのこいつって思うやん。」

「ふふっ…まあ、そうだな。そういうのはスルーに限ると思う。」


光星はクスッと小さく笑いながらそんな意見を言ってくれる。確かに売り言葉に買い言葉は良くなかったかもしれない。全然成長できない自分にほんの少しだけ反省する。

でも俺が言ったことはさておき、姉ちゃんの場合は彼氏が目の前でキスされたのだから、多少口は悪くても正当に言い返したまでのことだ。

それを自分の言動を棚に上げて自分が言われた言葉だけを重視して人を性格悪いだなんて、俺はそれこそどっちが性格悪いねん、って思ってしまう。でもこれもまた口に出してしまったら俺まで人を悪く言ってる奴と同じになってしまうから、結局はもう何も言わない方がいい。

『口は災いの元』…これは、俺が自分への戒めにしている言葉である。


「俺は光星が好きって言ってくれるからいいもん。」

「ん?なにが?関西弁?」

「ううん、全部。俺のことも。」

「永遠くんのこと?うん、全部大好きだよ。さっき永遠くんが迎えに来てくれたの嬉しかったな。ありがとな。いつまであそこ居なきゃなんねえんだろって思ってたから。」


そう言いながら光星は、俺の頭をよしよしと撫でてくれた。俺だってあんなふうに堂々と迎えに行くつもりは無かったけど、侑里の元カノが光星に泣きついてたのが悪い。付き合ってる人居るって言ってあるはずなのに、光星に泣きついたあいつが悪い。


口には出さずに、もう心の中でだけ侑里の元カノをボロカスに悪く言う。人を悪く言ってるところを光星には見られたくないから、そんな顔を見せないためにも心の中だけで我慢する。

光星の前ではいつもいい子ぶりっ子してしまうけど、好きな人の前だったら誰だってそうしたいはず。


「俺も光星大好きやで。光星の周りに女の子おっても俺結構平気かもしれん。光星はほんまに俺しか眼中になさそうやもん。」


そう話しながらカラオケ店の通路にも関わらずちょっとだけ光星の腰に腕を回して抱きついたら、光星は照れ臭そうにしながらうんうんと頷いてくれた。



暫くすると侑里と姉も二人で手を繋いで通路を歩いてきた。早くもカップル感を出している二人を見てニヤッと笑ってしまったら、姉にべしんと背中を叩かれる。


「永遠なに!?その顔!」

「ちゃんとカップルみたいやな。」

「みたいじゃなくてカップルやもん!」


姉はそう言って赤い顔をしながらぎゅっと侑里の腕に抱きつき、侑里は口に手を当ててでれっとし始める。


「…なんかあんまり見たくない光景やわ。」

「このあとどうすんの!?そういや私らカラオケの部屋取ってしまってるやんか!!」


姉と友人がイチャイチャする光景を俺が『あんまり見たくない光景』と言った瞬間に、姉は侑里から手を離して必死に話を変えるように俺にそう聞いてくる。


「あぁ、そうやな。人数追加して4人でちょっとだけカラオケしてから帰る?これで帰ったら俺と姉ちゃんただの営業妨害やしな。」

「香月お金無いっつってなかったか?」

「えっ?あるある。お前らと遊ぶ金くらいあるで。」


侑里は光星からの問いかけにそう答えながら、俺と光星の肩に腕を回して歩き始めた。元カノと話すためだけに来たのにそんなんに使う金なんかないやんな。うんうん、分かる。分かるで、侑里。


「侑里くんは一人だけスポーツクラスやのに二人と仲良いなぁ。なんで仲良くなったん?」


俺と光星は侑里に押されながら歩いていたら、姉が俺たちを見て少々不思議そうにしながら問いかけてきた。


「俺が永遠初めて見た瞬間好きになってむっちゃ話しかけに行ってん。なー?永遠ちゃん。」

「あんた永遠にもそんなことしてたん?」

「うん、だってかわいかってんもん。」


…違うやろ。侑里が初めて俺を見たのは多分佐久間との言い合いしてた時やと思うけど。姉の前では気を遣ってくれてるのかそんなことを言っている侑里に俺は何も言わずにふっと笑ったら、そんな俺を見て光星もクスリと笑っていた。


「姉ちゃん、言うたやろ。俺の髪の匂い嗅いでくる変態がおるって。姉ちゃんも気ぃつけな侑里に匂い嗅がれんで。」

「あっ!!そうや、なんか前そんなこと言うてたな。」

「おまっ!!永菜ちゃんにそんな話すんなよ!!……こっそり嗅いだろ思てたのに。」


馬鹿正直にわざわざ言わなくて良いことをボソッと口にし、侑里は姉に『バシン!』と背中を叩かれている。


「侑里わざとしばかれに行ってるやん。お前ほんまドMやなぁ。」

「俺もだんだん分かってきたで、そういう永遠ちゃんかわいい顔してドSやろ。なぁ浅見?」

「はい?どこがやねん。光星にそんなん聞かんといて。」


しまった、姉も居る場でドMだのドSだのという話題を口にしてしまったのは失敗だった。光星は首を傾げて言葉を濁してくれており、俺は自分から言い出した話題のくせに「はいはい、侑里はよ受付行くで」って会話を途中でぶった切った。


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