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「ほらな?こんな事になると思ったわ。」

「は?どういう事?」


永遠は呆れた態度で、困惑気味の浅見に縋るように浅見の腕に触れながら泣いていた芽依を見下ろし、口を開いた。


「失恋して可哀想な自分を慰めてくれるイケメンしっかり用意してたに決まってるやん。」

「うわぁ…。」


永遠のその話に軽く引いていたら、永遠はズカズカと部屋の中に入っていき、「ちょっと」と芽依の肩をトントンと叩いた。

凄いな永遠…、この空気の中、淡々とした態度で入っていける永遠を俺はちょっと尊敬する。芽依の近くに立っている芽依の友達二人に『誰?』と言いたげな視線を向けられているが、永遠は構わず芽依に「ちょっと」と二度目の呼びかけをした。


涙目でチラッと顔を上げた芽依が、永遠の顔を見るなり顔を顰める。


「…なんなの?もう来ないでよ。」

「ちゃうって、光星迎えに来たんやって。もう侑里との話終わったんやからいいやろ、光星返して。」


シッシと芽依に向かって浅見から離れるように手を払う動作をする永遠に、芽依は永遠に向ける目付きを鋭くした。


「返してって…、光星くんは元々あたしたちと遊ぶ約束してたんだけど?」

「ちゃうで?先に約束してたのは俺やで?そこのサッカー部の先輩が侑里をこの場に連れてくるよう頼んできたからってしゃあなし俺が許可したってんで?お前が用あるんは侑里だけのはずやろ?用事終わったんやったら光星はよ返してぇな。」


永遠が『そこの』って顎で先輩を指した瞬間に、先輩はピシッと背筋をピンと伸ばしている。無理矢理浅見に頼んだ自覚があるのか、ちょっとばつが悪そうだ。


「…嫌。そうだとしても部外者が入ってこないで。あんたいっつもあたしの邪魔してなにがしたいの?自分があたしに構われないからってあたしの気でも引きたいの?」

「えっ?」


『あたしの気でも引きたいの?』


そう言われた瞬間、キョトンとした顔で芽依を見る永遠に、何故か芽依に縋りつかれていた浅見が口を押さえて顔を隠すように横を向いた。

…は?浅見もしかして笑ってる?


「…ふふっ、おもろ。お前おめでたい頭してんなぁ。悪いけど俺いくら顔が可愛くても嫌がってる友達に付き纏ってくるような女は嫌いやねん。」


永遠は冷淡な態度でそう言いながら、浅見の二の腕を掴んでグイッと引っ張った。

ソファーからずりっとずっこけそうになりながら立ち上がる浅見の勢いに押され、芽依はその場で尻餅をつく。


「お楽しみのところお邪魔して申し訳ないですけど光星はもう返してもらいますね。あ、お金どうしよ。払わなあかんの?」


芽依に向けていた冷めた態度からころっと一変し、先輩たちににっこり笑みを見せながらそう言った後、浅見に問いかけている永遠に、先輩二人は「あっ大丈夫大丈夫」「気にしなくて大丈夫っす」と愛想笑いを浮かべながらフルフルと首と手を振る。


「そうですか。ほんじゃあ光星もう行こか。」


永遠の態度はさも浅見の分の代金は先輩が払って当然だと言いたげだったのが丸分かりで、永遠は先輩の返事を聞いた後はあっさりした様子で浅見の手を引きさっさと部屋を出て行った。


永遠が浅見を部屋から連れて出て行くと、すぐに先輩二人が焦ったように俺の腕を引き部屋の奥へと連れて行かれる。


「おい、どうなってんだよ!今の誰!?」

「なにがあったんだよ、芽依ちゃんさっき泣きながら部屋戻ってきたんだぞ!?」

「泣きながら戻ってきたって、これくらい予想できたでしょ。俺は最初からより戻す気ないんすから。俺も彼女が外で待ってるんでもう行っていいすか?」

「は?彼女来てんの?まじ?」

「見たい。」


そこ、って永菜が立ってる方を指差すと、先輩は「ああっ!あの子か!」と声を上げた。まさかの把握済みだったのか。


「永遠くん?って人のお姉さんだっけ?試合見に来てくれてた。可愛いよな〜」

「今の眼鏡の男がその永遠くんすよ。」

「…えっ?…ああっ!!そうだ、なんか見たことあると思ったら今の人永遠くんだ、永遠くん!」

「あれだろ?香月が赤点取らなくなった恩人。先生がご機嫌で話してたわ。永遠くん様様だなぁって。」


尻餅をついている芽依を放置して先輩とそんな話を始めてしまったら、突然芽依はその場から立ち上がり、「もういい!!帰る!!」と怒って部屋を出ていった。


「えっ!?芽依!?」

「ちょっと!!!」


その後をバタバタと友達二人も追いかけていき、先輩はポカンと口を開けた間抜け面で出入り口の方を眺めている。


「うわ、全員帰った。」

「まじか。」

「…え、全員分のカラオケ料金俺らが払うの?」

「…まじで?」

「友達二人はさすがに戻ってくるでしょ。荷物忘れてるし。」

「あ、ほんとだ。」


あほな先輩は女三人が部屋を出て行ってしまったことよりもお金の心配をしている。


「芽依の言いなりになってるからこんな目に遭うんすよ、これに懲りたらもう芽依には関わらないでくださいね。俺巻き込まないなら好きにしてくれていいっすけど。」

「いや、だって香月と浅見くん呼んでくれたらこっちも可愛い子呼んでくれるって言うから。」

「でも芽依ちゃんの友達って言うからどんな可愛い子連れて来てくれんのかと思ったけど別に普通の子たちだったな。」

「そりゃ最初から浅見狙いでいく気満々だったあいつがわざわざ可愛い子連れてくるはずないじゃないですか。」

「えっ!?そういうこと!?」

「まじかよ!じゃあ俺ら良いように使われてるだけじゃねーか!!」

「今更気付いたんすか?先輩あほっすね。」


芽依にまんまと利用されていたことにようやく気付き、「クソー!!」と悔しがるあほな先輩たちは、その後鬱憤を晴らすように「歌うぞー!!!」と二人でマイクを持った。


「香月も歌えよ!!」

「俺はもう帰りますよ。せっかくの休みなのに彼女との時間潰さないでもらえますか。」

「クソー!!!俺も彼女欲しい!!!」


マイク越しで叫ぶうるさい先輩の声を聞きながら、俺はさっさと部屋を出て永菜の待つ方へ歩み寄った。


「元カノあっちに泣きながら走ってったよ。」

「どうでもいいわ。俺永菜ちゃんの彼氏やもん。せやからもう元カノの話はこれでおしまいな。」


そう言いながら永菜の手を握ったら、永菜は少し笑みを浮かべてこくりと頷いてくれた。


もう俺はとっくに永菜ちゃんしか見えていないのだから、永菜ちゃんにも同じように、俺だけを見ていて欲しい。

もう次の恋はずっと長く、死ぬまで続きますように…

まだ高校生ながらに俺はそんなことを思いながら、永菜の手を引いて歩いた。


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