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4人でカラオケルームに入ると、侑里は「はぁ〜もうやれやれやわ。」とお疲れな様子でため息を吐きながらどかっと一番にソファーに座った。


「おつかれ。そういやさっき侑里の元カノ、怒りながら帰ってったな。俺のこと『嫌い嫌い!』って言いながら横通り過ぎて行かれたわ。」

「まじ?こっちのセリフじゃボケェ!てちゃんと言うたか?」

「俺そんな口悪ないし言うわけないやん。」

「うそつけ、キレたら普通に言ってるやろ。」

「ガチな話本気出した侑里よりは全然俺なんか可愛いもんやと思う。」

「なんでやねん。」


口の悪さなんて競う必要はないけど、なんとなく俺の中でブチギレた侑里は怖そうだなと思いながら話していたら、侑里の隣に座った姉が横から「侑里くん元カノにはずっと標準語やったん?」と問いかけてきた。

ちなみに俺は侑里の正面のソファーに座り、その隣に勿論光星だ。無意識なのか隙間無くぴたっと隣に座られちょっと姉の目を気にしてしまった。


「あ、そうだ香月さっき元カノの前だけ標準語に戻ってたよな。」

「あー…そもそも標準語喋ろうと思ったきっかけがあいつやったからな。……怖いって言われたし。」


侑里がそう言った瞬間、その場は誰も何も言わず静かになり、しんみりした空気が流れた。恐らく俺も姉も『怖い』と言われてしまう心当たりがあって何も言えなくなったのだ。


「…俺らも気を付けよか、姉ちゃん…。」

「せやな…。」

「…えぇ?べつに香月の関西弁怖くねえけどなぁ。」

「ちゃうねん…多分中学の時は今より性格も尖っててコテコテの大阪弁も出てたんやと思うわ…。同級生にもちょっと敬語使われてたこととかあったしな。」

「敬語…。まあまあ侑里くん…もう過去のことは忘れて思う存分歌い。過去はどうであれ、今の侑里は優しいで。なぁ光星。」

「うん、お前は優しい奴だよ香月。」


侑里の目の前にマイクを置きながら言えば、侑里はマイクを手に取り「お前らありがとう…」とマイクを通して喋り始める。


「お前らにそう思ってもらえてたら俺は十分やわ…。」


侑里がそう言った瞬間、画面には曲の歌詞と共に今流行りの失恋ソングが流れ始めた。曲を入れたのはタッチパネルを持っていた姉で、侑里は「なんで失恋ソング流すねん」と文句を言いながらも歌い始める。


「ウケる、文句言いながらもちゃんと歌うんや。」

「しかも普通に上手くて余計ウケるな。」

「さてはカラオケで歌い慣れてるやろ。」


侑里の歌声を聴きながら光星と笑っていたらギロッと睨まれ、俺と光星は侑里からサッと目を逸らし、二人で食べ物のメニュー表を見下ろす。


「光星お腹減ってへん?なんか食べよか。」

「いいよ、何食べる?」

「からあげ良いなぁ。ポテトも食べたい。」

「どっちも頼んで半分こする?」

「うん!そうしよ!」

「あんたらほんま仲良いなぁ。永遠親戚のお兄ちゃんに遊んでもらってる子みたい。」

「姉ちゃんうるさいで黙っといて。彼氏が今頑張って歌ってはるやろ、ちゃんと聞いてあげや。」


光星と一緒に注文する食べ物を選んでいただけなのに、『親戚のお兄ちゃんに遊んでもらってる子みたい』なんて言われたからそう言い返したら、姉は何も言わずに歌詞が流れている画面の方に目を向けた。

すると侑里は突然口からマイクを離し、姉に顔を向け話しかける。


「あぁっ…永菜ちゃんこの曲辛気臭いわ。もう歌うの止めていいか?」


今が一番盛り上がるサビに入ろうとしていたところだったのに、せっかく上手く歌っていた途中で歌うのに飽きたのか侑里は律儀に姉に終わって良いかの確認をしている。


「ふふっ…いいよ。上手かったな。」

「ありがとう。永菜ちゃんも歌って。」

「私はええわ。永遠と光星くん歌い。」

「俺も大丈夫です。永遠くん歌って。」


カラオケに来たというのにマイクの譲り合いを始めた姉と光星が俺にマイクを回してきたから、俺は適当に自分のお気に入りの曲を入れた。


俺が歌い始めるとマイクの音と同じくらい大きい声で「ハイッ!ハイッ!ハイッ!」「ふぅ!ふぅ!」と侑里が合いの手を入れてくる。きっといつもカラオケに行ったら盛り上げ役をやっているに違いない。


おかげさまで最後まで歌い切ってしまい、とちょっと疲れて「ふぅ」と息を吐きながらマイクを置いていたら、光星がこそっと俺の耳元で『かわいかった』と囁いてきた。

かわいかったん?そんなかわいい曲は歌ってへんねんけどな。って思いながら次は光星に歌ってもらおうとマイクを差し出したが首を振られてしまった。


「光星歌うん苦手なん?俺も下手やし大丈夫やで。気にせんと歌ってな。」

「…人前で歌うのってなんか恥ずい。」

「そうなん?ほなしゃあないな。もっかい侑里に歌ってもらおか。」


はい、って侑里にマイクを渡せば、「また俺かい!もうマイク持っとるわ!」とマイクを2本持ちながら突っ込みを入れているが、姉にまた適当に曲を入れられ問答無用で二曲目を歌わされていた。


姉が歌わない分侑里が姉にリクエスト曲を歌わされ、姉は自分が歌ってないのにめちゃくちゃ楽しそうで満足げだ。


そうして2時間ほどカラオケを楽しんでから店を出ると、「じゃあここからは別行動で。」と言って侑里は姉の手を握った。


「はいはい、デート楽しんできて。」

「香月また明日。」


侑里には二人でそんな声を掛けながらも、俺だって光星と二人になりたいのは同じだ。もしかしたらそれも分かった上で侑里は『別行動で』って申し出てくれたのかもしれない。


「いいなぁ、俺も手ぇ繋ぎたい。」


姉と侑里が普通に手を繋いで去っていく光景がなんだか羨ましく思えてしまい、口からそんな言葉が漏れてしまったが、光星は「繋ぐ?」って俺に手を差し出してくれた。

ちょっとだけ迷って、ちょっとだけ手を握ってから、でも結局人目を気にしてすぐ離してしまった。


「……光星の家行きたい。」


俺の家は今お母さん居るから…って、光星に言えば、光星はクスッと笑いながら頷いてくれる。


彼氏彼女として普通に手を繋いで仲良くする姉ちゃん達を見ていたら、俺だって大好きな光星に、いっぱい触れたくなってしまったのだ。


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