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「あぁ…嫌やわぁ…。なんで貴重な休みに芽依に会わなあかんねん…先週テスト明けずっと部活で休みなくて永菜に会えんかったのに…。」
俺の隣を歩きながら、聞き飽きるくらい香月はぶつぶつ文句を言っていた。期末テストが終わった翌週の日曜日の事だった。
サッカー部の先輩に時間と待ち合わせ場所だけ教えられ、向かった先にはすでにサッカー部の先輩二人と香月の元カノ、それから見知らぬ女の子が二人、楽しそうに話している。
合コンとかいう言葉を口にしていた割には俺を合わせて男4、女3という人数に、まじで俺は香月を連れてくるだけの役割だと思い知らされる。俺だって休日は永遠くんと会いたかったのに…という不満を胸にしまいながら彼らの元へ歩み寄ると、「おーっ香月こっちこっち!」と呼びかけながら手招きされた。香月が。
「なぁ、俺もう帰って良いか?」
「はっ!?なんでやねん!浅見が帰るんやったら俺も帰る!!」
真剣に帰ろうかと思って香月にそう言ったが、ぎゅっときつく手首を掴まれてしまった。俺の手首を掴みながら先輩たちの方へ歩み寄った香月に早くも「ん?」と俺の掴まれた手首を見下ろされる。
「あっ、浅見くんも来てくれてありがとな。」
「香月来てくれたし助かったわ〜。」
「わぁ…かっこい〜…」
先輩にお礼を言われたと同時に女の子たちからもこっちを見ながらそんな声をかけられてしまい、何か言いたそうに香月がジッと俺の顔に視線を向けてきたが俺はまったく悪くないだろ。そんな目で見るならまじで先帰るぞ。
「とりあえず俺今日は芽依と話に来ただけなんで、芽依と話したら帰りますから。」
香月は先輩相手にも関わらず強気な態度でそう言うと、先輩二人は慌てながら「えっ!?まあ話は店入ってからな!」と香月の背を押して一軒のカラオケ店の中へと促した。
「はあ!?カラオケ!?なんでそんなとこ行かなあかんねん、嫌やで俺そんな金ないし!」
「奢る、奢るって!!」
先輩相手でも普通にタメ口関西弁が出ているがあいついつもどういう態度なんだろう。かなり嫌がっている香月を必死で引き止めている先輩たちの姿を眺めていたら、俺の隣にスッと静かに香月の元カノが並んできた。
「浅見光星くんだったよね?今日来てくれてありがとね。光星くんって呼んでいい?」
「え、…あ…はい。」
『ダメです』なんて言う勇気は俺には無かった。なんとなく目を合わせちゃいけない気がして、まっすぐ前を向きながら返事する。
「侑里やっぱ今日来るの嫌だったかなぁ。」
「あー…。彼女いるんでね…。」
「ほんとなの?嘘ついてない?」
「ほんとですよ。」
「証拠は?写真とかないの?」
「それはないですけど。」
一度も目を合わせないまま淡々と返事をしていたら、「ふぅん」と頷き口を閉じた。俺もカラオケ店入らなきゃダメかなぁ….と店の出入り口を前にして入るのを渋っていたら香月の元カノに「入らないの?」と言われてしまった。
「俺香月連れてくるよう頼まれただけなんで…」
「え、ダメだよ。光星くんも来て。」
香月の元カノはそう言って、グイッと俺の手を掴み、引っ張ってきた。うわあああ!!!永遠くんに怒られる!!!と焦った俺は、サッと手を振り払ってしまった。
「あ、すみません。…彼女がいるんで…。」
「…ふぅん。そうなんだ。」
やっぱり違和感あるな。『彼女』なんて言い方をするのは。でもこんな場で彼氏って言えねえしな…。まるで現実逃避するみたいに、そんなどうでも良いことを考えていた。
香月の先輩たちは香月が逃げないように腕を掴みながらカラオケ店の受付カウンターで受付を済ませている。
受付が終わると、一部屋空くのを待たなくてはいけないらしく壁沿いに寄って部屋が空くのを待つが、香月はそんなタイミングで元カノを呼び「芽依、あっちで話すぞ」と声をかけた。
しかし元カノは「とりあえずみんなでカラオケ楽しまない?」と言って香月の呼びかけには応じようとしなかった。
「楽しめるわけねえだろ、俺芽依がちゃんと話そって言うから来ただけだから。まじでどういうつもりで俺と浅見をこの場に誘ったんだよ。」
…あ、香月の話し方が変わってる。雰囲気も全然違うなぁ。相手によってこんなにすぐ話し方が変えられるんだと俺はちょっと感心した。
淡々とした態度で話す香月のその言葉に、元カノはしょんぼりするような表情で下を向いた。そんな香月と元カノの様子を、こっそり横目で香月の先輩や女の子が眺めている。彼らはこの二人の復縁応援隊なのだろうか。
このメンバーの中に紛れる俺って一体…。
早く帰りたいなぁ…と思いながら香月たちの様子を窺っていたら、「姉ちゃん何時間にしとく?」「フリーで良いんちゃう?」というなんか聞いたことのある声が受付カウンターから聞こえてきた。
ハッとしながら声がした方を見れば、変装でもしているつもりなのか黒縁眼鏡をかけた永遠くんと永遠くんのお姉さんが居る。
確かに俺は永遠くんに時間と待ち合わせ場所を話していたけど、さては最初から様子を見に来るつもりだったんだな。
驚きながら永遠くんの方を見ていたら、俺の視線に気付いた永遠くんがこっちを見ながらぺろっと舌を見せてくる。ああっかわいい!!あっちに行きたい。眼鏡姿の永遠くんも好きです。普通に度は入ってんのかな。
…って思いながら永遠くんの方を見ていたら、お姉さんからもチラッと視線を向けられ、お姉さんはハッとした表情を浮かべながらわざとらしくショルダーバッグを両手で持って自分の顔を隠してきた。
…いや、もう遅いですよ、お姉さん。
そもそも二人ともあんまり隠れる気はねえよな。
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