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結局香月の元カノは香月の呼びかけに応じなかったため、一旦諦めてカラオケルームに入室することにした。


むすっと不貞腐れるような顔をしている香月にこそっと「さっき永遠くんとお姉さん来てたぞ」と耳打ちすると、「はっ!?まじ!?」と香月に大声で返事されてしまった。


「ん?どうした?」

「なんでもないっす。帰っていいすか?」

「ダメだってば。」


まだ諦め悪くそんなことを言う香月に先輩はへらっと笑いながら香月をカラオケルームへと押し込む。

俺は出入り口近くのソファーの端にひっそり腰を下ろすとその俺の隣に香月が座り、香月の元カノが無言で香月の隣に座った。


「とりあえず一曲歌いますか!!」

「うえ〜い、お前先歌って。」

「わ〜い!!」

「歌って歌って〜!!」


ちょっと俺にはついていけないノリで香月の先輩たちと香月の元カノの連れの女の子たちがわいわい盛り上がり始める中、香月の元カノの方から香月に声をかけている。


「ねえ、侑里ってあたしのどこが好きだったの?結局顔だけだよね?」


そんな問いかけを突然元カノにされた香月は、元カノの顔をジッと不機嫌そうに見つめたまま暫く口を開かなかった。


「侑里はあたしの性格とか分かってた上で付き合ったんだと思ってた。でも付き合ってみたら自分の理想と違ったから振ったんでしょ?あたしはどんどん侑里のこと好きになっていってたところだったのに…どんどん冷たくなっていってすっごく傷付いたんだよ?」


香月の元カノはそう言って縋り付くように香月との距離を詰め、香月の手をぎゅっと握った。

こんなみんなが居る場で話す内容か?と思いながら俺は横で話を聞くが、こうでもしないと香月に逃げられると思ったんだろう。

香月はてっきりすぐに手を振り払うかと思いきや、その手を振り払うことなく、下を向いて握られた手を見つめている。お前まさかとは思うけどあっさり気変わりすんなよ…?って俺は少し心配になった。永遠くんにキレられるぞ。


「卒業して、高校に入学してからも全然侑里のこと忘れられなかった。いっつもあたしの名前呼んで走ってきてくれた侑里の姿を思い出しちゃう。あたしは侑里のこと大好きだったのに…なんであたしは振られなきゃいけなかったの?」


香月の元カノがそこまで話したところで、香月は苛ついたように「チッ」と舌打ちをして、握られた手を掴み返して立ち上がった。


「浅見、やっぱここやと音うるさくて気ぃ散るし外で話してくるわ。」

「あ…うん、行ってらっしゃい。」


香月は俺にそう告げて、元カノの手をグイッと豪快に引っ張って部屋を出て行った。堪忍袋の尾が切れたのかな。そもそもこんなメンバーでカラオケに誘うなんてどうかしてるだろ…ってサッカー部の先輩の方に視線を向けるが、一人は気持ち良さそうに歌を歌っており、もう一人はタッチパネルを持って曲を選んでいる。呑気な人たちだなぁ…。


さてと…俺はラインでも送っときますか…と永遠くんに【 香月と元カノ二人で部屋出て行った 】と報告ラインを送信する。

俺は諜報員かよ…と一人でひっそり心の中で笑っていたら、俺の隣の空いた空席に女の子が二人おずおずと座ってきた。


「芽依、復縁できそうですか?」

「えっ…、いやぁ…それはどうでしょう…。」


無理だろ…永遠くんのお姉さん居るし…と思いながらも首を傾げて曖昧な返事をすると、彼女たちは心配そうに「あの子ああ見えて結構一途なんですよ…」と話してきた。


「そうなんですか…」


まったくそうは見えないんですけど…
第一女の友達居るのに香月に会いに来る時男連れてたし、そういうところがまず問題なのではなかろうか。


「ただちょっと男好きが過ぎるから気をつけた方が良いって言ってるんだけど、なかなか制御できないみたいで…。」

「ああ…、そうなんですね…。」


『やっぱ男好きやったんかいッ!』って、俺の頭の中で永遠くんがツッコミを入れてきた。ついそんな永遠くんを想像してしまい、ふっと笑いそうになるのを堪える。


「彼氏はすぐできたりしてたんだけどあんまり長く続かなくて、やっぱり侑里くんのことが忘れられないみたいでこの前の決勝戦の試合見に行ったら侑里くんへの好きが再燃しちゃったんだって。」


しんみりとそう話してくれる女の子だが、また俺の頭の中では『彼氏すぐできたりしてたんかーい!』『それって一途って言うんかーい!』と永遠くんの声で再生されてしまった。

やっ、やめろ永遠くん…!
俺の頭の中でツッコミを入れるのはやめてくれ…!


仮にほんとに一途だったとしても、その話を聞いただけではとても一途には思えないし、結局は決勝戦を見に行ってみたら活躍していた香月がかっこよかったからまた付き合いたくなったとかいう軽いノリのように思えて仕方がない。


香月の元カノの友達の話し方はなんだか悲壮感漂っている感じがして、俺は今“恋に報われない可哀想な友人の話”を聞かされているようだけど、俺の頭の中にいる永遠くんがずっと『知らんがな』と言い続けている。


「また中学の頃の恋リベンジしたいみたい。」


いや、知らんがな。

…おっと、いかんいかん。


永遠くんが口にしていた言葉は結構俺の耳に残り続けてしまうから、俺の口からも思わず『知らんがな』が出そうになってしまい、グッと言葉を呑み込んだ。


無意識に永遠くんの口癖やよく聞く言葉を言ってしまいそうな自分が怖いな。って、全然関係ないことを考えながら、俺は「はぁ」という気のない返事をし続けた。


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