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期末テストが終わってすぐ、恐らく3年のサッカー部らしき人が二人で俺を訪ねてきた。
「このクラスに浅見くんって居る?」
直接声をかけられていた廊下に近い席のクラスメイトから「浅見くん呼ばれてるよ」と言われて廊下に出ると、「あっ!浅見くん?」と顔を見るなり手招きされ、廊下の端へ連れて行かれる。
香月の元カノ関連だろうなぁ…と、レオくんからそんな話を聞いていたからすでに想定できてしまい、チラッと振り返り教室の中にいる永遠くんへ視線を向けると、眉間に皺を寄せた不機嫌そうな表情でジッとこっちを窺っていた。
そんなに不機嫌そうにしなくてもちゃんと断るんだけどなぁ…と思いながら、前を向き先輩の話に耳を傾ける。
「俺ら香月と同じサッカー部の3年なんだけど、浅見くんって香月の元カノに会ったことあるよな?芽依ちゃんって子。その子がどうしても香月とちゃんと会って話したいって言ってるんだけど、あいつ俺らじゃ多分言っても来ねえからさぁ、今度俺ら芽依ちゃんと遊ぶ約束してるからそこに香月を連れてきてもらえねえかな?」
「えっ?…俺もその集まりに参加するってことですか?それとも香月を連れて行けば良いだけですか?」
「あっ、浅見くんも来てってこと!向こうも女の子連れてきてくれるから合コンみたいな感じ!」
「えっ…と、それはちょっと無理ですね…。すみません。」
先輩の口から『合コン』というワードが出てきてなるほどな、と納得してしまった。そりゃこんな面倒なこと、可愛い子の頼みだからと言っても何かメリットがないとわざわざ頼まれてやるわけがない。
当然俺は断ったものの、先輩二人は俺の目の前で「えーっ!」と声を出し、「そこをなんとか!」と両手を合わせて頼まれてしまったが無理なものは無理だ。
「…俺付き合ってる人居るんです。すみません。」
うわぁ…初めて人に言ったな。『付き合ってる人いる』って。なんか口に出すだけでちょっと照れ臭い。
「あっそうなんだ!?でも大丈夫大丈夫、浅見くんはただ香月の付き添いで来てくれれば良いから!」
「えぇ…、いやぁ…でも…。」
「だってさぁ、香月そうでもしなきゃ芽依ちゃんに取り合ってくんねえだろ?な?頼むわ。まじ、浅見くんだけが頼り。」
3年生ということもあり、全然引く気が無さそうな態度でその人たちは俺が何度断っても頼み込み続けた。
「…じゃあ、ちょっと…彼女に相談してみてからでいいですか。」
彼女っつーか、永遠くんだけど。彼女って言葉は口に出したらめちゃくちゃ違和感あるな。でもそう言うしか思いつかず、言ってみたら「今聞いて」と言われてしまったため、その場で永遠くんにラインを送った。
すると永遠くんからはすぐに返信がきた。
【 OK 】
予想外の返事に思わず「えっ」と声が出てしまった。『いいんだ!?』と教室の中にいる永遠くんへ視線を向けたくなるが、その前に先輩に話しかけられる。
「え、なに?良いって?」
「あ、はい。良いそうです。」
「おお!じゃあ日にちと場所はまた決まったら言いにくるわ!」
「とりあえず浅見くんは香月引っ張ってきてくれたらそれでいいから!」
俺の返事に気を良くした先輩は、そう言いながらひらりと軽く手を振って去って行った。ひどい人たちだなぁ。俺にはまったくメリットないのに。
よく知らない人たちの中に香月を連れてこいって、ただパシられてるだけだよな、俺。自分たちの後輩だろ、自分たちで連れて行けよ。…と思うものの、それができたら俺に頼む必要もないか。
面倒だけど、永遠くんからのOKが出てしまった以上もう行くしか無い。
俺の顔にはそんな不満が出ていたからか、教室に戻り永遠くんと顔を合わせると、いつも俺より不機嫌な顔を出して怒っている永遠くんが珍しくふっと笑ってきた。
「ほな侑里にはちゃんと決着つけてきてもらおか。」
「…なるほど、だからOKしてくれたんだ。」
「当たり前やん。なんやと思ったん?」
「あっいや…俺が行くのは反対されるかと…。」
「反対して欲しかった?でもめんどくさいしもう侑里と元カノ話す場設けられたらなんでもいいわ。侑里にはさっさと元カノと話してもらってさっさと二人で帰っておいで。」
「…そうだなぁ。とりあえず香月に話さなきゃだな。香月来てくれんのかなぁ…。」
「決着つけてこい言うたら行くやろ。」
その後俺と永遠くんは香月にその話をしたのだが、永遠くんが言っていた通り、香月には永遠くんから話してもらうと、二つ返事で了承してくれた。
そもそも、いつも永遠くんには忠誠を誓っているような態度の香月が永遠くんの言うことを聞かないはずがないのだった。
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