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翌日の月曜日から4日間、午前中のみテストは行われ、初日のテスト終了後はさっさと帰宅して家で勉強したけど、2日目から侑里が寮の自室では集中できないと言うから、下校時間まで俺と光星は侑里と一緒に教室で勉強してやることにした。


侑里と同じく寮生活をしているらしいレオくんもそれだったら俺もやって帰ろうと、俺、光星、侑里に珍しくレオくんも加えて、4人で特進クラスの教室であまり会話をしないように距離を空けて着席して勉強する。


けれど、はじめは真面目に勉強していたのに15時を過ぎたあたりから、スポーツクラスの二人は眠そうにあくびをしてだれ始めてしまった。


「あー疲れた。」

「日本史覚えられた?」

「覚えられてるかは分からんけど覚えた。」

「分かる。俺も。」


え?分からん分からん。どういうこと?『覚えられてるかは分からんけど覚えた』?それはつまり覚えられてない可能性もあるってことやんな?


侑里と玲央くんの会話につい頭の中でそう考えてしまい、覚えているのかを確認するために「問題出してあげるわ。」と口を挟んだ。


テストで聞かれそうな事を問いかけてみるが、侑里は真面目な顔をして頓珍漢なことを言っている。玲央くんはそこまで頭は悪くないのか7割くらい答えられていたけど、侑里が答えられたのは運良く当たったかのような1問だけだった。


「侑里赤点決定やな。」

「嫌やぁ〜!!」

「俺の教科書貸してあげるわ。全部覚えようとしてもどうせ覚えられへんねんからそこのマーカー引いてるところだけ読んで覚えて。」

「永遠ちゃぁ〜ん…!好き!」

「えっ!いいな!俺も見せて!!」


侑里に教科書を渡すと、レオくんも飛びつくように侑里の方へ椅子を引っ張って二人で教科書を覗き込み、レオくんは自分の教科書にもマーカーを引き始めた。


再び勉強を再開した二人はとりあえず一時間ほど頑張ってみるが、また途中で疲れたのか侑里はバタンと机に顔を突っ伏してしまい、レオくんも「疲れたな…」と話している。


「永菜ちゃんに会いたい…。」


そして侑里は完全に集中力が途切れてしまい、そんなぼやきまで言い始めてしまった。今まで黙々と勉強していた光星もそこで手を止め、侑里を見ながらクスッと笑っている。


「そう言えば芽依ちゃん浅見くんのことちょっと気になってるっぽいよ。」

「え?俺?」

「うん、先輩が香月と仲良いイケメンの名前なに?ってサッカー部2年の奴に聞いてきたらしい。仲良いイケメンって浅見くんかなぁ?って話になってるんだけど多分芽依ちゃんがそれ先輩に聞いてるんだと思う。」


ふと思い出したようにレオくんが光星にそんな話をした瞬間、侑里の視線が俺へと向いた。俺は思わずムッとした表情を見せてしまうが、侑里は何も言わずにレオくんの方を向く。


「ほんで先輩に浅見の名前は言うたん?」

「言ってると思うよ、クラスとフルネーム。」

「うわ、絶対芽衣、先輩から浅見の連絡先聞き出す気やわ。」

「はぁ!?あかんに決まってるやん!なんで侑里に復縁迫ってる奴が光星にまで目ぇ付けんねん、自分が通ってる学校にイケメンおらんのかいな!!」


侑里の発言に俺は少しカッとなって、教科書をバシッと机に叩きつけながら口を挟めば、レオくんを驚かせてしまったようで目をまん丸く見開きながら視線を向けられた。びっくりさせてしまって申し訳ないが、侑里の元カノが光星のことを探っているなんて話を聞いて俺が冷静で居られるわけがない。


「そりゃ勿論自分の通ってる学校の男はすでに手玉に取ってるに決まってるやん。」

「そんなに男手玉に取りまくってるやつがなんで侑里と復縁したいん?侑里のどこがそんなに良いんや?」

「せやからそれは俺が一番聞きたいって言うてるやん!!」


べつに侑里が悪いと言っているわけではなく、侑里の良いところは勿論ちゃんと分かった上で素朴な疑問が口から溢れると、侑里に半笑いで言い返された。釣られるように光星とレオくんもクスッと口を押さえて笑っている。


「じゃあもう直接聞いてきて。俺のどこがそんな良いん?って。一回ちゃんと会って話して、彼女もできたしやり直すつもりは無い、ってきっぱり言ってきたらいいやん。ついでに光星も彼女居るって言ってきて。」


その“ついで”が俺の中ではメインの頼みだけど、そんな俺の発言にレオくんが「えっ!?浅見くん彼女いたの!?」と驚きの声を上げた。

またまんまるく見開いた目で今度は光星に視線を向けられ、光星の顔がカッと赤くなる。


「あっ…いや、その…」と狼狽えながら光星の目がチラッと俺へと向けられた。


「あ、レオくん俺やで!付き合ってんねん。」

「えぇっ!?ああっ!そういうこと!?」

「永遠そんなあっさり言うていいんか。」

「侑里の友達くらいはいいやん。嫌やった?」


勝手に言ったあとにもう遅いけど、光星に聞けば光星は赤い顔をしたままフルフルと首を振る。


「永遠くんの好きなようにしてください…。もう俺すでに永遠くんのこと好きって周りにバレまくってるんで。」

「うん、そうやと思った。クラスの人らもなんかいろいろ察してる気ぃするしな。」


俺は日頃から薄々感じていたことを光星に言えば、光星は恥ずかしそうに口を押さえて黙り込んでいた。今だから言えるけど、やっぱ光星って分かりやすい。


「永遠はかわいい顔してあんまり物怖じせえへん性格やな。」

「かわいい顔は関係ないで。俺結構我が強いから自分がこうしよと思ったことはそうしな気が済まへんねん。ほんま困った性格やわ。嫌いにならんといてな。」


まあ嫌いになられる前に俺が努力しなきゃいけないんだけども、と思いながらも光星の方を見ながら言えば、光星は口元をゆるゆると緩めて「なりません。」と言って頷いてくれた。

そんな光星はレオくんに、「浅見くん良かったね〜」と声をかけられている。元々レオくんも、光星が俺を好きって知っていたから言えることなんだろう。


一度そんな会話を始めたらその後ずっと会話は続いてしまい、集中力が完全に切れてしまったところでもう帰ってから勉強しようかと俺たちは勉強を止めて帰宅したのだった。


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