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「俺光星ってもっと奥手な人かと思ってた。光星が共学校行ってたら絶対今頃かわいいJKといちゃいちゃしてるわ。想像できるもん。」


永遠くんはベッドに凭れかかってコンビニで買ってきたスナック菓子をむしゃむしゃと食べながらそんなことを話してきた。


「光星くぅん!ぎゅってしてぇ!ってもし今かわいいJKが甘えてきたらどうする?断れる?」

「今の永遠くんめちゃくちゃかわいかった。もう一回やって?」

「光星くぅんぎゅっとして?」


お菓子で汚れた指をぺろっと舐めたあと、ちょっと大袈裟にぶりっこするように小首を傾げて言ってくれた永遠くんがやっぱりめちゃくちゃかわいかった。

顔に手を当ててバシバシッと絨毯を叩いて悶えたら永遠くんはそんな俺を見てクスッと笑っている。


「まあ今のところ大丈夫そうやな。でももし浮気されたら俺多分泣きながらキレると思う。」

「永遠くん泣かすようなことしないって。」

「あとなぁ、かわいいJKが好意剥き出しで光星に近寄ってきたらおんぶバッタみたいに張り付いて牽制したる。」

「ふふっ…かわいい。」


俺にJKが寄ってきたらそんなに嫌なのか、永遠くんはさっきからそんな話ばっかりだ。かわいい永遠くんの頭に手を伸ばして髪を撫でるとちょっと大人しくなった。


「…食べる?」


スナック菓子の袋を俺の方に向けてくれるからお言葉に甘えて1つもらうと、またむしゃむしゃとお菓子を食べ始める永遠くん。


ゲームが好きで、お菓子が好きで、子供っぽいところもあるけど勉強は俺よりできて、賢くて、そういうギャップに惹かれたりもする。

この前の中間テストで返却時に点数を永遠くんに聞いてみたらあんまり人に言いたくなさそうだったけど、75点がクラス平均のテストで93と書かれたテストをチラッと見せてくれた。

さすがだなぁと思ったのは言うまでもない。


「あ、そうや。なぁなぁ光星、夏休みになったら一緒に京都行かへん?」

「えっ、うんいいよ!行きたい。」


突然の永遠くんからの誘いに少し驚きながらも迷わず頷いたら、永遠くんは「やった〜」と嬉しそうに笑った。『やった〜』はこっちのセリフだ。俺も永遠くんと行きたいと思っていたのだ。永遠くんが育った場所を案内してほしい。


「友達が帰ってこい帰ってこいってうるさいねん。どこに帰んねん、もう京都に俺の家無いのに。」


永遠くんはそう言って笑っているが、多分友達は永遠くんがいなくなって寂しい思いをしているのだろう。俺ももし今、また永遠くんが転校するってなったら寂しくて暫くは立ち直れなさそうだ。


「この前見せてくれた写真でよく一緒に写ってた友達?」

「そうそう、イケメンの友達できたって光星のこと自慢したらラインでキレられたわ。俺は寂しい思いしてんのになんやねん!って。あいつ俺のことほんま好きやな〜。今なにしてんねやろ、ちょっとラインしたろ。」


永遠くんはそう言いながらスマホを持ち、カシャッと内カメラで自撮りし始めた。


「えっ、写真送んの?」

「うん、毎回送ってって言われんねん。元気な俺の顔が見たいらしいわ。」


…えぇ、なにそれ、男友達だよな…?
友達に毎回写真送ってとか普通言う?

俺はその永遠くんの友達の、永遠くんを思う気持ちを“恋”じゃねえのか?と疑ってしまった。


「いいなぁ、じゃあ俺にも毎回写真送って。」

「俺の写真欲しい?」

「欲しい。」

「じゃあ光星が送ってくれたら俺も送るわ。」

「……やっぱいいや。」

「なんやねん、送ってくれへんのかい。」


べつに俺は毎日永遠くんと一緒に居るし。
実物見れたら満足です。…って、写真を送るのを断った俺にツッコミを入れたあと、友達へのメッセージを打ち始めた永遠くんを抱き寄せて、後ろからスマホ画面を覗き込んだ。


【 郁馬なにしてんの〜?元気〜? 】


そんな永遠くんが送ったメッセージにはすぐに既読がついた。“郁馬”というのが友達の名前のようだ。


【 元気じゃない暇。
とわ早く帰ってきて 】


「返信はっや、まじで暇なんやな。」

「毎回『帰ってきて』って言われてねえか?」


後ろから手を出してスマホをスクロールし、ラインのやり取りを覗き見すると、その友達からのメッセージには【 帰ってきて 】とばかり書かれている。


「長期休みに入ったら会いに行くって言うてるんやけどな。『俺んちに住め』とか言うてくるから郁馬ガチで俺を京都に引き戻そうとしてる。」

「えぇ…、戻んねえよな…?」

「うん戻らんよ、安心してな?また転校しろとか言われたら俺も寮入りたいわ。」


一瞬本気で心配してしまい問いかけると、永遠くんは俺の方に身体ごと向けてギュッと抱きつきながらそう言ってくれた。


「そんなに俺と居たいんやったら大学受験で郁馬がこっち来たらいいねん。」


俺の胸元に耳を押し付け、俺の身体に凭れかかりながら文字を打ち始めた永遠くんの手元はもう見れなかったけど、多分口に出したことをそのまま送信してそうだ。


「永遠くんがそう言ったらほんとに来そうだな。…その郁馬くんって人。」

「来るかな?高校もめっちゃ頑張って勉強して俺と同じとこ入ったしな。ほんまに来たりして。」


永遠くんは友達の話をなんてことない感じで話すけど、聞いてるこっちからすればその友達は、本気で永遠くんのこと好きなんじゃねえの?と疑ってしまうのだった。


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