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「今日侑里くんの元カノ見に来とったで。」


家に帰ってから姉に侑里の応援に行ってきた感想を聞いたら、予想の斜め上を行き過ぎている返事が返ってきた。


「へ?元カノ?見たん?」

「うん、見た。」

「なんで元カノって分かったん?」

「でかい声で喋ってはったから。侑里かっこい〜とかキャーキャー言われてはったわ。やり直したい〜とかも言うてはった。」


そう話す姉の態度は、いつも以上に淡々としている。まあ所詮元カノやろ?今侑里の好きな人は姉ちゃんやから元カノが何て言うててもどうでもいい話やな。って思いながら俺は「どんな感じの人やった?」って何気に興味を持ちながら聞くと、姉はスパッと一言、真顔で答えた。


「ウェイ系ギャル。」

「うわぁ。姉ちゃんと全然タイプちゃうな。」

「むっちゃ細い足出してミニスカ穿いてはる美人さんやったわ。私の恰好これやで?」


そう言って姉は、劣等感でもあるのかどシンプルな自分が今穿いている九分丈のデニムを指さす。悔しいなら自分もミニスカ穿けばいいのに。


「いいやん。俺は姉ちゃんの恰好好きやで?」

「ありがとう。永遠は男ったらしみたいなギャルとは付き合わんといてな。」

「…え、…う、うん分かった。」


侑里の元カノが姉の苦手なタイプだったのか、めちゃくちゃ嫌そうな顔をして俺にまでそんなことを言ってくるが、俺にはすでに永遠たらしな光星くんという彼氏がいる。ギャルとは付き合わんから心配しんといて。っていう気持ちで、姉の言葉に頷いた。


「ほんで侑里とはなんか喋ってきた?」

「試合前に一言声かけてきたで。」

「おおっ!終わった後は?」

「準優勝おめでとうって言ってから帰ろうかと思ったけど元カノさんが話しかけようとしてはったから諦めて帰ってきたわ。」

「ええ!?なんで諦めんの!?侑里は元カノより姉ちゃんから声かけて欲しかったに決まってるやん!」


俺の言葉に姉はふふっと笑うだけで、もう興味なさそうにスマホをいじり始めてしまった。

分かりにくい。
姉の気持ちが、分かりにくすぎる。

試合には一人で見に行ってくれたものの、それは俺と光星が見に行けない代わりに行ってくれたようなものなのだろうか。

やっぱり姉にとって侑里は、俺の友達という目で以外は見れないのだろうか。


「そうや、侑里におつかれは言うたけどおめでとうは言うてなかったな。ラインしとこ。」


ほらほら、俺も送るんやから姉ちゃんもまだやったら送ってあげや?ってチラッと姉に視線を送ってから侑里へのラインを送ったら、返ってきたのは【 電話していい? 】だった。


おお、なんやろ。【 いいで 】って返信しながら自分の部屋に行くと、その直後侑里から電話がかかってきた。


「もしもしどうしたん?試合おつかれ。残念やったな。」

『おう、しゃあないわ。相手強かったし。』


疲れてるのか、そう話す侑里の声に元気は無い。まあ決勝戦やもんな。って頷いていたら、『永遠…それより最悪なことがあった…』と侑里はさらに元気の無い声で話してきた。


「なに?元カノ来た話?」

『はっ!?なんで永遠が知ってんねん!!』

「姉ちゃんが言うてたで。」


そう告げた瞬間に侑里は言葉を失い、返ってきたのは大きなため息だった。


『…なんで永菜まで俺の元カノって知ってるん?』

「でかい声で喋ってはったらしい。」

『……はぁ。最悪や。まじで嫌い。』


話したかったのは元カノの話で多分合っているようで、侑里は俺から聞いた話に再び大きなため息を吐いた。


『永菜と喋りたかったけど永菜さっさと帰ってしまったから俺のことどう思ってるやろ?って気になってさりげなく永遠に聞いてみよと思って電話しただけやのに…。』

「準優勝おめでとうって言いたかったみたいやけど元カノが侑里に話しかけようとしてたから諦めて帰ってきたらしいわ。」

『……ンンン〜〜ッ!!!ちょっ、なに!?痛い痛い!!!』


そんな俺の話を聞き、侑里は泣きそうな声にも思える唸り声を出した。そして誰かと一緒に居るのか、何かを殴るような音が聞こえてきたあとに、誰かの痛がるような声まで聞こえてきた。


「侑里今なにやってんの?誰かといるん?」

『……サッカー部でプチ祝賀会してる。』

「あ、そうなんや。まあ楽しんできて。」

『……ありがとう。また話聞いてな。』

「うん分かった。いいよ。」


最後まで元気の無かった侑里に頷いたところで、侑里との通話を切った。

侑里の中では、元カノの所為で姉との時間を邪魔されたという気持ちがしっかりあるようだ。

侑里の元カノなんて無視してサクッと話しかけてから帰れば良かったのに。なんて俺は姉に対して思うものの、姉なら遠慮して帰りそうな性格なのも分かっている。


侑里との電話を終えてまた自分の部屋を出ると、姉はさっきと変わらない状態でスマホを触っていた。


「侑里今祝賀会してるんやって。」

「ふぅん、そうなんや。」

「姉ちゃんもなんかライン送っといたげてな。」


あぁ…もう口出しするつもり無かったのに侑里が元気無かったからつい言ってしまった。


「うんまあ気が向いたらな。」


…うわ、その返事、絶対送らへんやつや。

ツンとした態度で言われ、やっぱり余計な口出しするべきではなかったか?とちょっと後悔する。俺がほっといた方がまだ姉は自分からメッセージを送っていたかもしれない。


しかし姉よ、ひょっとして侑里の元カノの存在かなり気にしてないか?と俺はこっそり姉を横目で観察した。

それも相手は自分と全然タイプが違う、ウェイ系のミニスカ美人ギャル。

劣等感を持ったようなことを口にしてきた姉の発言にも今更ピンときて、俺の中ではそんな発想が浮かんだ。


「そう言えば俺この前侑里にちらっと元カノの話聞いてしまったんやけど、どうでもいい人の話したくないって嫌がられたわ。せやし今日試合見に来られたのもかなり嫌やったっぽいな。」

「ふぅん。そうなんや。」


な?姉ちゃん分かるやろ?今の侑里は姉ちゃんしか眼中にないねん。

侑里は意外と真面目な性格してる。それはサッカーのことだけでなく勉強でも同じで、恋愛も多分同じ。全部に対して結構真面目。おちゃらけてる時も多いから気付きにくかったけど、俺は学校で侑里と過ごす時間が増えていく毎に侑里の性格が徐々に分かってきた。

侑里はめちゃくちゃ真摯な性格してると思う。

俺はそんな侑里のことが好き。

今では姉ちゃんにも、そんな侑里のことを好きになって欲しいと思ってる。


「……侑里元気無かったから、姉ちゃんが励ましてくれたらすぐ元気出ると思うねんけどな…。」


でも姉があまりに侑里の話に興味なさそうな返事をするから俺はちょっとずるい作戦に出て、哀愁を漂わせる態度で独り言を言うようにそう口にしながら、姉の前から立ち去った。


優しい姉のことだから、『元気がない』なんて言葉を聞いたら、ちょっとくらいは侑里のことを気にしてくれないだろうか。

一言でも良いから姉ちゃんが声をかけてあげるだけで、侑里はめちゃくちゃ喜ぶのになぁ。


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