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「あ!光星くんいらっしゃぁ〜い。」


日曜日の午前10時過ぎ、インターホンの音が鳴ったと思ったら、母親が光星を家の中へ迎えていた。


「こんにちは、お邪魔します。」


礼儀正しく挨拶する光星を前にして、母親はいつも以上にニコニコしている。いつもなら姉も張り切って部屋から出てきそうなのに、今日は朝食を食べてからずっと部屋に篭っている。

休日に光星と一緒に過ごすのが当たり前になってきたが、今日は姉もバイトが休みで家に居るだろうと侑里にも声をかけてみた。

しかし残念ながら侑里は用事があるらしい。準優勝のお祝い会でもしようかと思ったけど、もしかしたら他の友達にお祝いしてもらうのかもしれない。


今日は家に母親と姉がいるから光星とやらしいことするわけにもいかず、俺の部屋の中に光星を招いて大人しくキスだけして我慢した。


「7月入ったらすぐ期末テストだけど、サッカー部全国行ってたら香月期末どころじゃなかったな。」

「いや、逆かもしれんで。もし赤点とってしまって部活禁止にされたら香月侑里不在の全国出場やったかもしれん。」

「ふふっ…そのパターン最悪じゃん。」


笑い話のようにそんな侑里の話をしながら、スクールバッグの中から試験範囲の書かれたプリントを取り出す。


「範囲広いなぁ。うかうかしてたら俺もやばいかもしれん。」

「俺もだわ。最近自分の浮かれっぷりが半端ない。」


そう言いながら光星は、絨毯に座る俺の横に身を寄せるように座り、俺の手に持つプリントを覗き込んできた。光星の顔にチラッと目を向けたら目が合い、近距離にある光星の唇にチュッと俺からキスする。

そこに光星の唇があったから、キスするのが当たり前のような流れでキスする。浮かれっぷりは俺の方がやばい。

1回のキスでもっとしたくなってしまい、続けて光星の方を向いて身体に手を添えて、少し光星の身体の上にのし上がる勢いでキスしようとしていたら、部屋の外から「永遠〜」と母親の俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

思わず「チッ」と舌打ちしてしまい、光星にクスッと笑われる。

渋々光星から距離を取り、「なに?」って声を張り上げて返事をしたら、すぐに母親が俺の部屋の扉を開けた。


「これから買い物行ってくるけど晩ご飯なにがいい?」

「なんでもいい!」


ちょっとキレ気味に返してしまい、「あ〜そう?邪魔してごめんごめん」と言いながら母親は扉を閉めて去っていった。

ほんま、邪魔しやがって…と扉を睨むように見つめていたら俺の隣でまた光星がクスッと笑ってくる。いきなり入って来られないだけまだ良いけど、えろいことなんてしていたら大変だ。

買い物ゆっくり行ってきて。って言いたいところだけど、母親が出かけたところで今日は家には姉もいる。


光星に触れたくてうずうずする気持ちをなんとか抑えていた俺だったが、それから暫くして部屋の外から聞こえてきた母親と姉の会話に、俺は「ん?」と反応した。


「あれ?永菜出かけるん?」

「うん、友達とご飯行ってくる。」

「友達できたんや、良かったやん。」


おお、姉ちゃんも出掛けるん?

べつにそこまで尿意があったわけではないけど、トイレに行くついでに見せかけて二人のやり取りを窺おうと部屋を出る。

そこには、珍しくスカートを穿いて髪をセットし、おしゃれしている姉がリビングに立っていた。


「姉ちゃん出掛けるん?」

「永菜友達とご飯やって。」

「友達できて良かったな。」


いっつも俺に友達ができて友達と遊べることに羨ましそうにしていたから、俺も姉に友達ができたと聞いて母親が言ったことと同じ言葉を向けるが、姉の反応は悪く無愛想に「うん」と頷くだけだった。

なに?その返事。怪しない?

姉は耳につけたイヤリングをいじいじとイジりながら俺からそっぽ向いた。今日の姉ちゃんはやけに可愛い恰好をしている。

バイトに行く時やショッピングに行く時は大体昨日穿いていたようなデニムパンツ姿が多いのに。


「……男か?」


もしかして友達って、男やろ。

俺はトイレに行こうとしていた足を台所の方へ方向転換し、冷蔵庫の中から麦茶を取り出した。コップに麦茶を入れ、ゴクゴクと飲みながらチラッと姉を観察する。


「永菜晩ご飯はいる?」

「それまでには帰ってると思う。」

「分かった。ご飯なんでもいい?」

「いいよ。」


母親とそんな会話をしながら姉は一瞬チラッと俺を見たが、その後何も言わずに肩にショルダーバッグをかけて玄関の方に向かっていった。


「姉ちゃん友達って誰やろ。男やったりして。」


姉が出掛けて行ったあとに俺は母親にそう話しかけてみると、「え〜?うそやん〜」とか言ってニヤニヤし始めた。

姉は高校時代にも彼氏が居たかもしれないけど、俺には絶対にそんな話はしない。でも母親には言ってるかも。

理想のタイプとかの話はしたりするけど、実際の話は全然俺にはしてこない。『強いて言うならトウヤくんが気になる』なんて話もしてたけど、それも本当か怪しい。ほんとは光星のお兄さんのことが気になってるかもしれないけど、俺には絶対言わないと思う。



姉が出掛けてすぐ、母親も買い物へ出掛けていった。

光星と二人きりになった家で、俺はダッと走って自分の部屋に戻ると、光星は静かに俺の授業ノートを見ていたけど、「ん?」と勢い良く部屋に戻ってきた俺を見上げる。


「光星くん!ベッド!イン!」

「えっ!?」


そんな言葉と共に勢い良くベッドの上にダイブした俺を、光星はふっと笑いながら目を向けてきた。


「こーへんの?今チャンスやで?」


光星に向かって両手を広げながら言えば、光星はそんな俺の行動が面白かったのか笑いながらベッドの上に上がってきて、俺の顔の横に手をついて覆い被さった。


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