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それ以来湊から俺に話しかけてくることは無く、ずっとムスッとした表情で過ごしている。
「おいおいお前ら喧嘩した?一条めっちゃ不機嫌そうにしてるけど。」
自分の席で静かにスマホをいじっている湊の様子を伺いながら、クラスメイトがコソッと俺に話しかけてきた。
「あー…まあ喧嘩っつーほどのことでもないと思うけど…」
…ん?いや、喧嘩なのか?
いやいや、湊が気分害して不機嫌なだけだろ。
「こえーんだよなぁ、あいつの機嫌悪い時。話しかけてくんなオーラ出てるし。」
「話しかけなくていいんじゃね?」
「まあそうなんだけどさ、気ぃ使うじゃん?」
「いやほっとけばいいと思うぞ。」
女子からチヤホヤされてる分、男子は湊には強く出られないらしい。よって、湊関連のことになるといつも俺を頼ってくる。
「そう言わずにさ、翼なんか話しに行けって。」
「はあ?なんでだよ別に今湊に用事ねえよ。」
「今日の体育スポーツテストだろ、俺一条とペアなんだよ。」
「ああ、だからお前ビビってんだ?」
なるほどな。なんでこんなに必死なんだと思ったら。笑い混じりに言えば、そいつから「そうだよ!だから頼むぞ翼!」とポン、と肩に強く手を置いて頼まれてしまった。
…いやいや、俺に頼まれましても。
人間誰しも機嫌が悪い時くらいあるだろうが。
まあ俺の発言が原因だろうから軽く謝っとくか?とチラリと湊に目を向けてみれば、それと同時に俺からの視線を避けるようにフン、とそっぽ向かれた。
…まじか。
どうやら機嫌が悪いだけではなさそうだ。
これはもしや、シカトパターンかもしれない。
長引くとめんどくせえから早めに手を打っとくか…
「湊、自販機行こうぜ。」
まずはいつも通り、何事もなかったように話しかけた。自販機に用なんて無いけど適当に思いついた言葉がそれ。
しかし湊は「一人で行ってこいよ。」と素っ気なく吐き捨ててきた。シカトされないだけマシか。
「なんか怒ってんのか?ケーキ屋女子と行くの嫌だったか?」
さてどうしようかと、今度は湊が機嫌を損なった原因である内容に触れてみる。
「別に。仲良くもねえやつと行くくらいなら翼と行くって思っただけだし。でもお前が行くの嫌ならもう誘わねえよ。」
ひたすらムスッとした顔で、湊はそっぽ向きながら答えた。
なるほど。湊は俺がケーキ屋行くの嫌だと思ったわけか。嫌とは一言も言ってねえんだけどな。ケーキ食うのは嫌だけど。
「行くの嫌って言ってねえぞ?お前と行きたいやつはいっぱい居る、って話ししてただけじゃん?」
「は?そんなの知るかよ!俺は翼と行くっつってんだろ!でもお前が嫌ならもう行かねえよ!」
おっと待て待て、なんか会話が堂々巡りしている気がする。一旦間を置いて落ち着こう。
「はぁ。」
小さくため息を吐いて、ポン、と湊の肩に手を置いた。ジロ、と横目で睨みつけてきた湊に、俺はニコリと笑みを返した。
「安心しろよ。嫌なのはケーキであって、湊の誘いは嫌じゃねえから。」
本音をそのまま口にした俺に、湊は不服そうにボソリと口を開いた。
「…やっぱ嫌なんだろーが。」
「うん、俺スイーツは嫌。今日はラーメン食って帰らねえ?」
まだ不機嫌そうではあるが、俺はいつもの調子で湊に話しかけた。
すると少し表情が明るくなった湊が、「え、嫌。アイス食いたい。」とかほざきやがった。
おいおい、ケーキの次はアイスかよ。
「スイーツ嫌だっつってんだろ!」
「翼が残したら俺が食うから大丈夫。」
「おい!自己中か!!!」
結局今日もこのワガママな親友の言いなりになってしまう俺だが、
実は満更でもないのである。
1、 親友の言いなり end
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