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「翼くんさー、彼女作ればあ?」


突然なにを思ったのか、田村さんがやたらと冷めた態度で俺にそんなことを言ってきた。


「はい?いきなりなんだよ。」

「えー、だってえ、翼くんが居るから一条くんずっと翼くんと一緒にいるじゃん?だから翼くん彼女作ってたまには彼女とデートでもすればいいと思う。うん。」


はあ?うるせえよ余計なお世話じゃボケナス。

…とは口が裂けても言わねえが、田村さんはわりと真剣に言っているようだ。

さては俺をライバル視しているな?
ケーキ屋の一件から田村さんの俺への態度が多少冷たくなった気がする。どうでもいいけど。


「あのね、あたしの友達で翼くんのこと気になってるって子がいるんだけど話してみない?あ!一条くんも誘って今度4人で遊びに行こうよ!」

「お前この前湊にケーキ屋断られたのによくやるなぁ。その強い精神を見習いたい。」


褒め言葉のつもりで言ったが、田村さんはジトーとした目で俺を睨みつけてきた。


「だって!一条くんと一緒に遊びたいんだもん!」

「それ本人に直接言えよ。」

「言えたら苦労しないでしょっ!」


俺にグチグチ言ってる暇あったら本人にとっとと言えばいいのに。


「それじゃあ俺と湊が遊んでる時お前も合流すれば?あいつ誘っても気乗りしなけりゃ絶対断るからな。」

「うんうんそーするっ!」


俺からの提案に、田村さんはニコニコとした笑顔を浮かべて頷いた。





その日の放課後、行動が早い女子田村さんは、俺と湊が学校を出るとその後をストーカーの如くコソコソつけてくる。

多分田村さんの友達と一緒に。


「あ、俺サーティワン食べたい。」


出た。また甘いもんっすか、湊さん。

アイス屋に引き寄せられるようにふらりと歩み寄っていった湊の後をゆっくり追いかける。


躊躇いなくトリプルアイスを頼んで嬉しそうにアイスを受け取った湊は、何も頼まず端の方で突っ立っていた俺にスクールバッグを手渡してきた。


「翼、邪魔だから鞄持ってて。」

「はいよ。アイス落とすなよ。」

「おう。」


ぺろぺろ、最初はアイスの上の方を舐めて味わっている。少し溶けてきたら、ガブリとアイスに齧り付いた。


「うんめ。」


美味しそうでなにより。

暇つぶしにスマホをいじっていると、「食う?」とアイスを俺の前に差し出してきた。


それじゃあ、お言葉に甘えて。とアイスに齧り付こうとした時、「あんま食うなよ。」と言われてジトー、と湊を睨みつけた。


全然食わせる気ねえのに「食う?」とか言ってくんなバカ。


結局端っこをちょっとだけ齧ったら、湊は満足そうにして再びアイスを舐め始めた。


湊がアイスを食べ始めて2段目に差し掛かった頃、わざとらしく「あれ〜?翼くんと一条くん!?」と声をかけてきた人物…

言わずもがな田村さんだが、友達を引き連れて俺たちの前に現れた。


「おー、お前もアイス?」

「うん!あれ?翼くんは食べないの?」

「俺はこいつの付き添い。」


ここで田村さんが僅かに頬を赤らめて湊に視線を送ると、そこにはデロッと溶けて今にも崩れてきそうなアイスに苦戦している湊の姿が。


「あーあー、溶けてる溶けてる。」


咄嗟に逆側から倒れそうなアイスに俺が齧り付くと、田村さんとその友達からギョッとした目で見られてしまった。

いやだって、アイス倒れてしまったら元も子もねえから。


「きったねーな、お前もうトリプルアイス頼むな。」


にちゃにちゃになった湊の手を見て言えば、湊は自分の汚すぎる手を見てクハッと笑った。


「翼ティッシュちょーだい。」

「は?ねえよ。」

「ああん?」


いや何がああん?だ。
俺が悪いみたいな言い方するな。

アイスを食べ終わってベトベトな手をした湊が身動きを取れずにいると、ここで暫く大人しかった田村さんが動いた。


「あ!私持ってる!一条くんはいどーぞ!」


ここぞとばかりにブリブリな態度でアピっているな?田村め。


「どーも。」と田村さんからティッシュを受け取った湊に、田村さんはニコニコとても嬉しそうだ。


…と、二人がそんなやり取りをしていると、コソッと田村さんの友達が控えめに俺に話しかけてきた。


「あの…、私隣のクラスの藤岡って言います。」

「あ、はい。茅野です。」


ぺこりと軽く会釈すると、少し頬を赤くして視線を逸らされた。…おお、この反応はもしかして。


ってそういや俺のこと気になってるんだっけ?

どうやら田村さんが言ってたことは間違いではなさそうだ。

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