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「昨日一条くんとケーキ食べに行ったの?」
昨日俺と湊の会話をばっちり隣で聞いていた女子に、朝登校してきていきなり問いかけられた。
「ああ行った行った。あいつに無理矢理パフェ頼まされた。」
口では不服そうに言いながらも、実は満更でもないのだが。まあこの子がそんな俺の気持ちに気付くはずもなく。
「えーそうなんだぁ。あたしだったら喜んで頼むのになぁ。」
そう言いながら、机の中に教科書やノートを入れている湊に熱い視線を送っている。
「一条くん誘ったら一緒に行ってくれるかなあ?」
「さあ、誘ってみれば?」
「翼くんから言ってよ〜!」
「なんで俺からなんだよ!自分で誘え!」
腕を掴まれ、揺さぶられながらお願いされる。なんで俺には言えて湊には言えないんだよ!
朝っぱらから女子とそんなやり取りをしていたところで、机の中に教科書をしまい終わった湊が無言でのっそりと歩み寄ってきた。
何も言わずに俺の側に立った湊に、丁度良かった、と俺から話しかける。
「おい湊、田村さんがお前とケーキ食いに行きたいってよ。」
ストレートに伝えれば、湊のことが好きな女子、田村さんが顔を真っ赤にして掴んだままだった俺の腕を「ひゃぁ…!待って、」とあたふたしながらまた揺さぶってきた。
しかしそんな田村さん相手に、湊の素っ気ない一言が田村さんの胸に突き刺さる。
「俺は別に…。翼と行くから。」
ケーキの誘いを断られてしまった田村さんは、「ま、また気が向いたらいつでも声かけて…」と消えそうな声と泣きそうな顔をしながら去って行った。
あーあー…ちょっと可哀想。
「俺じゃなくてもケーキ好きの女子と行けばいいんじゃねえの?」
湊と行きたいやつとかいっぱい居るだろうし、甘い物苦手な俺と行かなくても。という意味も込めて言ってみたものの、湊は無言でムスッと不機嫌そうにしてしまった。
いやまあ別に一緒に行くけどさあ。
甘い物は好きじゃねえけど、湊と食べに行くのは好きだし。湊と一緒に居るのも好きだし。
と思っていたのに、湊は「じゃあもう翼とは行かねえよ。」と吐き捨てて俺に背を向けた。
…やべえ、機嫌損なわせちゃったか。
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