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キィ、と扉が開く音がして、ピクリと反応はしたものの、俺の意識はうつらうつらとしていた。

どうやら湊が風呂入りに行ったあと居眠りしてしまったらしい。


「翼?」


呼びかけられた気がして、寝ぼけ眼で湊の姿を確認する。ゆっくりと俺が眠るベッドへ歩み寄ってきた湊が、ストンとベッドに背を預けるように腰を下ろした。


湊から俺と同じシャンプーの匂いがする。

濡れた髪と、うなじが視界に映り込む。


夢見心地で、俺はそんな湊のうなじにそっと唇を寄せて、チュッ、と触れる。


するとバッと勢い良く振り返った湊が、真っ赤な顔をして俺を見た。


…ん?…あれ?


今俺、なにした…?


真っ赤な顔でうなじを押さえている湊に、俺は徐々に自分の犯した失態を理解しはじめた。


「うわっ!わりぃ!寝ぼけてた!」

「……誰と間違えたんだよ。」


熱が引かない赤い顔で、湊はボソリと恥ずかしそうにしながら問いかけてきた。


「え、あ、っと、いや、あの、」


俺は別に…誰かと間違えたわけではなく。

しどろもどろになって返事に困っていると、湊は赤い顔のまま、何故か泣きそうな顔になった。

小さくスン、と鼻を啜る。


「…え。」


当然、動揺して狼狽えた俺に、湊は隠すように顔を背ける。


「…誰かと間違えんなよ…。」


消えそうな声でそう言った湊は、またスン、と鼻を啜った。…え、湊、もしかしてまじで泣いてんの?


思わぬ湊の反応に、俺はただひたすら狼狽えた。


泣くほど嫌だったのか?それはそれでかなりショックなんだけど…いやまあ普通にキモいよな、うなじにキスって彼女いても絶対しねえわ!


「あの、湊、…まじごめんな?ガチキモかったな俺、わりぃほんと、寝ぼけてて…。」


こうも嫌がられると、俺にはひたすら謝ることしかできなくて。湊の顔色を伺うようにチラ、チラ、と視線を向けていると、涙目の湊と目が合った。


そして次の瞬間、俺は湊にグイッと胸倉を掴まれ、咄嗟のことで目をギュッと瞑る。


殴られるのかと思ったら、その直後感じたのは全然違う感触だった。


俺の唇に、ぷにっと柔らかいものが触れている。

微かになにかが鼻にぶつかり、目をうっすら開けてそれが湊の鼻だと気付いた。


あまりに驚きのこの状況に、呼吸するのを忘れていた。


俺は今、湊とキスしている。


僅か数秒もの時間が、俺にはとても長く感じた。


ゆっくり離れていった湊の唇を見つめる。


えーっと、えっと、確かに今、俺たちキスしたよな。って少し冷静になって考えてみる。


湊は無言で、真っ赤な顔で、上目遣いで俺を見つめた。


「…え、なんで、」


キスした?


湊の気持ちが知りたくて、緊張して一気に渇いてしまった口から言葉を絞り出すように問いかければ、湊はなにも言わずに俺からそっぽ向いた。


部屋の中は非常に静かで、掛け時計の針が動く音がやたら大きく聞こえる。


そんな中、徐に口を開いた湊の言葉に、俺は痛いくらいにドッ、ドッ、と心臓が大きく音を立てた。


「…誰かと間違えられんの、…ムカついたから…。」


ポカン、と、開いた口が塞がらなかった。


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