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『俺は言わねえ。
だって翼のことが好きだから。』
あの時、一条くんは確かにこう言った。
あたしは耳を疑った。
とても嘘を言っているようには見えない。
一条くんがわざわざこんな嘘をつくとは思えない。
密かにあたしの中で敵視していた人物が、ほんとのほんとに敵だった。
でもなんであたしに話してくれたんだろう。
話しにくいことだろうに、一条くんがあたしに話してくれたことが素直に嬉しい。
びっくりはしたけど、日頃から一条くんを見ていたら納得する部分もあった。
つばさ、つばさ、つばさ、って、一条くんは翼くんの方ばかり見てるから。
あたしがどんだけアピールしても、一条くんが振り向くことは無いだろう。
あたしだけじゃなく、一条くんのことが好きな子みんな、翼くんが居るかぎり一条くんに振り向いてもらえることは無いだろう。
あたしは憎き敵である翼くんをジト目で見た。
一条くん、あんたのことが好きってよ。
あ、でも翼くんにも好きな人いるんだっけ?
そしたら一条くんは片思いね。
…ん?ちょっと待って?
翼くん、あんたの好きな人ってもしかして、
あたしはこの時、ピピピーン!と閃いてしまった。
だってあたしの頭の中で、一条くんの悲しそうな声が頭の中から離れないの。
『あいつ俺にも言わねえんだ。』
一条くんにも言えない、翼くんの好きな人。
『俺は言わねえ。
だって翼のことが好きだから。』
一条くんも、翼くんには言えない。
お互いに好きな人を隠している。
なぜならそれは、
お互いのことが好きだから。
これはもう確信というか、直感というか。多分これで決まりでしょ。
…はあ。
あたしは深いため息を吐いた。
完全なる、失恋をしてしまった。
あたしの恋の最大の敵は、
まさかの彼の親友だったのだ。
2、親友は最大の敵 end
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