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「誰だよ、好きなやつって。」
「え〜?」
ムスッとした顔で俺の好きな人を問い詰め出した湊に、俺はしらばっくれることにした。
湊と恋愛話なんて滅多にすることがないから、まさか俺に好きな人がいたなんて、と気になるのだろうがこれだけは言うわけにはいかない。
「俺が知ってるやつ?」
「ん〜どうだろう。」
「同じ学校?」
「ん〜、さあ。」
「俺にも言えねえの?」
お前だから言えねえの。
俺に言う気が無いと分かれば、湊は不機嫌面のまま問い詰めるのをやめた。
わかるわかる、湊の気持ちはよく分かるよ。
俺だってもし湊に好きな人がいたらすげえ気になるし、俺にくらい言えよ、って思うし。
これがもし同じクラスの女子が好き、とかなら余裕で湊に話すんだけど、ガチで俺の好きな人お前だもん。話せるわけねーよ。
俺お前が腹出して寝てんのとか見てるの普通に辛いんだぞ?
男を襲いたくなる気持ちなんてお前には分かんねえだろうけど、俺は今までに何回も、寝てるお前に欲情してるんだ。
言えるわけねえだろ、俺がそういう意味で、お前のことが好きだなんて。
その後、うまく別の話題にすり替え、好きな人のことは誤魔化し切ったが、湊の機嫌は見るからに悪かった。
そして翌日、俺は奇妙な光景を目にすることになる。
「なあ田村、」
なんと、湊が田村さんに…!
自分から話しかけにいっているではないか…!
何事だと耳を澄まして様子を伺っていると、二言目に聞こえた湊の声に、俺はずっこけそうになった。
「お前翼の好きな人知ってる?」
いやいやいやいや、田村さんに聞くなよ!
そいつは俺の好きな人なんて知らねえよ!
つーか誰も知らねえよ!
「へっ!?翼くんの好きな人!?知らないよ!てか翼くん好きな人いんの?誰誰!?」
あーもう、めんどくせえことになったな。
田村さんが絡むとまじでめんどくせえ。
おまけに湊と話せてすげえ嬉しそうにしてやがる。
「あいつ俺にも言わねえんだ。」
コラコラ、湊!普段無愛想なくせにそんな時だけ田村さんに話しかけるな!
「そうなの!?二人仲良いから逆に恥ずかしくて言えないのかな?」
ああもう、そうだよ!
もうそういうことにしとこうぜ!
「一条くんは好きな人いる?いたら翼くんに言える?」
続けて口にした田村さんの湊への問いかけに、湊は無表情で口を閉ざした。
いやいや、なんか言えよ湊!
そう心の中で叫んでいた俺だが、この時、数メートル先にいる二人の会話を盗み聞きしていた俺が、ボソリと口にした湊の言葉を、聞き取れるわけが無かったのだ。
湊の言葉を耳にした田村さんは、戸惑いのような、引きつった表情を浮かべていた。
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