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「茅野くんももしかしてアイス苦手?」


藤岡さんはぎこちない様子だが俺と会話をしようと話しかけてきた。


「あー、そうだな。ま、どっちかというと苦手だな。」

「私も、今日は付き添いで…。」


あーはいはい知ってる知ってる。
田村さんに言われて来たんだろ?


藤岡さんが俺に話しかけてくるあいだ、チラリと湊と田村さんの様子を伺えば、ティッシュで手を拭いている湊をニコニコしながら見守っている田村さん。


…なんか喋れよ。と思っていると、ティッシュをゴミ箱に捨てて湊が鞄を持つ俺に手を差し出してきた。


「サンキュー、行こーぜー。」


俺から鞄を受け取り、歩き始めようとした湊に、田村さんが「もう行くの!?」と残念そうに口を開く。


「…あー、どうする?湊。」

「え?俺便所行きたい。」

「いやそうじゃなくて。」

「このあと一条くんと翼くん暇!?一緒に遊ばない!?」


ここで挫けず湊を遊びに誘う田村さんに、湊がめんどくさそうな顔して振り向いた。あ、ダメだこの顔は。田村さん残念だが諦めろ。


「もう帰るよな、翼。」

「え?あー…」

「帰るの!?翼くん!!」

「うーん…。」


別に俺は、田村さんの恋の協力をする気はねえし、湊が帰るっつったら帰るけど。あとから田村さんに何か言われそうでめんどくせえな…とか思っていると、「あ!茅野くん!帰る前に連絡先教えて欲しいな…」と藤岡さんが口を挟んだ。


「あー、いいよ。ラインでいい?」

「うん!ありがとう!」


満面の笑みを浮かべてお礼を言ってきた藤岡さんと、俺はラインの交換をした。


「あ!一条くんもライン教えて!?」


ここで自分も、と頑張る田村さん。

だが、湊は盛大な嘘をついた。


「俺ラインやってない。」


田村さんの顔面が凍った瞬間だった。


「そ、っかあ…!」


泣くな、堪えろ。
湊のことは諦めるんだ、田村さん。


俺は田村さんを哀れに思いながら、藤岡さんとラインを交換し終えたのだった。


藤岡さんは嬉しそうに手を振って帰っていったが、真逆のようなテンションで肩を落として帰っていった田村さん。


「なにあいつ、翼のこと好きなの?」


意外にも湊が食いついたのは、藤岡さんの方だった。





「お、さっそくライン来てる。」

「なんて?」

「藤岡です、よろしくお願いしますってさ。」


まあ普通のやり取りだな。
こっちもよろしく、と返事を返していると、俺のスマホ画面を覗き込んでくる湊。

覗いてくんな、とスマホを離すとムスッとされてしまった。


藤岡さんと些細なやり取りを数回繰り返し、区切りが良いところでラインを終わらせようと思っていたところで、【 茅野くんって好きな人いる? 】という質問が送られてきた。


おおう、藤岡さん…なかなかグイグイ聞いてくるタイプか。


残念ながら好きな人いるんだよね。気持ちに応えてあげられなくてごめん…って内心思ってしまうのは気が早いか。告られてもいねえのにな。

でも俺今は彼女作るとかは考えてねえし。

ここは正直に、


【 好きな人いる!内緒な! 】


そう文字を打った直後だった。


「は?翼好きなやついんの?」


湊がまた俺のスマホを覗き込んでいたことにまったく気付いてなかった俺は、ハッとして思わず息を呑んだ。


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