回避したいこと [ 46/50 ]
生徒会役員は、放課後定期的に敷地内の清掃を行なっているが、陸上部との兼部で大会が近い祥哉先輩はそれを免除されている。
俺は手にトングと小さいポリ袋を持って校舎沿いに落ちていた紙屑を真面目に拾っていたが、隆は俺の隣でまったくやる気無く呑気にグラウンドを眺めていた。
「おーおー祥哉走ってる走ってる。」
「りゅうちゃぁん…サボってたら副会長に怒られるよ。」
「でもゴミなくね?」
「それ俺が先にゴミに気付いて拾ってるからじゃん。」
ゴミを見せつけるように隆の顔の前で袋を掲げると、隆は「分かった分かった、俺がゴミ袋持っといてやるな。」ってにこっと笑って俺の手から袋を奪い取った。
結局ゴミ袋を持つだけでやる気のない隆を引き連れて、ゴミを見つければ隆が手に持つ袋の中にゴミを入れる。
「兼部の祥哉に、ちゃらんぽらんな隆……次の生徒会長絶望的じゃね?新見にやってもらう?」
「俺もそれ思ってた。新見会長は有りだと思う。」
近くからふと副会長が会長にそう話しかけている声が聞こえてきて、俺は背筋が寒くなった。
「いッ!いやいや!隆はやれば出来る子ですよ!」
変な話が進んでしまわないように二人の会話に口を挟むが、「えぇ〜?」と疑わしいものを見るように隆に目を向ける副会長。
「悪いけど隆に生徒会長任せらんないし新見が指示した方がこいつ動くと思うんだよね。」
「……僕も賛成です。」
「すっ、杉谷くんまで…!!」
多分、頼りにされてるってことで名誉あることなんだろうけど、1年の俺が生徒会長は重荷すぎて無理無理無理、と首を振った。
「ちょっと隆!!ボロクソ言われてるけど何か言いたいことねえの!?」
何も言わずに突っ立っていた隆の腕を掴んで揺さぶりながら声をかけるが、隆本人まで「俺も賛成〜。」と言ってへらへらと笑っている。
「いやいや反対反対!1年が会長なんて無しでしょう!?そういうのって選挙とかして決めないんですか!?」
「有りだってば。基本的に生徒会役員からの推薦で決まるし。立候補する人居たら選挙とかもするんだろうけどまずそんな物好きな人そもそも居ねえし。
隆がやるより新見がやった方が反感買われなくて済むと思うよ?」
ふっ、と鼻で笑って隆を見ながら話す副会長に隆は言い返すこと無くツンとした態度でそっぽ向いた。
「えぇぇ〜…なんか嫌な流れ〜…」
この調子でいくとまじで俺が生徒会長をやらされてしまいそうな雰囲気で焦りを感じ始めた。
「じゃあ隆がダメなら祥哉先輩で良いんじゃないですか?しっかりしてるし、頼りになるし!」
「あ〜ダメダメ、祥哉も隆よりはまだマシだけど生徒会のことは結構適当だし。それに陸上部の顧問が祥哉の生徒会兼部自体あんまり良く思ってないらしいし。」
「うわ…そうなんですね…。」
…となるとやっぱり、隆に頑張ってもらうしか俺が生徒会長を回避できる道は無さそうだ。
「まあ秋くらいまではまだ俺ら居るけどな。新見も一応そのつもりで考えといて。」
「えぇー…」
嫌です。とは口に出さなくてもそういう顔をしていたようで、副会長に「嫌そ〜」と言われた。そう見えるのなら俺に無茶振りせずに、隆にやらせてくれないだろうか。
「はぁ…」と無意識に溜め息を吐きながら、俺はその後憂鬱な気分でゴミを拾い続けた。
そしてゴミ袋をプラプラ揺らしていい加減に持っていた隆の所為で、せっかく拾い集めたゴミが散らばりそうになっていたから、少しイラッとして「ちゃんと持ってなさい!!」と隆に注意したら、それを聞いていた会長と副会長が真顔でこっちを見ながらパチパチと拍手していた。
なんじゃそりゃ!!!!!
「やっぱ新見が適任だよな〜。」と副会長が会長に話していて、俺はいよいよ危機を感じ始める。
「りゅうちゃん頼むからしっかりしてよぉ〜…俺生徒会長とかやだよ〜…」
「じゃあもう来期は生徒会長不在でよくね?」
プラプラ揺らしていたゴミ袋を、今度はグルグルと振り回しながらそんなことを言い始めるから、俺はもう生徒会の先輩としての隆は期待してはいけないと思った。
回避したいこと おわり
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