発言には気を付けろ [ 47/50 ]

「たまにおっぱい揉みたくなるんだよなぁ。」


休み時間に俺の机の上に座って突然ぼやいてきた隆の呟きに、俺は何言ってんだ、と隆の横顔を見上げた。


「そんなこと言ってたらそのうち新見に振られるぞ?」

「倖多の前では言わねえよ。ちょっとだけ思っただけだって。尻とおっぱいじゃやっぱどうしても触り心地が違うしな。あのふにふに、って感触…俺はもう一生触ることは無いんだろうなぁ。」


目線を高く上げ、その感触を想像するようにもみもみと胸を揉むような手の動きを見せる隆。…こいつ揉んだことあるんだろうなぁ、俺は無いからちょっと羨ましい。


「おっぱいの感触に似てる物ってなんだと思う?」

「え、それ俺に聞く?触ったこと無いから知らんよ。」

「あ、そうだ、ちょっと頬っぺたに空気ためてみてくれる?」


内心どんだけおっぱい触りたいんだよ、と思いながら、言われた通りに口いっぱいに空気をためて頬を膨らませてみたら、隆はそんな俺の頬をもみもみと揉んできた。


「お〜お〜お〜、ちょいこの感触おっぱいみあるか?でっけーニキビあったらワンチャン乳首っぽくね?」

「隆もう黙った方がいい。教室で堂々と下ネタ言い過ぎ。」


瀬戸隆という男は、高校に入学して間もない頃に比べて現在のイメージは随分ダウンしてしまっている。

新見と恋人のフリをしていたことにより周りから反感を買ってしまったのを抜きにしても、このように教室で堂々と下ネタ言ってるから陰でヤリチンとかも言われているのを聞いたことがある。

まあただのモテない男の僻みだろう。さすがにヤリチン呼ばわりは言い過ぎだ。


しかし新見という恋人がいる今、堂々と教室でおっぱい発言するのはどうなんだろうか?

この会話が聞こえてしまっていたのか、近くで隆のことを睨みつけているクラスメイトの姿に俺は気付いてしまった。

やはり、隆の発言をよく思わない人がいてもおかしくは無いだろう。





「新見くん、悪い事は言わない瀬戸と付き合うのはやめた方が良い。」


見知らぬ上級生とすれ違い様に、いきなりそんなことを言われてしまった。


「え…?」


びっくりして言葉を失っていると、その人は続けて「瀬戸教室でおっぱい触りたいとか言いまくってるし。」と俺に教えてくれる。


「え……、そうなんですか。」


…いや、まあ確かに隆なら言いそうだけど俺の存在が有りながら?ってちょっと嫌な気持ちになってしまった。まだその人の話を信じているわけではないけど。


『おっぱいの感触に似てる物ってなんだと思う?』

『え、それ俺に聞く?触ったこと無いから知らんよ。』

『あ、そうだ、ちょっと頬っぺたに空気ためてみてくれる?』


けれどその人は、隆の発言を録音していたらしく、俺に音声を聞かせてくれた。確かに、おっぱいの話してる…。


俺には尻揉ませてとか言ってくるくせに、結局隆はおっぱいの方が好きなんだ…。


「ありがとうございます」と一応その人にお礼を言ってからその場を立ち去った。地味にショックを受けている自分がいて、次隆に会ったら何て話しかけよう、とか俺は放課後まで考えていた。


放課後になると隆はすぐに俺の教室まで迎えに来てくれるけど、笑顔でヒラヒラと手を振ってくる隆に俺は笑みを返すことができなかった。

多分、不貞腐れてるんだろうな、俺。ムッと自分でも自覚有り有りの不機嫌顔で隆の元へ向かうと、「倖多どうした?」と俺の肩に腕を回しながら俺の顔を覗き込んでくる隆。顔が近くて今にもキスされそうな距離だ。


「あ〜あ、今日やなこと聞いちゃった。」

「ん?やなこと?」

「りゅうちゃん教室でおっぱい触りたいとか言ってるらしいね。」


ジトーとした目で隆の目を見ながら言えば、隆は真顔で固まった。


そしてすぐに動揺するように「えっ、ちょっ、まっ…!違うって!誤解だから!」と何が誤解なのか言い訳をし始める。


「別に倖多に無いから不満とかでは断じてねえからな!?それはそれな話ではあって、あの感触は唯一無二だよなぁって話をしていただけで…!」

「ごめんな、俺にはおっぱいなくて……。」

「ちっっがうって!!!無くていいって!!倖多には倖多にしかない良さがあるんだから!!つーかその話祥哉から聞いたのかよ!?あいつ倖多に話すとかまじ最低!!」


おっぱい話をしていたことを祥哉先輩にバラされたと思っているのか、隆は祥哉先輩にキレ始めた。


「違うけど?全然知らねえ上級生が話しかけてきたんだよ。教室で隆が喋ってるのを録音した音声聞かされてすげえ気分悪かった。」


別にそこまで怒っていたわけではないけど、祥哉先輩にキレ始めた隆に対して“怒りたいのは俺の方だよ”っていうような素っ気ない態度で言えば、隆は俺のご機嫌取りするように俺の身体に抱き付きながら「ごめんって!違うんだよ!!ちょっとないものねだりしちゃっただけだから〜!!」と言いながら謝ってきた。


うん、それ結局は俺には無いおっぱいが触りたいって事だよな?謝ってるようでりゅうちゃん墓穴掘ってねえか?とだんだん隆がバカになってて笑えてきてしまった。


「ないものねだりってことはやっぱ触りたいって思ってんだろ、違うってなんだよ。ちがくねえじゃん。」


笑うのを我慢しながら俺は素っ気ない態度を継続して言えば、隆は縋り付くように俺を抱きしめる力を強くして「やだやだごめんごめんごめんって〜!!」とひたすら謝ってくる。


うん。この場合言い訳をやめたのは偉いと思う。

隆が俺に縋り付いてきたのがおもしろくて俺は何も言わずに隆の反応を見て内心楽しんでいたら、俺と隆の横を通り過ぎた杉谷くんが振り向き、「何やってるんですか?」と冷めた表情で隆を見上げた。


まさか隆のおっぱい触りたい発言で言い合いしてた、なんてこと恥ずかしくて説明できるわけもなく、隆は罰が悪そうに黙り込む。


「瀬戸先輩めちゃくちゃ目立ちますから言動には気を付けた方が良いですよ…。」


杉谷くんは呆れた顔で隆を見ながらそんな忠告をしてくれて、「じゃあね、新見くんまた明日。」って俺に向かって手を振りながら帰っていった。


ありがたい杉谷くんのお言葉を聞き、俺は「ですって、りゅうちゃん。気を付けような?」って言えば、隆はお利口に「分かりました」と頷いた。


「まぁ、おっぱいの件は寮に帰ってからじっくり話そっか。」

「いや…!だからそれは違うんだって!!!」


必死に言い訳したがる隆がおもしろくて、俺はその後暫く隆をいじりまくった。


発言には気をつけろ おわり

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