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「あ〜倖多可愛い、身体に跡つけられたら体育の着替えの時困る?」

「それわざわざ聞くってことは困るって分かってるよな?」

「でもちょっとだけだから。」


ちょっと俺は、早まったかもしれない。

もうちょっと焦らした方が良かったかもしれない。

…何故なら、昨日から隆からのスキンシップが止まらないのだ。

さすがに昨日の今日でヤらせてとは言ってこないものの、昨日からずっとべったりだ。服を着替えようとしたら服を着させてもらえず、隆の腕が身体に纏わりついてくる。


「チュゥ、」とタコみたいに鎖骨の下を吸われたと思ったら、一部分が赤く色付く俺の肌。

そこを満足そうに口元を緩めながら見下ろすと、今度は乳首に吸い付いてきた。


「あぁ可愛いなぁ倖多のおっぱい。」

「これおっぱいって言うの?」

「おっぱいだろ。ジュブ…」

「うわぁ…!よだれ…!」

「ズズッ…、ふぅ。」


隆は俺の乳首の上によだれを垂らして、びちゃびちゃに濡らしてきた。隆はよく俺の身体の至る所によだれを垂らしてくる。尻にも垂らしてこようとする時は恥ずかしくてたまらない。


「ちょっとりゅうちゃぁん、きたないよぉ。」

「一緒にお風呂入る?洗ったげよっか?」

「いい、一人で入る。」

「そんなこと言うなよ。一緒に入ろうぜ。」


身体を起こし、ベッドから下りようとした俺に隆が背後からくっついてきて離れないから、そのままタオルと下着を準備してシャワーを浴びてこようとした時、俺の部屋の扉が『トントン』と誰かに叩かれた。


「え、誰だろ?」

「さぁ?」


隆を引き連れたまま扉を少し開けてみると、そこに立っていたのは中本と小西だった。


「あ、小西か。どうした?」


隆はあからさまに中本を避けるように小西に目を向け問いかける。

しかし隆の問いかけもスルーし、二人の視線は戸惑うようにチラチラと俺に向けられ、「あ、なんか邪魔してすんません。」と小西に言われ、ここで俺は自分の露出していた肌に気を遣われていたことに気付いた。


「…あ、ごめん。服着てくる。ちょっと、りゅうちゃん離しなさい。」


隆の腕の中で軽くもがいてみると、隆はへらへらと笑いながら俺の身体から手を離した。


部屋の中に戻り服を着ている間、小西と隆の会話が聞こえてきた。


「2人ってもうそういうことヤってんすか?」

「え〜?それ聞いちゃう〜??」

「うわぁ、ニヤニヤうぜー。」

「うぜえとか言うな。お前まじ口悪すぎ。」

「先輩よりはマシっすよ。」


2人がそんな会話をしているなか、「おまたせ」と玄関に戻ると、小西が「ほら、中本言えよ。」と少し横にずれ、中本の背中を押した。


中本は俺の前に立ち、「あー…」と重たそうな口を開く。


「…あのさ、ごめん…。俺倖多のこと好きで、初めからそういう理由で近付いた。」

「…あ…うん。」


中本の開かれた口から言われたのは告白だった。それはもう分かってたから、俺は『うん』しか反応を返せない。


「…んで、なんとか自分を見てほしくて、友達に協力してもらって、倖多を助けるフリした…。もう気付いてると思うけど…。」


続けてそんな自分の行いを告白する中本は、だんだん泣きそうな顔になって下を向く。


「ごめん…。」と言われたその謝罪の言葉はかなり弱々しくて、俺はだんだん可哀想になってきてしまう。


「…もっと早く謝ってくれたら良かったのに…。遅いよ…。」

「……ごめん…っ。」


泣きそうになっている顔を隠すように頭をさらに下げる中本だが、そんな様子を静かに見ていた隆が中本の髪を掴んで強引に上を向かせた。


「倖多最初俺の言葉信じてくれなくて、お前のこと信じてたんだからな?お前、倖多のこと裏切ったんだからな?謝ったからって簡単に許してもらえると思うなよ?」

「…お、もってません…っ」


隆にキツく睨まれながら言われた言葉に、泣くのを我慢するように言葉を詰まらせながら返事をする中本。


「もういいから、隆。ありがとな。」


トントン、と隆の背中を叩くと、隆は中本の髪から手を離して一歩後ろに下がった。


「俺は、中本とちゃんと友達になれたら良いなって思ってたんだよ。だから、こんな形になっちゃったのはすごく残念に思う。…でも中本ちゃんと謝ってくれたし、もういいよ。またちゃんと友達に戻れそうなら、よろしくな。」

「はっ?もう許すのかよ?」

「え、うん。だって謝ってくれたし。」

「はあ?倖多それは甘すぎだって。」


謝ってもらう前は許せるか分からないと思ったけど、実際に泣きそうになってまで俺に謝っている中本の表情を見ていたら、あっさり俺は許せてしまったのだから、俺って多分すげえチョロいんだと思う。

なのに後ろでうるさくブーブー言ってくる隆に「りゅうちゃんうるさいよ。」と頬の肉を摘めば隆は大人しくなった。


「中本とはクラスも隣だし、体育とかで顔合わすし気まずいの続くの嫌なんだよ。」


そう言ったら苦笑する中本に、俺はポンポンと中本の肩を叩く。


「あ、夕飯食べた?」

「…ううん、まだ。」

「良かったら一緒に食べる?この怖い先輩も付いてくるけど。」

「…じゃあ、倖多が良いんだったら…。」


早いとここの気まずい空気を無くしたくて俺はそんな提案をすると、控え目に頷く中本。


「中本、あいつらも呼べよ。」


そして、小西は横から中本にそう声をかける。

『あいつら』って、もしかして…


と思っていたら、隆と中本と小西、4人で食堂へ向かった先に、あの野球部の二人が待ち構えていた。



「新見くんっ、すんませんっしたぁ!!!」

「俺ら、この前新見くん怖がらせちゃいましたよね!?全てはこいつのためだったんすよ!!!」


土下座しそうな勢いで謝ってきた二人に、俺は思わず笑ってしまった。


「あーうん、良いよもう分かったから。よかったー、怖い人じゃなくて。」


そんな本音を漏らす俺に、「全然怖くないっすよぉ!!!」と迫ってくる野球部の二人はやっぱりちょっと怖いかもしれない。ガタイが良いから迫力がある。


しかしそんな二人と俺の間にズイッと隆が入ってくる。


「二度とあんなしょうもねえこと頼まれてもすんなよ!」

「はいっ!もうしません!!」

「すんませんしたっ!!!」


隆の言葉に、二人はまた深々と頭を下げて謝罪する。


「それと、こいつの協力しても無駄だから。倖多の目は欺けても、俺の目は欺けねえから。」

「はいっ!そのようで!」

「びっくりしましたよ、目敏いっすね!」

「あ?」

「すんません!!!」


野球部だからか声がでかい。部活中の時のような声で謝られ、注目を浴びまくって仕方がない。


そんな状況の中でも隆は容赦なく相手に物申す。


「あのなぁ、まーだ俺と倖多が実は付き合ってないとか疑ってる奴要るだろうからこの際はっきり言うけどな、付き合ってるからぁ!!もうえっちもしたし。それでも倖多を狙ってくる輩が居るなら俺が相手してやるからな。」

「…あ、2人そこまでいってるんすね。」

「…えっちいいなぁ。」


食堂に響き渡るくらいの大きい声で煽るようにそんな発言をする隆に俺は恥ずかしくなって居た時、背後から会長と副会長が現れた。


「こら、バカ隆。何やってんの?新見と付き合ってるアピールか?」


ペシン!と強く副会長に頭を叩かれた隆が、「いって」と頭を押さえながら振り返る。


「もう新見のことになるとどんどん隆のクソキャラバレるから黙りな。」

「うわ、ひでー。」

「新見も恋人がこんな男でいいの?」


呆れた顔で俺に聞いてきた副会長に、俺はちょっとだけ笑って頷いた。


「はい。俺にとっては、どうしても信じてあげたくなる、俺の大好きな人です。」


俺がそう口にした時、中本の曇った顔が視界に入ってしまい、ちょっと心苦しくなったけど、これが素直な俺の気持ちだった。


「あっそ。それならいいけど。ちゃんと新見が躾しなよ。」

「はい、任せてください。」


副会長の言葉にそう返事すると、副会長は俺を見てクスッと笑ってきた。


「なんだかんだ言ってお前ら良い関係だと思うよ。」


そして、そんな事を言ってくれる副会長に、俺自身もそう思う。



人を信じるのって、結構難しい事だ。

でも、隆を信じる事は、

俺にとっては、簡単なことだったから。


簡単なお仕事 after おわり

2021/10/07 公開〜2021/11/01 完結

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