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つまり、話をまとめると、あいつらが新見くんに絡んでそれを中本が助けたフリをしたってこと?

自作自演で新見くんからの好感度を上げようとしたってこと?

それが瀬戸にバレていたから、瀬戸は中本にキレていた。新見くんは中本を避け出した。


それが分かると瀬戸は至極真っ当で、新見くんだってそうするのは当然とも言える。逆に、中本はそれを隠して瀬戸の事を悪く言い、新見くんに避けられてショックを受けていたのだから、あいつの嘘の言葉に賛同してしまった自分もバカだった。


いつもより少し遅れて部室に顔を出すと、練習着に着替え終えていた中本に「遅かったな。」と声をかけられる。


中本への何とも言えない怒りの気持ちが堪えきれず、無愛想な態度で「あぁ。」と頷いた。

予想以上に低い声が出て、「小西?」と俺の顔色を窺われる。そこで、睨みつけるような目で中本を見た俺に、中本は「え、なんだよ…?」と少し顔を引き攣らせた。


「はぁ〜、中本見損なったわ。」

「…なにが?」

「しらばっくれても無駄だから。」


それだけ言って、無言で練習着に着替える。

中本の顔には、“焦り”を感じさせる苦い表情が浮かんでいた。


部活中まったく中本とは会話をしないまま練習を終える。いつもは一緒に寮に帰ってそのまま食堂で飯を食っていたけど、中本のずっとごまかすような態度が不快で俺は中本と会話をする気になれない。


「先輩お先に失礼します。」

「おーおつかれー。」


先輩たちに挨拶してから一人さっさと帰路につくと、「ちょっ、小西待てよ!」と中本が追いかけてきた。


「お前なんなんだよ急に!!」

「なんなんだよって、お前がなんなんだよ。まじで。」


ドン、と中本の肩を押しながら言えば、中本はトッ、と一歩後退しながら眉間に皺を寄せ、不満そうな顔を向けてきた。


「お前ダチに新見くんに絡んでもらって、助けたフリして、それ瀬戸にバレてなかったら平然とした顔で新見くんと友達ぶった顔して近くに居るつもりだったんだろ?こえーわ。」

「…なんだそれ、瀬戸から聞いたのか?あいつの言ってることなんか信じんなよ。」

「残念ながら新見くんは瀬戸を信じてるみたいだけどな?だからお前が避けられるようになったんだろ?俺もお前が気の毒だと思ってたけど、自業自得だったってわけだな。」


そこまで言うと、中本は何も言えなくなったのかギュッと拳を握りながら黙り込んだ。


「散々瀬戸のこと悪く言っといてこのザマかよ。情けねえ。」

「…ちょっと協力してもらっただけだろ?そこまで言うか?」

「でもお前、新見くんに嫌な思いさせたんじゃねえの?それを“ちょっと協力してもらっただけ”って言えるお前の神経どうかしてる。」

「別にそこまでひどい絡み方では無かったし。」

「程度の問題だとか思ってたらお前まじでやべえぞ。どうせバレなきゃ大丈夫って思ってたんだろうけど瀬戸にバレてる時点で終わってたな。」


ハッ、と鼻で笑ってやったら、中本の顔はどんどん不機嫌そうに歪んでいった。


「…そこまで言わなくていいだろ。目的のためなら誰だって多少の嘘はつくだろ。瀬戸が散々周りの人を騙してたことに比べたらこんなことくらい…」

「いや、お前の方がタチ悪りぃよ。良い人面して新見くんに近付いて、蓋開けてみりゃこれだろ?お前みたいな奴がいるんだから、今までの瀬戸の態度も納得だわ。」

「へぇ…、小西そっちの肩持つんだ?友達だと思ってたのに…。」


さっさと自分のしたことを認めて新見くんに謝りに行けばいいものを、なかなか認めずに言い訳ばっかしてるこいつには怒りと苛立ちが頂点まで達してしまった。


「お前いい加減にしろよ!?それはこっちのセリフだから!!!」

「おいおいなんだなんだ喧嘩か?」


中本の態度にとうとう耐えられなくなった俺は大声で中本に怒鳴りつけると、近くにいた部活帰りの人からの注目を浴びてしまうが、その中には祥哉先輩が居て飄々とした態度で歩み寄ってきた。


「卑劣なことやってたこいつに幻滅しました。」

「あー…新見の件?まじだったのか?」


そう問いかける祥哉先輩に、中本はうんともすんとも言わずに不貞腐れた顔で下を向いた。


「まじなんだったら早く新見に謝れよ。どっちにしろもう新見に疑われた目向けられてるんだから正直に謝ったほうがお前のためだぞ?」


祥哉先輩はバシッと中本の背中を叩いたあと、「そんじゃ、おつかれ。」と手を振りながらまた飄々と去っていった。


何も言わない中本を、横目でジッと観察する。

どうせ悪事がバレて、謝りたくても恥ずかしくて素直に謝れないんだろう。


「…はぁ、ったく。新見くんとこ、俺も付いてってやるから謝りに行こうや。」


沈黙の中ペシペシ、と中本の肩を叩きながら俺も中本にそんな言葉をかけてみたら、中本はちょっと落ち込んだような態度で「うん…。」と小さく頷くのだった。


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