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隆の中ではもう完全に中本が仕組んでいたことと決めつけているけど、俺はどうしても“もし違った場合”のことを考えてしまい、隆の言ってることを正当化するためにはやっぱりちゃんとした理由が必要だと思った。


1年の2人で、背丈は俺よりも高くて、何かスポーツをやってそうなくらい2人とも腕がゴツゴツしていて、体格も良かった。


絡んで来た2人組のことを思い返しながら、俺は休み時間に教室一つ一つを覗いてみる。Bクラスにも、Cクラスにも、それらしき人は居なくて、Dクラスを覗いた瞬間にサッと俺から顔を隠すように下を向いた人物が居た。

暫くの間スマホをいじっていたが、その後席から立ち上がり、近くの席のクラスメイトのところに話しかけに行くその人。制服を着ていて少しわかりにくいけど体格が良い。

『あんな感じの人だったかも』と俺は疑いの目を向ける。


机の横には野球部が持っている鞄が置かれていたことに気付き、『野球部か。』と頭の中でメモをするように呟いて、ひとまずDクラスを後にする。

まだそれらしき人物を1人見つけただけだから、次にEクラスの教室を覗こうとしした時、「倖多!」と声をかけられた。

振り向けばそこにいたのは中本で、中本に対して半信半疑な思いを抱いている今、気まず過ぎて普段取っていた態度が取れない。

「お、おぉ。」なんて吃った声を出す俺の元に、中本が歩み寄ってくる。


「何やってんの?」

「え、あー…、俺も探してた。」


俺に絡んできた奴。とは言わなくても察しただろう中本は、「探して大丈夫?また絡まれない?」と俺を心配するような言葉を口にする。

飽くまで自分は関与しておらずただの通りすがりのスタイルで行くようだ。

それは、嘘か真か…、どっちなんだろうな?


この時点で『ごめん、実は仕組んでた』とか『あの2人はほんとは友達』とか何か言ってくれれば俺はまだ中本を許せるかもしれないけど、嘘をつき続けるなら本当のことが分かった時点で中本との友人関係はもうそれまでだ。


…いや、でもよく考えてみたら、嘘か真か…って考えてる時点で俺はもう中本を疑い続ける一方だ。どっちにしろ、友人関係を続けるのは難しいんじゃねえか?と思ってしまった。


俺は隆のように潔く人を疑うことはできねえけど、でももうすでに気持ちは隆と同じ方向に向いている。


『もし違ったら?瀬戸最低って思われるだけのことだろ。』


そんなことを言う隆に、せめて俺くらいはいつでも隆の味方でいてやりたいって気持ちが強くなった。

そう思ったらもう、中本が白でも黒でもどっちでもいいやって友人をあっさり見捨て、恋人を優先するような思考に様変わりしている。そのうち新見も最低な奴だったって言われるかも。


「大丈夫だよ。心配してくれてありがとな。」


なんとか愛想笑いを浮かべながらそう言って、ヒラリと中本に手を振り背を向ける。

まだ中本から視線を感じる中、次にEクラスの教室を覗くと、そこには何人か野球部っぽい奴がいて、その中に1人、見覚えのある奴が居た。


…オッケー、分かった。2人とも野球部っぽいな。という情報を掴んだところで、その日それ以上は詮索せず教室に戻る。

あの野球部2人と中本が何かしらの知り合いであることさえ分かればいいのだから、焦らずゆっくり観察しようと思う。



放課後になると、隆はいつものように俺のクラスの教室まで迎えに来てくれた。


「倖多ー、帰るぞー。」

「うん!」


良かった、もういつもの隆だ。保健室で仮眠をとったら体調も随分良くなったと昼休みに言っていた。

すぐに隆の元へ駆け寄り手を握ると、隆が俺に「お??」と声に出しながら明るい笑みを向けてくる。


「なんだなんだ?積極的じゃん?」

「なんか俺らさ?ちょっと喧嘩みたいになっちゃったじゃん?それで俺、今朝隆の顔見れなかったの実は寂しかったんだよなー。」

「まじ?俺居なきゃ寂しい??」

「うん、だからそうだってば。」


ちょっと俺の素直な気持ちを言ってみたら、隆はグンと顔を近付けて嬉しそうに今俺が言ったことと同じことを聞いてきた。

近すぎる距離に顔を少し引きながら返事をするが、隆はニーッと笑って俺の唇にチュッとキスをしてくる。


「俺も俺も。あ〜俺倖多に幻滅されて嫌われたらどうしようかと思ったわ〜。」

「なんでだよ、幻滅なんかしねえよ。俺どんな隆でも受け入れてやるってこの前言っただろ?」

「…うぅっ。倖多っ…!俺やっぱ倖多すげえ好きっ!!!」


感極まったように廊下の真ん中で隆は叫びながら、俺の身体をぎゅっとハグした。


「はいはい、分かったから。目立つから早くあっち行こ。」

「野郎に手ぇ出されないように毎日キスマーク付けたい。」

「こら!りゅうちゃんやめなさい!ここ廊下!」


隆の冗談か本気かわかりにくい言葉はだいたいが本気で、俺の首元に迫って来た隆の頭を俺は咄嗟に引っ叩いた。

『ペシン!』と響く音と共に頭を抱えてしゃがむ隆。


「痛ッ…!たいなぁ!もう!!」

「いや、今のは隆が悪いだろ…。」


もうすっかり元気そうなので、俺は隆を置いて先にすたすたと廊下を歩き始めた。


「待てよ倖多!」と追いかけてくる隆は子供みたいで、ちょっとだけ可愛かった。


いくら周りが隆を最低な奴って思ったとしても、俺はそんな簡単に隆のことを嫌いにはなれないと思った。


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