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「おい中本、もしかして今新見くんに無視られなかったか?」


中本と廊下を歩いていると、前から歩いてきた新見くんが俺たちからすっと目を逸らして通り過ぎていった。そんな瞬間を見てしまい、俺はすぐに中本にそう声をかける。


「…え、まじ?すげーショックなんだけど…。」


中本は新見くんの背中を悲しそうな顔で眺める。その気持ちはよく分かる。ここ最近、会えば声を掛け合えるくらい仲良くなってきたのに、なんでいきなりシカトするんだよ?新見くんの行動の意味がわからない。


「瀬戸に友達と仲良くすんなとでも言われたか?」

「そもそもあいつ、俺らのこと友達とか思ってねえよ。」

「は?うぜえな。やっぱガチな束縛野郎じゃね?」

「まじで頭イカれてるしな。あいつ。」


詳しいことを中本はあまり話さなかったけど、スポーツ大会の日に新見くんが絡まれたことで瀬戸が怒り狂ってるのだとか。その怒りの矛先を自分にまで向けられている、と中本は不満そうに話していた。

そんなこともあって、いつも以上に憎らしそうに瀬戸のことを口悪く罵っている。


「つーか瀬戸のこと病的に好きだったっつー先輩も頭イカれてたらしいけど、その先輩にまであいつクソ男呼ばわりされてるらしい。」

「まじかよ、超ウケんだけど。」


瀬戸の話は学校中であれこれ嘘かほんとか分からないことまで噂されていて、俺と中本はどこからともなく耳にした瀬戸の噂話をネタにしながら笑っていた。



中本とは二人で瀬戸の悪口を言いまくっている俺たちだが、俺たちの先輩である祥哉先輩と瀬戸は仲が良い。

それゆえ、二人が一緒にいる時に顔を合わせてしまうと非常に気まずい。


向こうは体操服を着て階段を上ってきたのに対し、俺たちは美術室へ向かう途中だった。


「あ、祥哉先輩こんちわーっす。」

「…ちわっす。」

「おーす。」


俺が先に祥哉先輩に挨拶をした後から、中本は目を合わせたくなさそうに軽く頭を下げながらぼそっと挨拶する。

ここで俺は瀬戸を盗み見すると、瀬戸は冷酷な顔付きで中本のことを睨み付けていた。

そんな瀬戸を見ていると、俺は『中本が一体何をした?』と腹立たしい気持ちが湧き上がる。


「瀬戸先輩顔怖いっすよ?中本になんか恨みでもあるんすか?」

「ちょ、小西っ!」


思ったことをそのまま口にすると、すぐさま中本に止めに入られる。瀬戸はと言えば不機嫌そうに、今度は黙って俺を睨みつけてきた。


「小西、黙ってる相手に自分から喧嘩売りに行くな。隆なんも言ってねえだろ。」

「すんません。」


『いやその顔が中本に喧嘩売ってんだよ!!』と言ってやりたいが祥哉先輩相手にはしょうがねえから気持ちを抑えて頭を下げる。

中本が早く立ち去りたそうに背中を押してくるから俺はそのまま先輩の横を通り過ぎようとするが、そんな俺を瀬戸がキツい目で追ってきた。


そして今まで一言も口を開かなかった瀬戸が、ここで初めて口を開く。


「恨みならあるぞ?なあ中本?」


なにやら意味深に笑みを浮かべながら中本を見て話す瀬戸に、中本は困惑したように顔を引き攣らせながら首を傾げる。


「恨みってなんすか?新見くんと仲良くしてるからとかいうみみっちい理由なら勘弁してくださいね?」

「おい小西…!もういいから行こうぜ!」


中本が何も言わねえから俺が代わりに聞き返すと、中本は慌ててグイグイと俺の背を押してきた。

結局中本は何も言わないまま、先輩が見えなくなるまで早足で美術室に向かった。


なんだよ中本、ビビりすぎだろ。ちょっとくらい言い返せよ。それとも何か弱味でも握られてんのか?

そう思うくらい、中本は瀬戸相手に大人しかった。



祥哉先輩と仲が良い瀬戸に結局俺は喧嘩を売ったようなものだが、放課後になり部活で顔を合わす祥哉先輩は、特に俺に何か言うこともなく黙々と練習に勤しんでいる。

中本は祥哉先輩さえも少し避けがちで、まるで俺は先輩の後輩いじめでも見ているような気分だった。

勿論いじめているのは瀬戸だ。


「まじで瀬戸の態度なんとかなりません?」


俺は休憩中に、汗を拭きながら水分補給をしていた祥哉先輩に思い切って話しかけた。

すると祥哉先輩は、「なんとかって?」と少し気怠げに聞き返してくる。練習の疲れからか、俺からの問いかけが面倒だからかは分からない。


「中本に当たりキツすぎるんすよ。」

「あー…それなぁ。中本がほんとのこと言わない限り隆はずっと中本を疑いの目で見続けるだろうからなぁ。」

「はい?ほんとのことって?なんすかそれ。」

「え?」


意味が分からない祥哉先輩の話に聞き返すと、祥哉先輩は途端に口をポカンと開けたまま固まった。


「つーか恨みとか疑うとかなんの話っすか?もしかして中本の方が何かやらかしました?」


意味不明すぎてそこまで聞くが、祥哉先輩は暫く固まったまま何も話さなかった。

そのまま休憩時間が終わってしまい、スーッと歩いて行ってしまう祥哉先輩。


いやいや、気になるようなことだけ言って言い逃げかよ!!!


祥哉先輩はどうやらうっかりそれを口にしてしまった、というような態度で、俺に詳細を教えてはくれなかったから、これはもしや中本の方が何か俺に隠してることがあるな?と、俺は中本に対して疑念を抱いた。


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