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祥哉先輩が集合場所に現れると、隆はようやく俺の横から去って行った。


「瀬戸先輩も出るんだね。」

「うん、すげえやる気なさそう。」

「あーなんかそんな感じしてたね。」


隆が立ち去ってすぐ、隆の話をクラスメイトとしていると、「倖多〜」と名前を呼ばれ、隆と入れ違いに中本と小西が俺の元へ歩み寄ってきた。


「おはよー、倖多と今日初めて喋れた〜。」

「おーおはよう。そういや二人とも走り系全部出るって言ってたよな。」

「そうそう、俺ら陸上部ってだけで決められたよな。」

「うん、俺短距離なのに1000メートルも…。」

「俺なんか跳躍だぜ?」

「いや、でも普通に二人とも速そう。足の筋肉の付き方がまず普通の人と違うよな。」


中本の足は無駄な脂肪がついておらず、細く長く綺麗に筋肉がついた足してるし、小西の足も筋肉質で逞しい足をしてる。方や俺の足なんかろくに筋肉もついておらずひょろひょろだ。


「見ろよ俺の足、力入れてもふくらはぎの筋肉こんだけなんだぞ?」


俺はそう言いながらフンッと少し足に力を入れてみるが、残念なことに『こんだけ』とか言いながらあんまり通常の時と変化が無かった。


「…う、うん…でも綺麗な足してるな。」


お世辞なのか、俺の足にそんな感想を言ってくれる小西の隣で、中本は反応に困ったのかジッと無言で俺の足を見下ろしていた。

恥ずかしいから見せつけるように内側に向けていた足を、そっと元に戻した。



1000メートルリレーの出場者たちと雑談しているうちに綱引きは終了しており、体育委員にクラスで色別のビブスを配られ、俺は『3』の数字が書かれた黄色のビブスを着た。


隆の姿を探すと、少し離れた場所で同じく黄色のビブスを着ている隆を発見する。数字は『4』だった。ちなみに祥哉先輩は『5』のビブスを着ており、当たり前にアンカーのようだ。


隣のAクラスを見てみると、赤いビブスを着た中本が『4』を着ており、小西が『5』だった。


「うわぁ…やっぱ祥哉先輩アンカーだよなぁ。」という小西の声が聞こえてきて、走る前から戦意喪失してそうだ。


「陸上部って長距離祥哉先輩だけ?」

「いや、他にも居るけどダントツで祥哉先輩が速い。」

「そうなんだ。」


陸上部で走り専門の小西ですら自信なさそうにしてるんだから、俺らのクラスはまじで『目指せビリ回避!』な感じがしてしまう。


「みんながんばろうな…。」

「うん…がんばろ…。」

「新見くんいるだけですげえやる気出るよ。」

「まじでそれな。」

「俺、頑張って前の奴抜かすよ。」

「おう、頼む。」


走る前に5人で励まし合いながら、俺たちは全校生徒に注目されているグラウンドの中央へ、足を進めた。



『それではこれより、1000メートルリレーを始めます。』


副会長のアナウンスする声が聞こえてきて、1年から3年までの第一走者がずらりと2列で並んだ。人数が多いため、体育委員がしっかり担当を決めて1周毎にタイムを記録する決まりになっている。


「あっ新見くん!俺1S担当なんで!頑張ってください!」

「え…あ、はい…頑張ります。でもあの、俺遅いんで…。」

「大丈夫です!応援してます!」


律儀に体育委員の一人が記録用の紙を持って、俺にそう声をかけてくれた。臙脂色のハーフパンツを穿いていから多分2年の先輩だ。

1周1周タイムを記録されるのは恥ずかしいけど、バカにしてくる人ではなさそうだからなんとなく安心する。


間もなく『位置について、よーい』という声がグラウンドに響き渡り、『パン!』とうるさいピストル音が鳴った後、一斉に第一走者が走り出した。


4、5人がハイスピードで飛び出していき、その後をぞろぞろと追うように走っている。


俺のクラスメイトは後ろから数えた方が早い位置に居るが、なんとかビリを避けるように頑張って走っていた。


「がんばれがんばれ!あと3周!」


1周毎にそう声をかけながら応援すると、コクリと頷いてくれるクラスメイト。1位とはもうすでに随分距離が離れてしまっている。


第二走者にたすきが渡った頃には、1位争いをしている人たちとは半周ほど差がついていた。


二走者目のクラスメイトが走っている時、俺はそわそわと落ち着かない気持ちで応援する。

ああ、あと3周、あと2周…もうちょっとで自分の番だ…という時、スッと静かに俺の隣にやって来た隆。

クラスメイトの応援なんてまったくしていなさそうに、かったるそうな態度で現れる。


「…はぁ、全然やる気出ねえ…。」


…この期に及んでまだ言ってるよ。


「まあまあそんなこと言わずに。隆のかっこいいとこ見たいなぁ?」


なんとかやる気が出ないものかと俺はそう声をかけてみるが、チラリと無言で俺に目を向けるだけの隆。…あーもう、やっぱりご褒美がねえと無理ってか?


「…はぁ、もう。しょうがねえなぁ。…じゃあ、隆のかっこいいとこ見たらうっかり抱かれたくなるかもな?」


やれやれ、と仕方なくそんなことを口にしたら、無表情だった隆の顔にはすぐににんまりとした笑みが浮かんだ。


「かも、だからな?かも!」

「あ、倖多呼ばれてる。そろそろ走る番?」

「あぁっ!そうかも…!!」

「がんばれ。」


ポンポン、と隆に背中を押されながら、俺はスタートラインへ向かった。


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