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スポーツ大会のプログラム1番目は大縄跳びで、1年生から順に行われるため俺は杉谷くんと共にクラスに合流した。
1年の大縄跳びが行われている間、隆と祥哉先輩が記録員として生徒会の腕章を付けて縄を回す生徒の近くに立っている。
なんとなく隆のことを見ていたら目が合ってしまい、やっぱりここでも俺に向かってバチンとウインクしてきた隆。なんなんだあれ、癖なのか?
思わず吹き出してしまいそうになるのを我慢するように口を手で塞ぐ。
「新見くん?なに一人で笑ってるの?」
「…ふふ、隆がウインクしてくるから…。」
「ああ、それでか。」
杉谷くんはもう隆の呆れた言動にはすっかり慣れてしまったようで、「あの人ちゃんと数える気あるのかな?」と杉谷くんにちょっと小馬鹿にされている。
クラス対抗で2クラスずつ順に大縄を跳び、俺のクラスは跳んだ回数より引っかかった回数の方が多そうなので順位はあまり期待できない。
終わってすぐに隆と記録員を交代し、隆は祥哉先輩と共にクラスの方へ向かっていった。
俺は他のクラスの回数を数えていたから、残念ながら隆が跳んでるところは見れなかった。
大縄跳びが終わると玉入れや綱引きへと進み、その次が午前種目で一番注目されている1000メートルリレーだ。
この種目が終わったら昼休憩に入るけど、走り終わった後に食欲なんてあるのだろうか…。とかいろいろ考えてたらだんだん気分が下がってきてしまった。
そんな時、綱引きの準備に駆り出されていた隆が、少し離れたところで綱引きの光景を見ていた俺の元に歩み寄ってきた。
「あ〜倖多いたいた。ちょっとだけイチャイチャしよ?」
そう言いながら、バッと広げた隆の両腕が俺の身体に伸びてくる。
「えぇ、ちょっ人目人目!」
「いいだろ、ちょっとくらい。こうでもしなきゃ次1000メートルなんか走る気出ねえよ。」
頬に唇を寄せられ、チュッと触れる隆の唇。
あっちからもこっちからも視線を感じて、あーあ何言われてるか分かんねえよ?と思いながらも、こんなくらいでやる気出るのならまあいいかと人前でありながらも拒むことはしなかった。
「やる気出た?」
「ん〜、ちょびっとだけ。」
「ちょびっとかよ〜。」
「倖多がご褒美くれるんだったら頑張るけどな。」
「俺だって1000メートル走るんだけど?じゃあ俺が頑張ったら何かご褒美ある?」
「クセになるくらいきもち〜いセックスしてあげる、ッ!痛っった!!!」
…あーあ、俺余計なこと聞いちゃった。
隆は恥ずかしげもなく俺の耳元でそんなエロいことを囁いてきたから、俺は咄嗟に顔がカッと熱くなり、ペシン!と隆の頬をビンタしてしまった。
「瀬戸今新見くんにビンタされたよな。」
「やっぱりただの片想いっぽくね?」
「ウケる、あれだけ人前でベタベタしといて?」
「ベタベタ触りすぎだからウザがられたんだろ。」
あーあー、ほらまた悪口言われちゃってるよ。
ビンタしちゃった俺も悪かったけど。
痛がる隆の声に何事だとチラチラ周囲から視線を向けられる中、俺はパタパタと自分の顔を手で扇いだ。
「あー暑い暑い。」
「ちょっ、倖多!手加減無しかよ!?クソ痛かったぞ!?」
「いきなり人の耳元で恥ずかしいこと言ってくるからだろ。」
「俺は真面目に言ってるんですがあ!?」
「はいはいそうですか〜。」
「あ〜やる気出ない。あ〜っほんとにやる気出ないなぁ〜。」
「りゅうちゃんさっきからうるさいよ。あーほらもう綱引き終わりそう、向こう行かないとねー。」
「…はぁ。クソ萎える。」
「こら、萎えるとか言わないの。」
まじでやる気無さそうな隆の背を押しながら、1000メートルリレーの出場者の集合場所に足を運んだ。
「あっ新見くんこっちこっち!」
向かった先にはもう1000メートルリレーに出るクラスメイトが集まっていて、みんなから手招きされる。すると隆まで俺の後についてきてしまい、「あ…こんにちは」と控えめな態度で挨拶をされている隆。
無愛想にペコッと頭を下げただけで、隆は黙って俺の隣に突っ立っていた。
「走る順番は遅い順にしよっかって話してたんだけど新見くんもそれでいい?」
「いいよ。てことは俺3番目?」
「うん、そういうことになるね。」
「目指せビリ回避!」
「えー、全学年クラス一斉に走るんだろ?さすがにビリにはなんないだろ〜。」
『ビリ回避!』とか言ってるクラスメイトの発言に反論するのは持久走クラス1位の奴だけど、俺も普通にビリあり得るんじゃねえの?と思ってしまった。
だって俺がクラス3位だぞ?
せめて俺の時点で一つくらい順位を上げてタスキを回せたら良いんだけど…。
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