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スポーツ大会までの間、朝早起きして祥哉先輩と一緒にジョギングさせてもらい、速く走るためのアドバイスをしてもらった。
俺が朝走ると言ったら、眠そうにしながらも隆も一緒についてくる。
「疲れてくるとどうしても姿勢が悪くなってくると思うけど、その姿勢の悪さが走りを遅くするんだよ。」
勿論一番重要なのは持久力だけど、さすがは陸上部の祥哉先輩。練習でただひたすら走っているだけじゃないようだ。
祥哉先輩は俺にそう話しながら、隣で走っていた俺の尻をグイグイと押してきた。
「あっ!おい祥哉!なに倖多の尻触ってんだよ!!」
「尻が後ろに下がるとダメだ。」
「おい祥哉!!」
「重心が後ろにいかないように、背筋はそのまま、足出して尻、足尻、足尻。」
「おいバカ!倖多の尻触んな!!!」
「じゃあお前の尻触るぞ。」
祥哉先輩が独自のアドバイスをしてくれるが、結局はある程度筋力も必要で、筋力が無いとその姿勢を保つこともできない。たった数日練習したところで、祥哉先輩のアドバイスは気休めに過ぎない。
それでも姿勢が大切なのは確かだ。ジョギングしながら俺はしんどくても、姿勢が悪くならないように意識しながら走った。
「隆もまだ重心が後ろに下がり気味だからもっと尻意識しろ。」
「はっ!?キモイって、触んな!」
「別に下心はねえよ。」
「知っとるわ!!!」
祥哉先輩が俺の尻に触れると隆がギャーギャー騒ぎ始めたから、今度は隆の尻を押しながら走る祥哉先輩。それでもギャーギャー騒がしい。
「背筋ちょい曲がってる。足出してすぐ尻移動。」
「さっきから尻尻うるせえぞ!お前尻って言いたいだけだろ!」
「いや真面目に尻は大事なんだって。」
「重心移動のこと言ってんだろ!?じゃあ腰で良いだろ、腰で!」
「おお、さすが隆。飲み込み早いな。」
「やっぱお前ただ倖多の尻触りたかっただけなんだろ!」
「それは違うって。」
少し喋るだけではぁはぁと息が上がってくる俺に比べて、ギャーギャーうるさい隆の方がまだまだ余裕がありそうだった。
こうして、数日間ではあるが朝のジョギングのおかげでほんの少しだけど自信が付き、前向きな気持ちで俺はスポーツ大会の日を迎えた。
天気はあまり良くなさそうだが、曇りなのでこのまま外でスポーツ大会が行われるだろう。
グラウンドには朝早くに集合した体育委員が、1周250メートルの白線を引いている。
クラスリレーはこれを半周、1000メートルリレーは4周だ。…4周かぁ、4分もあれば余裕で走り終わるよな?って、カップ麺の待ち時間に走ってる姿をイメージする。うん、すぐだな。きっとすぐ終わる。
「倖多、グランド見つめてなにやってんの。今から長椅子並べるんだって。」
「あ、うん。分かった。カップ麺にお湯入れた後の待ち時間で1000メートル走ってるの想像してた。」
「おぉ、いいなそれ。3分きっかりに食いたかったら早く走れってか?」
「そこまでは考えてなかったけど。」
「硬麺派の俺、2分半目指すわ。」
よっこらせ、と長椅子を置きながら現れた祥哉先輩の言葉にギョッとする。
「2分半!?それはさすがに速すぎでは?」
「目指すことに意味があるってもんよ。」
「…おお、言うことがさすがですね。是非カップ麺にお湯入れてから走ってみて欲しいです。」
そんなくだらない会話をしながら長椅子を並べていたら副会長に見つかってしまい、「喋ってないでさっさと並べろ。」と怒られてしまったのだった。
準備を終え、スポーツ大会開始時刻が近付くと、グラウンドにはわらわらと生徒たちが集い始め、先生たちは学年クラス毎に生徒たちを並ばせている。
生徒会役員はプログラムに沿ってアナウンスしたりしないといけないようなので、本部として用意されたテント内に待機だ。
プログラムが書かれた紙を片手にグラウンドの前方中央に立った副会長が、始業の3分ほど前にマイクを通して口を開いた。
『生徒のみなさんおはようございます。そろそろ開始時刻となりますのでお静かに。』
副会長のその声で、騒がしかったグラウンドがあっという間に静まった。
そしてその後すぐチャイムの音が鳴り響き、『えー、それではこれより、スポーツ大会を始めたいと思います。』と指揮を取り始めた副会長。
学園長の挨拶に続き、『次に生徒会長の挨拶です』という副会長の声が響いた瞬間、隆の隣でぼけっと立っていた会長が途端にピンと背筋を伸ばし、生徒たちの前に立った。
すると生徒の方から聞こえてくる「会長〜」「かっこい〜」というチヤホヤされている声。
後輩が生意気なことを言うと副会長が怖いので、俺は決して口には出さないけど、どう見てもお飾りの会長だなぁと思ってしまった。
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