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「1000メートルリレー誰か走ってくれる人ー。」
2年Sクラス、体育委員の言葉の後、すぐに注目される祥哉。本人も勿論不満無さそうに手を挙げ、一人目が決定した。
俺はさっさと決まってくんねえかなと思っていると眠気が襲ってきて、堪え切れないあくびをした時「瀬戸も走れよ。」と突如冷めた目で俺を見て言い出すクラスメイト。
すると、「ほんとだよ、生徒会コンビで走れよ。」と別の奴も便乗するように言い出し、「は?」と声のした方を睨みつけるが、誰とも目が合わず誰が言ったのかは分からなかった。
「体力測定の持久走適当に走ってたけどどうせこれやりたくなくてわざと手抜いてんだろ?」
「だよな。去年成績に関係する時はちゃんと走ってたくね?狡い奴。」
「こういうのは面倒だから誰かやれよ、って感じ?顔に出てんだけど。」
今まで胡麻を擂るように俺に話しかけてきたクラスメイトの態度が、180度変わった。1人じゃ喧嘩を売る勇気も無いくせに、多数が同じ意思を持ってると協力して攻撃しようとしてくる空気を感じる。気持ち悪すぎる。
反論したり、言い返すのですら面倒だ。
クラスメイトが言ってるように、手を抜いたことに間違いは無い。でも別にそれは俺だけじゃねえだろ。
ムカつくクラスメイトの態度に『ガン!』と八つ当たりするように机を蹴って言ってやった。
「出れば良いんだろ、出れば。そのかわり押し付けてきた奴が結果で文句言うんじゃねえぞ。」
俺のその一言で、シーンと教室内は静まった。
言い返されたら誰一人何も言い返してこないクラスメイトに、胸糞悪すぎて吐き気がした。
スポーツ大会まであと数日しか日数が無いのに、俺と同じく1000メートルリレーに出ることになった倖多は、朝ジョギングをしている祥哉と一緒に走ると言い出した。
俺は倖多と祥哉を二人で走らせるのも嫌で、それを言うと『隆も一緒に走ろうよ。』と言われてしまったため、しょうがねえなと腹を括り、朝6時半前に起床し、3人で寮の近くをジョギングする。
朝日が眩しい。
「ふぁ〜」といつも以上にでかいあくびが出る俺を見て、祥哉がニヤッと笑ってきた。
「隆が一緒にジョギングするとはな。新見の存在大きいなぁ。」
「うるせえな、良いだろ別に。」
「悪いなんて言ってねえよ。隆の頑張り見せつけて周りを見返してやろうぜ。」
「…別にそういうのどうでもいいし。」
「クラスの奴らの態度は見てて俺も不快だったんだよ。頼むから見返してくれ。」
俺と祥哉の会話を隣で口も挟まずに聞きながら、倖多は黙々と走っていた。別にわざわざ言わなくても、俺が周りに良く思われてないことは倖多も知ってるから、多分もう俺のクラスでの話も倖多は察していそうだ。
喋りながら走っているとだんだん息が上がってきた。
祥哉は俺と倖多に合わせるように軽く走っているようだけどそれでも十分速すぎる。30分程走り終えた頃には、俺も倖多もはぁはぁと荒い息を吐いていた。
「つっかれたぁ…祥哉先輩全然息上がってなくて凄いですね…。」
時刻が7時を少し過ぎた頃、寮の前まで帰ってきて足を止める。
「まあジョグだからな。こんなもんよ。」
「スポーツ大会までには俺もちょっとくらい体力つきますかね?」
「やらねえよりは全然良いだろ。ストレッチとかもしておくと良いと思うぞ。」
祥哉はそう話しながら、片足を前に出し、もう片方の足を後ろに伸ばして体操し始めたから、その真似をするように倖多も体操し始める。
たかがスポーツ大会の一種目のためだけにわざわざ早起きしてジョギングする倖多に、完璧主義なんだろうか?と思いながら倖多を横目に俺も釣られて体操する。
倖多が居るから俺もこんなことやっているのであって、ずっと倖多の方を見ながら体操していると不意に目が合って、倖多はその瞬間にっこり爽やかに笑って口を開いた。
「隆も出るからには1000メートルリレー頑張ろうぜ。」
倖多だって出るの嫌がってたはずなのに。
出ると決まったら努力する倖多のその性格はすげえいいと思う。
「…うん。じゃあ、頑張るからご褒美ちょうだい。」
でも俺はやっぱりクラスメイトの不快な発言の所為で出る羽目になったから、素直に頑張るなんて言えない。
せめて頑張る理由が欲しくて倖多にそう言うと、「俺が隆にご褒美あげんの?なんでだよ。」と笑われる。
「倖多がご褒美くれたら頑張る。」
「え〜、じゃあ参考までに聞くけどご褒美何が良いの?」
「言ったら倖多怒りそう。」
「あー。うん。何が言いたいのかなんとなく分かった。」
倖多はペシッと俺の頬を軽く叩いて、寮の中に入っていった。
……はぁ。倖多のバーカ。汗かいても疲れててもそそる顔しやがって。
なにしてても可愛い倖多に俺は軽くキレながら、ため息混じりに倖多の後を追いかけた。
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