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「えー、それではスポーツ大会についての委員会を始めます。よろしくお願いします。」


生徒会でスポーツ大会についての話を聞いた翌日の放課後に行われた体育委員会で指揮を取るのは、真面目そうな雰囲気の3年の体育委員長だった。

俺たち生徒会役員は、一番後ろの席に座って静かに話を聞くだけのようだけど、会長や副会長、それに隆の存在を気にするように振り向いてくる生徒をチラホラ見かける。

委員会に集中しろよ、と突っ込みたいところだが、俺の隣に座った隆も全然話を聞く気無さそうに、机の上に置いていた俺の手を触ってきた。

すると、隆の隣の席から手が伸びてきて、『ペシン!』と頭を引っ叩かれた音が室内に響き渡る。勿論隆が副会長に頭を叩かれた音だ。

毎度毎度、副会長の監視の目があるというのに懲りないりゅうちゃまだ。

半数以上の体育委員たちが隆の頭を叩かれる音で振り向き、頭を押さえて痛がる隆を見て不思議そうにしている。

良くも悪くも目立ちまくる生徒会の先輩たちの隣で俺は苦笑した。


スポーツ大会の種目のアンケートは明日のホームルームで回答してもらい、その集計を取るのは生徒会の役割らしい。スポーツ大会が終わるまでは、なかなかに忙しそうだ。

俺がそう思ったように、隆もうんざりした顔であくびまでしちゃっている。

隆のあくびする口を閉じさせようと隆の顎に手を添えて上に押すと、カクッと隆の口は閉じたがその時の隆の顔が面白すぎて、俺は「クッ…」と笑い声が漏れそうになってしまった。


「こら、新見までなにやってんの。」

「…すみません。」


うっかり俺まで隆を見ていると遊んでしまい、副会長に注意されてしまった。隆も俺も、多分生徒会は向いてないんだと思う。


委員会は数十分で終了し、終わった瞬間隆が「疲れた」と俺の身体にだらりと倒れ込んできた。


教室を出て行く体育委員にチラチラと目を向けられながらも、「隆最近まじで弛んでるぞ。お前がずっとそんな態度だったらまじで新見にお触り禁止令でも出すぞ。」という厳しい声で副会長から冗談か本気か分からないことを言われているおかげで、隆が周囲から野次を飛ばされるようなことは無い。


「嫌っす!委員会終わったんだから別にもうよくねえすか!?」

「よくねえよ、恋人とは言え隆は新見の先輩でもあるんだからシャキッとしな。そんな態度取ってるからいつまで経ってもお前への悪口が絶えないだよ。」


副会長のそんな言葉に、少し不貞腐れながらも無言で頷く隆。さすがは副会長様だ。その後の隆は大人しく、でも俺の手はしっかり握りながら、副会長たちと共に帰路に就いた。

副会長は口ではいつも厳しい事を言ってるけど、隆が悪く言われないように守ってくれているような気がして、俺は副会長の優しさを感じたのだった。



さっそく翌日のホームルームでは、スポーツ大会のアンケート回答の時間が設けられ、俺も体育委員会で一足先に内容を見たアンケートに答える。


雨天の場合のやりたい球技は、なんだろう…バレーがいいかな。バスケでもいいな。卓球…は苦手だし、ドッヂボールは嫌だ。球技はあまり悩む事なくバレーと答えて、メインの質問は晴れた時の場合の種目だ。


一つ目は、1000メートルリレーか持久走…どっちもあんまりやりたくはないけど、どちらが良いですか?という質問に一つ丸をつけなければいけない。確か1000メートルリレーに決まると出場するのはクラスで5人くらいだし、持久走に決まると参加人数が十数人にまで増えてしまうはず。

人任せで申し訳ないが、俺はクラスで持久力のある人に任せるつもりで1000メートルリレーに丸をした。


二つ目に騎馬戦、棒倒し、二人三脚、ムカデ競走、どれがやりたいですか?という質問。これは確か全員参加だったはずだから、小学生の頃にやって楽しかったのを思い出して俺はムカデ競走を選ぶことにした。


スポーツ大会とかいう呼び名だけど実質体育祭みたいなものだろうと俺は思っているが、持久走などの種目によっては活躍した人に食券が貰えたりするらしいから、頑張れば頑張るだけ良いことはあるらしい。


各クラスで回答してもらった1年の分のアンケートは俺と杉谷くんで回収しに行き、そのまま放課後に杉谷くんと手分けして集計した。


同じように2年は隆と祥哉先輩、3年は会長と副会長で集計し、全体の結果がすぐに出た。


「やっぱみんな1000メートルリレー選ぶよなぁ、持久走出たくない奴が大半だろ。」

「俺持久走選んだぞ。3000メートルだし。」

「そりゃお前はな。」


隆と祥哉先輩が話している声を聞きながら、俺も杉谷くんと「俺も1000メートルリレーにした。」と話しかけると「僕も。」と頷く杉谷くん。


「でも新見くんは走らされるんじゃない?」

「え?なんで?俺やだよ。」

「新見くん1000メートルのタイムクラスで3番だったでしょ?」

「………え?」


俺はこの時、恐ろしい話を杉谷くんから聞いてしまい、冷や汗が流れそうになった。


「うちのクラスあんまり走り速い人いないよ?だから新見くん、クラスリレーとかも任されちゃうかも。ちなみに僕は鈍足だから安心だけどね。」


俺は人任せで1000メートルリレーを選んだから、まさか自分が出る事なんてまったく頭にはなかった。


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