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生徒会室のある校舎を出て、グラウンドの横を通って校門へ向かっていると、陸上部が練習している姿が見えた。
「あ、祥哉先輩走ってる。」
何メートル走っているのだろう、短距離でもない、かといってそれほど長距離を走ってるとも思えない速いスピードで走っていた祥哉先輩の姿に目を奪われた。
「うわ、キツそ〜。ドMじゃねえか。」
「…ドMって。失礼だな。ストイックな感じでかっこいいじゃん。」
「長距離走るのってゴールした瞬間が快感だったりすんのかな?」
「んー、ゴールした瞬間って言うより自己ベスト更新した時じゃねえの?みんなそのために練習頑張ってるんだし。」
「あー、そういや祥哉も前に自己ベス出たとか言って喜んでたな。」
隆と喋っているうちに、祥哉先輩はハイペースで走るのを止めて軽くジョギングするような走りに切り替えた。
しかしそれもほんの数メートルだけで、すぐにまたダッシュするように走り始める。
「は!?ドMじゃねえか!!!」
またもやそんなことを言う隆の大声が辺りに響いてしまい、走ってる途中の祥哉先輩がチラッとこちらを向いてしまった。
祥哉先輩だけでなく、近くに居た陸上部部員にも気付かれてしまい、俺は隆の口を手で塞ぐ。
「こらー、練習の邪魔しちゃダメだろー?」
そう言いながら、俺はさっさとその場から退散しようとしていたが、スポーツドリンクを持った小西が歩み寄ってくる姿が見え、小西に向かって軽く手を振る。
「新見くんだー。何やってんの?」
「あ、小西だおつかれー。祥哉先輩が走ってるとこ見えてちょっと見学してた。」
「あーだからドMって?俺も長距離やってる人のことまじそう思う。」
「ほら、やっぱそう思うよな。」
おいおい、失礼だぞ。そんな話で意気投合してんなよ。てか隆のドM発言普通に陸上部部員に聞かれてるし。長距離専門の方ごめんなさい…。
「小西はなにやってんの?サボり?」
「ううん、休憩中。あ、中本こっち見てる。」
「あ、ほんとだ。あいつは何やってんの?」
「あいつは多分助走練習かな。」
「跳ばねえの?跳んでるとこみたいな。」
「多分そのうち跳ぶと思うけど。」
小西とそう話していたら、隆にグイッと腕を引っ張られた。
そろそろ帰りたくなってきたのかと一瞬隆に目を向けるが、すぐに小西が「おっ跳ぶ跳ぶ跳ぶ!」と言ってきたから、また中本の方に見た瞬間、中本は長い足でタン、タン、タン、タン、と勢い良く走り始める。
そして砂場の少し手前に引かれた線ギリギリのところでジャンプし、グンと砂場の上を跳ぶ中本。
「おお、すごっ!めっちゃ跳ぶなぁ!」
軽く5、6メートル跳んでそうな中本の跳躍に、パチパチと手を叩く。
「は?びっくりしたぁ、中本なにいきなり本気になって跳んでんの?」
中本が砂場から起き上がっている途中、一緒に練習していた部員にびっくりしたように声をかけられていた。
「あ、いや…なんか、あそこで跳んで欲しそうに見られてる気がして…。」
「おお、新見くんじゃん。」
練習を見ていたのが中本と一緒にいる部員にもバレてしまったようで、俺はその部員からチラリと目を向けられた気配を感じたところで、「あ、じゃあそろそろ行くわ。」と小西に声をかけてから再び歩き始めた。
中本の跳躍を俺が褒めたからか、隆は面白くなさそうに少しムッとした顔をしていた。
*
「おい小西小西!倖多さっき練習見てたよな!?何か俺のこと言ってたか!?」
学園内の人気者、さらにイケメン彼氏を持つ新見倖多に無謀な恋をしている男、中本が練習を終え、後片付けの時間になると真っ先に俺の元へ駆け寄ってきた。
「すごいっつって手ぇ叩いてたぞ。良かったな、運動神経良いアピール成功。」
「まじ?かっこいいとかは?」
「それは言ってなかった。」
「ちぇ。」
中本は良く言えば塩顔イケメンにギリ入りそうな雰囲気ではあるけど、なんと言っても瀬戸がイケメンすぎて、瀬戸を見慣れた新見くんが中本をかっこいいと思えるのかは少々怪しい。
新見くんにかっこ良く見られたいようだけど、外見はどう頑張っても瀬戸には敵わねえから、中本はその運動神経、爽やかさや雰囲気、中身で勝負するべきだと俺は考える。だって瀬戸は顔も頭も良いけど運動神経はなんとなく悪そうだし。まあ俺の勝手なイメージだけど。
「新見くんにアピールするなら今度のスポーツ大会チャンスじゃね?」
「あー、6月入ってすぐだよな。」
「雨降ったら球技になるらしいけど。」
「まじ?晴れてほしいなぁ。俺らでクラスリレーぶっちぎり狙おうぜ。」
一応走りの方もそこそこ得意な中本は、やる気満々で俺にそう言ってくる。
毎日虎視眈々と中本は新見くんに近付こうと目論んでいるから、きっとスポーツ大会でも隙あらば瀬戸の目を盗んで、新見くんとの距離を縮めようとするだろう。
無謀な恋でも諦めない、負けず嫌いな性格の中本を、俺は凄いなという思いと、少し羨ましい気持ちで見ていた。
陸上をやっている上で、負けず嫌いなのは間違いなく長所だと思うからだ。
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