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「は?なにあれ新見くんかわいー。」

「瀬戸うざ。」

「まじで新見くんに触んな。」

「うわ、あいつら絶対やってんなぁ。」


元々騒がしかった食堂内にて、口々によく話題にされる人物の名前が聞こえてきたかと思ったら、夜の食堂に珍しく新見くんと瀬戸先輩が現れたからだったようだ。

二人の姿に嫉妬する者も居れば、ニタニタと下衆な笑みを浮かべてあれこれ勝手に想像されたりもしている。


「お、新見くんと瀬戸居んじゃん。珍しいな、あの人ら夜あんま食堂来ねーのに。」


俺の目の前で飯を食う手を止めて口を開くのは、同じ陸上部部員の友人だ。俺と同じく瀬戸先輩を鬱陶しく思っている一人で、俺らだけの時には先輩を呼び捨てしている。


「中本せっかくだし話しかけて来いよ。」

「瀬戸の居ない時に話しかけるって決めた。」

「なんだよ消極的だな。早く奪いに行けよ。」

「面白がってんなよ、警戒されたらせっかく知り合いなれたのに近付けなくなるだろ。」

「ほー、なるほど。慎重だな。」


友人はさほど興味無さそうに頷いて、夕飯のカツ丼を頬張った。もぐもぐ口を動かしながらも、新見くんたちのことをまだ目で追っている。


「おっ、祥哉先輩んとこ行ったぞ?」

「まじ?」


俺たちは部活が終わったあとそのまま食堂に来たけど、祥哉先輩も来ていたようだ。友人が見ている方に俺も視線を向けると、隅っこの席で一人黙々とご飯を食べている祥哉先輩の姿があった。


新見くんたちは一言二言祥哉先輩に話しかけた後、注文カウンターへと向かって行く。


「おい中本今だって!まじで行ってこいって。祥哉先輩と話してる風に装ってこいって。」


ニヤニヤしながら俺を煽る友人の声に促されるように、俺は残り僅かだったご飯を口の中に掻き込んで、その場から立ち上がった。


「祥哉先輩おつかれっす。」

「ん?おー中本か。おつかれ。…あ、新見?」


祥哉先輩はすぐに俺が話しかけた理由を察したようだが、俺は軽く首を振った。


「祥哉先輩が居たから声かけただけっすよ。」

「嘘くせ〜、さっき新見が居たからだろ。」

「いやいや。でもまあ、偶然装って話しかけねーと瀬戸先輩に嫌がられますし。」

「全然偶然を装えてねえけどな。」


祥哉先輩と会話をし始めたところで、俺は祥哉先輩の正面の席の椅子を引き、腰を下ろす。


「瀬戸先輩いたらまじで俺、仲良くなるのもキツくねえすか?」

「そんなに新見と仲良くなりたかったらまず隆と仲良くすればいいんじゃねえか?」


は?瀬戸と仲良く?絶対無理なんだけど。


…なんて心の中で言いつつも、俺は納得するように頷く。

そうしているうちに、数分でまたお盆を待った新見くんと瀬戸先輩が祥哉先輩の席に戻ってきた。

チラリと俺は二人から目を向けられ、鋭い視線を向けられている瀬戸先輩の方を主に俺は目を向けて会釈する。


「あれ?中本?」


カタッ、と俺の隣の空席にお盆を置いて、新見くんが俺の名前を口にした。


「なんだよお前、どっか行けよ。」


しかしすぐに瀬戸先輩からキツい声を向けられ、俺は無言で瀬戸先輩に目を向ける。


「隆、言い方キツイって。」


新見くんにそう言われ、瀬戸先輩は渋々祥哉先輩の隣の席におぼんを置いて椅子に座った。

やはりまたしても、瀬戸先輩が居るタイミングで新見くんとの接触を図ろうとしたのは失敗だったか?と思う中で、新見くんはチラリと俺の方を見て話しかけてくれた。


「中本ご飯は?」

「俺はもう食った。」

「あ、そうなんだ。」


顔も綺麗だけど、ご飯の食べ方も綺麗で、新見くんがおかずを箸で挟んでぱくりと口に入れる瞬間をジッと見つめてしまった。この距離まで近付けたことなんて無かったから、余計見てしまうのだ。


しかしそんな俺に、ずっと鋭い視線が突き刺さっている。言わずもがなそれは瀬戸先輩の視線で、俺はここでついさっきの祥哉先輩の発言を思い出した。


『そんなに新見と仲良くなりたかったらまず隆と仲良くすればいいんじゃねえか?』


それもそうだよな。この人に敵視されてしまうとなにかと不便すぎる。


「先輩そんな敵視するのやめてくださいよ。新見くんと付き合ってるの俺は信じてますし応援してますよ?」

「は?応援?嘘ほざいてんなよ?倖多に近付く気満々だろーが。」

「だから友達としてですって。新見くんってすげー人気っすけど、純粋に俺は、実際どんな人なんだろ?っていう興味っすよ。」


俺のその発言に反応したのは新見くんで、「普通普通。興味持たれても俺ただの普通の人だから。」と言って笑っている。


「うん、でも話してたらそんな感じする。」


平静を装ってそんな返事を俺はするけどそれは嘘。新見くんは全然普通なんかじゃねえよ。

綺麗な容姿に、聡明で賢そうな雰囲気。近付きたくても近付きにくい人だからこそ、どうにかして近付いてみたかった。


「明るくて話しやすい感じ。瀬戸先輩居るのに別に二人の邪魔したいとか、そんな気はまじで全くなくて、ただ世間話てきな雑談でもできたら俺は嬉しいんだけど。」


嘘をつらつらと並べながら話す俺に、新見くんは「だってさ、隆。」と瀬戸先輩に目を向ける。


瀬戸先輩は全然納得してなさそうな不満そうな顔をしながら、ボソッと「んなこと言って、倖多に手ぇ出したら絶対許さねえし。」と言ってそっぽ向いた。


そんな瀬戸先輩に、困ったように笑っている新見くん。


「まあまた今度一緒に昼飯でも食おっか。」


そして俺の熱意が伝わったのか、新見くんは俺にそう言ってくれた。


「まじ?嬉しい!俺の友達も誘って良い?」

「うん、いいよ。」


よし、これはちょっと進歩しただろ。

警戒されないように少しずつ…


少しずつ新見くんと仲良くなって、瀬戸より親しくなってやる。


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