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祥哉先輩の後輩ということで友達になった陸上部の中本は、幅跳びと三段跳びを専門としているらしく、隆と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に背が高くスタイルが良い。


教室に向かう最中にそんな話を聞き、「スタイル良いよな。」と目線を落として長い足をジッと見ていたら、中本の顔は真っ赤になっていた。


もしかして中本も、俺のことが気になってるんじゃ…っていう自意識過剰な心配をする。少しでも恋愛感情を持たれているとしたら、俺はそういう人とはできるだけ距離を置きたい。


話していて照れるように言葉を詰まらせたり、顔を赤くしたりする中本に対し、ほんとに友達として仲良くなれるんだろうか?って疑ってしまい、祥哉先輩には申し訳ないけど、友達ができて嬉しいとかいう気持ちには、まだ全然なれなかった。


「倖多は、昼休みとかって誰とご飯食べてる?」

「ご飯はだいたい隆と食べてるなぁ。」

「…あ、そうだよな…。できたら一緒に食べたりとか、したいって思ったんだけど…」

「また機会があったら一緒に食お。祥哉先輩とかも一緒に、みんなで。」

「…あ…うん。…よろしくな…!」


Sクラスの教室前まで来て、中本はぎこちない笑みを浮かべながら「じゃあ俺はここで!」と軽くぺこりと頭を下げながら隣の教室に入って行った。中本はAクラスなのか。


…てか俺ちょっと感じ悪かったかなぁ。仲良くする気がまるで無いような返し方をしてしまった気がする。

うーん…でも友達って、わざわざなろうとしてなるものではなく、気付いたらもうなってた、って感じのものだと俺は思うから、中本とまた次会った時は、自然体で話せたらいいな。



「あ!新見くん新見くん!さっき瀬戸先輩が来てたよ?」


自分の席に着こうと思ったら、杉谷くんが俺の元に駆け寄ってきてそう教えてくれた。


「え、まじ?何の用か言ってた?」

「教室の移動中急に祥哉先輩がどっか行っちゃったんだって。それで1年の教室近かったから新見くんに会いにきたみたい。」

「えぇ…祥哉先輩なにやってんの…。」

「トイレでも行きたくなったのかな?」


いやいや…祥哉先輩なら休み時間に入ってすぐ、俺を視聴覚室に呼び出してきたんですよ。

まさかの教室移動の途中に隆に何も言わずに俺を呼び出したとは…祥哉先輩も結構無茶苦茶な人だなぁ。と杉谷くんの話を聞いて苦笑する。


「結局瀬戸先輩、新見くんにも会えなかったし不機嫌そうに帰ってったよ。」

「あらら。不機嫌りゅうちゃんは勘弁してほしいなぁ。」


杉谷くんは俺の言葉に「だよね。」と笑いながら自分の席に帰っていった。

まだそこまで親しくなれたわけではないものの、同じクラス、同じ生徒会役員である杉谷くんが、今一番俺に取っては“友達”と呼べるような存在になりつつあるのだった。



そして午前の授業が終わるとすぐに隆が俺のところにやって来たのだが、杉谷くんが言っていた通り隆はちょっと不機嫌そうで、「さっき倖多に会いに来たのに居なかったけどどこ行ってたんだよ。」と言われてしまった。


「え?さっき?トイレかな。会いに来てくれたのに居なくてごめんな?」


適当な嘘をつきながらも、ご機嫌取りするように隆の顔を覗き込みながら言えば、あっさりとむくれていた顔がへらっとにやけた顔になった。


「いいよ、可愛いから許す。」


俺の背中に腕を回して、ぶちゅぶちゅと俺の頬にキスをしながら廊下を歩き始める隆。

向かう先は食堂だが、隣の教室を通過しようとした瞬間、先程知り合ったばかりの中本がタイミング良く教室の中から出てきた。

いやこの場合タイミング悪いって言うのかも。


「あ…、倖多!」


名前を呼ばれて視線を向けると、「さっきぶり。」と言って中本は爽やかな笑みを見せてくる。

それを今この場で言われるのはちょっとまずいんだけどなぁ…。さっきって言うと、それはつまり、隆が俺に会いに来てくれていた時間のことだ。


「おーまた会ったな。」と軽く手を振りながら返すと、中本は一歩俺に近付いてきた。その瞬間、隆の手に力が入り、ぎゅっと腰を掴まれる。

チラッと隆に視線を向けると、隆は睨み付けるように中本のことを見ていた。そこそこ予想はしていた反応なので、さっさと中本の前から立ち去ろうとする俺だったが、中本に「あっ待って!」と手を掴まれてしまった。これは予想外な中本の行動だ。


「ん?なに?」

「昼休みくらいはさ、…友達と飯食ったりとかできねえの?」


…さっきもそんな話はしたと思うんだけど。

…えっと、その問いかけは…

敢えて隆がいるところで聞いてる…?


「は?残念だったな、できねえよ。倖多行こ。」


そして隆が居るところでそんな話をしたら、こうなるに決まってる。グイッと手首を掴まれ、グングンと隆に引っ張られながら歩き出す。


中本には悪いけど、こうなることが分かってるのにわざと聞いてきた気がして、なんだか少し俺は中本を疎ましく思ってしまった。



「あいつ誰なんだよ??」

「祥哉先輩の後輩だって。陸上部の。」

「はぁ?祥哉の後輩??」


祥哉先輩に中本を紹介されてからまだそんなに時間は経ってないのに、もう隆に中本の説明をする羽目になった。


「で、一応友達になった。」

「一応?一応ってなに?」

「そこ突っ込むところ?まだ友達になったばっかだから一応ってつけただけなんだけど。」

「てかあいつ俺のことガン無視だったよな?」

「んー…。俺も隆と一緒に居る時話しかけられると思わなくてちょっとびっくりはした。」

「まじ腹立つんだけど。俺とはどうせ付き合ってないとか思って倖多のこと狙ってんじゃねえの?」


ぶつぶつと中本の文句を言っている隆の声を、俺はなんとも言えない気持ちで聞いていた。


ちゃんと隆とは本当に付き合ってるって中本に言ったんだけどな。やっぱり信じてもらえてねえのかな。かと言って、『狙ってる』なんて、そんなふうには俺としてはあまり思いたくない。


「クッソ…祥哉にあとで文句言ってやる。」


“祥哉先輩からの紹介”とまでは話してないのに俺の予想通りの展開になっており、俺はもう何も言わずに祥哉先輩に任せることにした。


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