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祥哉先輩と話した翌日、さっそく祥哉先輩は休み時間俺にラインを送ってくれた。


【 今1年の階の視聴覚室に新見と居るけど来れる? 】


えっ!?祥哉先輩行動早っ!!!

足も速く、頭も良い祥哉先輩は陸上部部員から一目置かれており、そんな祥哉先輩をさすがだなと思う。


急いで教室を飛び出し視聴覚室に向かうと、祥哉先輩と新見くんは穏やかな雰囲気で会話しているようだった。

俺が教室の中に入ると、よっ、と手を挙げる祥哉先輩と、音につられるように俺に目を向ける新見くん。


「来た来た、あいつ俺の後輩の中本。」

「あ、陸上部のですか?」

「そう。新見と友達になりたいんだって。」


俺のことを話してくれている祥哉先輩の声を聞きながら、俺は新見くんの側まで歩み寄った。

近くで見れば見るほど透明感が半端なく、その綺麗な顔に目を奪われる。


何も喋れず小さく頭を下げると、新見くんも「あ、よろしく。」と言って軽く頭を下げ返してくれた。


「友達できるのは俺も嬉しいですけど、先輩俺に男紹介したって隆に怒られません?」


新見くんは祥哉先輩に笑い混じりにそう話しかける。俺のすぐ側で喋っている新見くんを見ていると、俺も早く話したくなってきてしまった。


「だから内緒でここに呼び出したんだよ。中本まじで友達になりたいだけっつってるけど、隆にそれ言ったところで絶対止められるだろ?」


祥哉先輩の発言に、俺もうんうんと頷く。


「まじでやましい気持ちとかはないっすよ!!ほんとに友達になりたいだけっす!!」


ここで俺は、初めて新見くんの目を見てそう話しかけると、新見くんは俺に「そんな畏まらなくても。」と言って笑みを向けてくれた。


「祥哉先輩の後輩って言えば隆も納得しますよね?自分で言うのも何ですけど、隆、俺に近付いてくる男に片っ端から噛み付いていく勢いなんですけど。」

「ははっ、知ってる知ってる。ガード半端ねえよな。隆になんか文句言われたら俺の後輩だから仲良くしたって言えよ。」

「まあそれで文句言われるようじゃ俺学校で友達一人もできませんけどね。」

「そうだそうだ。」


二人のそんな会話に俺はつい期待のこもった目を新見くんに向けてしまっていると、「えーっと、じゃあ、俺も中本って呼んでいい?」と俺に話しかけてくれる新見くん。


「はいっ!!!」

「そこはうんでいいって。」

「う、うん!!!」

「じゃあ俺はもう帰るぞ?」

「あっ先輩ありがとうございました!!!」

「おー、ちゃんと友達として仲良くなー。」


祥哉先輩はそう言いながら去って行き、俺は祥哉先輩が教室を出て行くまで頭を下げ続ける。

そして俺は新見くんと二人きりになった空間で、心臓がバクバクするのを堪えながら顔を上げた。


「あ…じゃあ俺らも出る?」

「う、うん…!」

「てか俺、あんまり周りから良い目で見られてないけど仲良くしてて大丈夫?」

「えっ!?良い目で見られまくりっすよ!?」

「あははっだからなんで敬語なんだよ!普通に話して、普通に。同学年だろ?」

「…や、あの、ちょっと緊張してて…。」


近くで見る笑顔が眩しすぎて新見くんの顔を見て話せない。こんな調子ではとてもじゃないけど友達なんて無理だ。

やましい気持ちがないなんて、そんなのは勿論大嘘で、友達になりたいって言って近付くしか方法ねえだろ。

そもそも新見くんと恋人のフリをしていたってだけで腹が立つのに、その後も瀬戸先輩だけ独り占めするように、周りに見せつけるように、新見くんの隣に居るあの態度は気に食わない。きっと同じ様に思っている生徒はたくさんいる。


だからちょっとくらい感情を偽ってでも、近付けたらこっちのものだ。


「あ…じゃあ俺は何て呼べばいい?」

「新見とか倖多でいいよ。」

「…それじゃあ、…こ、こうた…。」

「お〜、久しぶりに隆以外の人に倖多って呼ばれた。」


視聴覚室を出て、新見くんと並んで歩きながら、そんな会話をした。『りゅう』と新見くんの口から出てくる名前にムカムカする。

まじで二人は付き合ってんの?
まだフリをしてるのではなく?
…まだフリだったらいいのに。


嫌だなぁ…。瀬戸先輩、鬱陶しい。なんて思っていたまさにその時、俺は見たくないものが目に留まってしまった。


新見くんの首筋に、小さな、赤い痣がある。


…それって、絶対キスマークだろ?


ムカムカと込み上げてくるムカつきと共に、この場には居ないのに、嘲笑っている瀬戸先輩の顔が頭の中に浮かんでしまった。


「…こ、うたと、瀬戸先輩は、まじで付き合ってるんだな。」


俺は、呼び慣れない新見くんの名前を口にして、そんな話をしてみると、新見くんはにこりと綺麗な笑みを浮かべて頷いた。


「うん。今度はちゃんと本当。まだまだ周りには疑われてるけどな。」


その言葉を聞き、俺の心の中にはモヤモヤとドス黒い気持ちがどんどん、どんどん積もっていった。


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