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『そういうわけではないけど…。やっぱりラインするより直接会話する方がいいかなぁって…。』


こっそりスマホで撮影した梅野の顔面どアップ声付き動画を、すぐさますばるに送ってやった。

そしたら、数時間後に返ってきたすばるからの返事に声を出して笑った。


【 うわあああーーー!!!れーーーーーん!!!可愛い!!!舐め回したい!!!ちゅちゅちゅちゅっまじで愛してるサンキュー高橋また頼むわ!!! 】


こんなに気持ち悪すぎる文章を送ってきたのは、今人気急上昇中の新人モデル兼俳優の朝倉すばるだ。これが外部に流出したら人気はガタ落ちだろうな。おまけに自撮りのキス写真も送ってきやがったが俺はすばるのキス写真なんていらねーよ。つーか普通にこの写真はキモすぎる。


すばるとは中学1、2年で同じクラスになり仲良くなった友人だ。3年でクラスが離れてからは喋る回数が減ってしまったが、高校生になってからよく連絡を取るようになった。

理由は単純。俺が梅野と同じ高校だから。

【 高橋って蓮と同じ高校だよな? 】

久しぶりのラインを先に送ってきたのはすばるからで、やり取りしたのはそんな内容。



中学に入学した時から同級生の男にべったりだったイケメンが居た。それがすばるだ。

あの時からずば抜けた爽やかさとかっこよさで目立っていたけど、そんな男が男にべったべただったから余計に目立っていた。

しかもせっかくかっこいい容姿で女子からチヤホヤされているのに中身はかなりぶっ飛んでいて変態くさいもったいないやつ。

名簿順に並ぶと朝倉と梅野で前後だったから、名簿順の席から席替えする時はすばるが嫌がってて大変だった。

背の順では明らかに高身長でもっと後ろのはずのすばるが、梅野のすぐ後ろにいて担任に注意されていたことも。


『蓮、トイレ行こ。』

『蓮、蓮、お茶ちょうだい!』

『蓮、蓮、蓮、今日本屋寄って帰ろ!』


蓮、蓮、蓮、蓮、って女子も嫉妬するほどのべったりで、すばるのことを好きな女子にはちょっと疎まれていた梅野。

耳の少し下に切りそろえられたサラサラと細くて光の加減では茶色く見える髪に、色白な肌、スッとした鼻にくりりとした二重の目の下には綺麗な涙袋があって、それがすばるのお気に入りらしい。

確かに周囲の男子と比べたら格段に綺麗で可愛い容姿をした梅野にべたべたするすばるの気持ちがまったく分からないこともないけど、やっぱり相手は同じ男。

仲が良いとは思っているけど、ガチで惚れてると思っているやつが果たして何人いただろうか。

斯く言う自分も、すばるが梅野にべったりなのは、ただ仲が良すぎるだけだと思っていた。

けれど、すばると仲良くなっていく奴らはだんだん気付き始めるのだ。

『あ、こいつ、梅野にガチだわ。』って。


『小学校の時から蓮の顔が好きすぎて1ヶ月ごとに告白してた。』

そんな笑い話から始まり、『宿泊学習で寝てる蓮にキスしたことある』とか真面目な顔して話やがる。

『俺蓮にならチューできる!』とか言って周りの視線も気にせずガチで梅野にキスした時もあったし、こいつはやべーぞ、って思ったのは『俺蓮とヤってる妄想で抜ける』とか言う発言だった。さすがにそれ聞いた奴らはすばるにドン引きだったな。


『つーかすばるさ、お前それガチじゃん?』

『お前梅野にまじで惚れてんの?』


ストレートに問いかける周囲に、すばるはケロリとした顔で『だからそう言ってんじゃん?』って答えるもんだから、俺らみんな拍子抜けだ。

でも仲間内では男相手にベタベタして変態でキモい発言ばかりしてるすばるを皆面白がってたし、イケメンでモテモテのくせに女子に見向きもしないすばるは俺らにとっては都合良かったし、一生梅野と仲良くしてろって感じですばるのことは応援していた。


梅野はすばるのことどう思ってんのかよく分からなかったけど、兎にも角にも朝倉すばるは、梅野のことがキモいくらいに好きなのだ。



テレビで見る朝倉すばるは、笑いそうになるほど猫を被っている。かっこよくセットされた髪や衣装を纏うすばるはかっこいいけど、こいつが【 蓮ちんの可愛いおくちぺろぺろちゅっちゅしたい 】とか気持ち悪すぎる文章送ってくるやつだとはとても思えない。

こんなに変態で気持ち悪い文章人に送ってどっかで内容漏洩する不安とかはないのだろうか。

それだけすばるは俺を信用してくれているのか、と思ったらそれはそれでまあ嬉しいけど、さすがにぺろぺろちゅっちゅとかはキモすぎる。


梅野はすばるにどう思われてんのか知ってんのかな?と気になって梅野にすばるの話を振ったりしてみるけど、梅野はあまりすばるの話をしたがらない。


「今日電車ですばるの話してる学生いたわ。あいつ知名度上がってきたなー。」


些細なことでもすばるの話題を見つけては梅野に振ってみるものの、梅野は浮かない表情で「まぁな。」と一言返事をするだけだった。


冷めてるなー。すばる繋がりが無くなったら絶対俺が梅野とは喋る事もないだろうな。

『すばる居なかったらただの根暗』とか影でクラスの男子に言われてたこともあったし、わりとその意見には同意だ。


【 梅野にお前の話振っても全然乗ってこねえぞ 】


梅野に話しかけてもつまらない返答しか返ってこねえからそんな風にすばるに愚痴るような内容を送ると、【 もっと話振れ、俺のことに興味持たせろ 】とか無茶振りしてきやがる。

いやいや、俺には無理だって。


「梅野くーん!ねえねえ、昨日テレビにすばるくん出てたの見たぁ!?」


【 あ、女子が梅野に話しかけてる 】

【 女子お前の話振ってるぞ 】


…って、俺はすばるのスパイかよ。

耳を澄ませて会話を聞き、すぐさますばるにラインを送った。


「あー…昨日は見てねぇや。」

「なんだ残念ー、すばるくん小学校の時の話してたけど梅野くんってすばるくんと同じ小学校だよね?」

「うん…まぁ。」


歯切れ悪い返事だな。まるですばるのことを聞かれたくないように思える。


【 もしかしてお前って梅野に嫌われてねえか? 】


すばるにいじわるを言いたいわけではないが、率直に思ったことをすばるに送ると、すばるから【 根拠は? 】【 なんでそう思う? 】【 蓮何か言ってた? 】という怒涛の返信ラッシュが始まったから余計なこと言わなきゃ良かったと後悔した。


そんなに梅野のことが気になるのなら、芸能界なんて入らずに、梅野と同じ高校行って、ずっと梅野の側に居れば良いのに、と俺は思うのだった。


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