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「梅野くんって朝倉すばると同中で仲良かったって聞いたよ!今でも会ったりするの?」

「…ううん、中学卒業してからは全然。」


高校生になった俺は、クラスの女子や、たまに全然知らない女子からもすばるのことを聞かれる高校生活を送っている。


「同中の子に卒アル見せてもらったんだけど、どの写真もすばるくん梅野くんと一緒だったしほんとに仲良かったんだねぇ。」

「まあ…小学校からずっと同じクラスだったしな。」


“朝倉すばる”という近頃一気に知名度を上げてきた芸能人がこのあたりの地元の奴だとわかると、興味津々で会いたがる子は多い。

けれど残念でした。あいつは今もうこのあたりには住んでないし、俺が仲良かったといってもそれは過去の話で、今は会いたくても会えない存在だ。


すばるからの連絡は来てたけど、返事を送ってもその後のすばるからの返信速度が遅すぎて、虚しくなって俺から連絡取るのをやめた。

仕事で忙しいのだろう。それが分かっているから、余計にすばるへのメッセージを打つ気は起こらなかった。


【 今日テレビ出るから19時から8チャン見て! 】

【 メンズのファッション雑誌に俺載ってるから見て! 】

【 蓮おはよう!今から生出演するから4チャン見て! 】


まるで朝倉すばるのメルマガかと思うくらい、すばるから送られてくるのは出演情報ばかりだ。

スマホで時刻を確認すると朝の5時すぎ。何時だと思ってるんだ。寝てるに決まってるだろ。と、思いつつも、のっそりと身体を起こしてテレビをつける。

6時に朝のワイドショーが始まり、すばるが出てきたのはそれから30分後だった。

ふぁ、と欠伸をしながらぼんやりテレビを眺めてすばるが出てくるまで待っていた。


『おはようございまーす!朝倉すばるでーす、よろしくお願いします!』


早朝だと言うのに元気なすばるがテレビ画面に現れた。愛想の良い態度や笑顔。やたらかっこよくセットされた髪や衣装がなんかちょっとむかつく。朝は苦手だったくせに。


『すばるくんは今高校生だよね?どういう感じの子がタイプ?』

『僕は涙袋ある子が超好きなんですよ。』

『あ〜なるほど、涙袋いいですねぇ。』


そういや俺にもそんなこと言ってきたことあったな。涙袋涙袋って、テレビでまで言うなバカ。
…って、べつに自分のこと言われてるわけじゃないのになに考えてるんだ、バカは俺の方だ。


『そんな目で見つめられたらも〜キュンキュンしちゃいますねぇ〜!』


はぁ…。なんか、見てて恥ずかしくなる。テレビでなに言ってんだか。

だんだん見ていられなくなって、テレビから目を逸らした。こんなので恥ずかしくなってる自分が逆に恥ずかしい。



【 蓮、たまには返事ちょうだいよ 】


すばるから送られてくる出演情報に返事をしないからか、ある日すばるから送られてきたのはそんなメッセージだ。

返事はしてなかったけど、テレビは全部見てるしたまに雑誌も立ち読みしてる。それじゃダメか?

全部見てるから、すばるにいちいち感想送ってたら大変だろ。なにより俺は、芸能人をやってるすばるは嫌いだから、すばるに送れる感想なんて無い。

テレビで愛想振りまいてるすばるとか、かっこよくキメてるすばるとか、俺は好きじゃない。

応援なんてできない。
そう思ってる俺が、すばるになんて返事すればいい?


【 テレビ見てるよ。おつかれ。 】


既読をつけてから、返したのは翌日。
結局返事はそんな愛想のないメッセージだ。

すばるからの既読がついたのはそれから3時間後くらい。

いちいち既読がついたかどうかとかチェックしてる自分が気持ち悪くて嫌だ…。しばらくスマホ触るのは封印したい。



「梅野ー!今日の朝すばる出てたの見た?」

「あーうん、見たよ。」

「涙袋ある子好きとか言ってたの絶対お前のことだろ!」


中学からの同級生、高橋が笑いながらすばるが出ていたテレビの話をしてきた。


「あいつ梅野のことガチだもんなー。」


すばるとの過去のことを笑い話にされる。そんな話を周りが聞きつけて、また興味津々にすばるのことを聞いてきて、また過去の話をされる。

俺の学校生活で行われる会話は、すばるが近くにいない今でもすばるの話題ばかりだ。


「てかさ、お前すばるからのラインちゃんと返してる?」

「…え?なんで?」


なんでお前がそんなことを聞いてくる?

思わず聞き返すと、高橋はスマホ画面を俺に見せてきた。


【 蓮にラインしても返事こないんだけどなんか俺のこと言ってる? 】


「つーか梅野ってあんま人とラインしねえの?そういや俺も中学から同じクラスだったのに交換してねえよな。」


俺に画面を見せながらそう話す高橋に、「んー…」と返事に困り、スマホ画面から目を逸らした。


「そういうわけではないけど…。やっぱりラインするより直接会話する方がいいかなぁって…。」

「あ〜そっかそっか。うん、そうだよなぁ。」


…え、なにその反応。

高橋は何故か気持ち悪いくらいににんまり笑いながら、俺の返答に納得したように頷いた。


「これ聞いたらすばるも納得だわ。」


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