4 [ 5/29 ]




高校2年に進級し、同じクラスに芸能人の親友とかなんとかで女子がよく噂している梅野 蓮とかいう男がいた。


『梅野くんにお願いしてすばるくんに会わせてもらえないかな?』

『梅野くんにすばるくんのこと聞いてみよ!』

『梅野くんならすばるくんのこと知ってるかな?』


梅野くん、梅野くん、って女子に毎日話しかけられている梅野 蓮。なんか、見ててすげえ胸糞悪い。


「梅野目障りだわー、れいかちゃんも朝倉すばるのファンなん?梅野に話しかけてんじゃん。」


教室の隅で梅野とクラス一可愛いれいかちゃんが話している様子を愚痴りながら眺めている俺を、クラスメイトで友人、高橋はクスリと鼻で笑った。


「昨日のバラエティー番組ですばる、梅野に向けて話してたしなぁ。その話じゃね?」

「は?梅野に向けて?なんだそれ。」


テレビを見ていない俺は高橋にその内容を聞くと、高橋は面白おかしく昨日のテレビ番組の内容を話した。


「すばるが『大好きな友人に出演情報とかラインでいっつも送ってるのになかなか返事がこないんですよ〜』って嘆いてて、MCからじゃあその友人に一言どうぞ!って言われて『見てくれてるかな?これ見たらすぐに返事ちょうだい!絶対ちょうだい!』って。多分梅野宛てだろうなって同中の奴らみんな言ってんだよ。あ、これこれ。ツイッターに動画載せてるやついるわ。」


そう言いながらスマホ画面を俺の目の前に持ってきた高橋に、朝倉すばるの動画を見せられた。

高橋の友人で鍵アカウントのやつがツイッターに動画を載せていたようで、【 梅野返事してやれよ笑 】というコメント付き。
同中のやつらがそれに対して盛り上がっているらしい。


「へぇー。同中の奴ら楽しそうだな。なんかおもしろくねー。」


つーか良い気になんなよ、梅野 蓮。

どんな理由であれれいかちゃんに話しかけられてる梅野にムカムカしてガキみたいに消しゴムをちょっとちぎって梅野に向けて投げたら、梅野に届くことは無くポトリと床に落ちる消しゴムのかけら。


「仲良いっつーか梅野はどう思ってんのか知らねえけどな。梅野って何考えてんのかよくわかんねえとこあるし。」

「つーか基本ぼっちだよな?あいつ友達いなくね?」

「俺もたまに話しかけるけど、会話が続かねえんだよな。」

「ハッ、根暗かよ。まじで目障りだわ。」

「それ中学ん時も影で言われてたなぁ…。」


高橋も梅野のことはあんまり良く思っていないのか、俺の言葉を否定することはしなかった。





「梅野〜、すばるにライン送ってやったか?」

「……え、なにを送んの?」


休み時間高橋に話しかけられて、暫くの間ポケットに入れていてまったく見ていなかったスマホを取り出した。

昨日からすばるからの連絡は無く、最後に送られてきたのはバラエティー番組に出るといういつもの出演情報が書かれたメッセージだ。


「なにって、昨日すばるが出てた番組見てねえの?」

「……あー、見てねぇや。すばる出てたの?」


高橋にはこう言いながらも、ほんとは最初から最後までしっかり見てた。咄嗟に嘘をついてしまったのは、すばるを好きな自分が未練たらしくて惨めだから。人前でくらいはすばるのことを無関心だと見せたかったから。


「なんだよ見てねえのかよ!ほら、これ昨日のすばるが喋ってるとこ。」


高橋はそう言って、律儀にスマホですばるが出ている場面の動画を探して見せてくれた。

昨日もテレビで見た内容だけど、手のひらに収まる小さなスマホ画面に映っているすばるの顔をジッとこれでもかと見つめる。


『大好きな友人に出演情報とかラインでいっつも送ってるのになかなか返事がこないんですよ〜』

『じゃあその友人に一言どうぞ!』

『えっ!じゃあちょっといいですか!?はぁ〜あいつ見てくれてるかな…?これ見たらすぐに返事ちょうだい!絶対ちょうだい!!』


「ほらほら、これすばるお前に言ってんだぞ?なんでもいいから送ってやれば?」


高橋は動画を止めて、俺にそう促してくる。


「なにを送んの?てか俺に言ってるとは限んねえだろ。」

「は?お前に決まってんじゃん。すばるが言う大好きな友人って、同中のやつならわかるけど確実に梅野のことだからな?周りはわかんのにお前がわかってなくてどうすんだよ。」


俺がすばるになかなかラインを送らないからか、高橋はだんだん俺に対してちょっとイラついてきているように思えた。


「…分かったって、じゃああとで送っとく。」

「いや、今。今送れって。」

「…なんで高橋にそこまで急かされなきゃなんねえの。」

「そんなんすばるが梅野に見て欲しくて必死なのに報われねえからだろ!」


いつもより少し荒げた高橋の声に、俺は思わずびくっと驚いてしまった。

…なんだそれ。そんなこと言われたって。俺だってライン返したところで報われねえよ…。


人の気も知らないでベラベラ勝手な事言いやがって、と悲観的になって高橋のことを煩わしく思い始め、あからさまに不機嫌な顔付きを出してしまい、唇をギュッと噛んだところで、俺の顔を覗き込んできた高橋。


「…や、ごめん。…言いすぎた?…そんな顔すんなって。」


咄嗟に返す言葉は無く、無言でいると高橋が話を続ける。


「……梅野ってさぁ、ぶっちゃけすばるのことどう思ってんの?お前あんま喋んねえし、なに考えてんのかよく分かんねえんだよ。」


どう思ってんのって、そんなの高橋に言うわけない。


すばるが好きだ。

会いたい、触れたい、側に居て欲しい。

一緒に高校生活を送りたかった。

芸能人になんてなってほしくなかった。

すばるがいる日常が戻ってきてほしい。


そんなふうに、すばるに求めることは多く、すばるのことを考えたらしんどくなる。

すばるは、俺が近くにいなくて平気なの?

そんなふうに考えて、自分ばかりがすばるを欲しているようなこの状況が、嫌で嫌でたまらない。


「昔は、あんなに一緒に居たのに…。

あんまり、遠くに行かないでほしかった…。」


今ではまるで別世界にいる人間で、手の届かないような存在で。


って、…え?…あれ?俺、

今、なんか言った…?


口になんて出すつもりは無かったのに、無意識に口に出していた言葉に、

目の前の高橋は目をまん丸くして俺を見下ろしている。


ハッとして口を手で塞げば、その時にはにんまりと俺を見て笑っている高橋。

顔が一瞬でカッと熱くなった。


「そういうの本人にちゃんと伝えてんのかよ?」


バシッと背中を叩かれながら、笑い混じりの高橋に言われ、俺はゆるゆると首を振る。


「だったら尚更、今すぐすばるにライン送れ!俺に言われたからじゃなくて梅野の意思でな!梅野はもっと自分の気持ちを口に出した方がいいぞ。」


何故かスッキリしたような顔で高橋は爽やかにそう言い放ち、俺の前から立ち去った。


今すぐライン送れって言われても、そんなすぐには送れなかった。暫くの間、高橋に言われたことを思い返していた。


確かに俺は自分の気持ちを、すばるに伝えたことが今までなかったかもしれない。


[*prev] [next#]

bookmarktop
- ナノ -