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朝、テレビをつけるとテレビ画面にはキラキラ輝く笑顔の彼がいた。……あいつは、こんなに爽やかに笑う奴だっただろうか?
俺、梅野 蓮(うめの れん)は、テレビ画面に映るその笑顔を不満気に見つめる。
『おはようございま〜す!朝倉(あさくら)すばるでーす!』
そう言いながら陽気にヒラヒラ手を振っているあいつに、俺は苛立ちを抑えきれずにテレビを消した。テレビなんかつけなければ良かった。朝からあいつの顔なんて、俺は見たくなかったから。
俺とあいつは小学校から同じの同級生だった。低学年の頃、俺のことを女の子と間違えてあいつが告白してきたことが全てもの始まりだ。
俺を男と知った時はちょっとショックを受けていたけれど、俺を男と知りながら、高学年になってもあいつは、俺に顔が好きだとかなんとか言い続けてきた。
本気なのか冗談なのか、その頃はよくわからないまま小学校を卒業した。
中学生の頃には、あいつにファーストキスを奪われた。しかもこれまた冗談なのかなんなのかよくわからない。
『すばるのタイプの女子、学年の女子で言うと誰が一番?』
クラスメイトにそう聞かれたあいつは、チラリと俺に視線を向けて、グイッと肩に腕を回して俺を引き寄せた。そしてあいつはこう言ったあと、俺の唇にがっつりキスをしてきたのだ。
『真面目に蓮!俺まじ蓮にならチューできる!』
元々わんぱくでやんちゃな奴だったから、周りはすばるの悪ふざけだと思って笑ってて、俺もすばるの悪ふざけだと思ってそのあとすばるにキレながらゴシゴシ袖で唇を拭った。
その頃の俺は、身長150cmを少し超えたくらい。女子には見えるはずもない男相手に、すばるの言動はまったく理解できない。
昔からすばるは整った顔立ちで、女子からはかなり人気があったのに。いっつも可愛い子に告白もされていたくせに、何故だかすばるの興味関心が、ずっと俺にあったのだ。
『すばるって俺のこと好きなの?』
さすがにファーストキスまで奪われた俺は、率直にそう問いかけた。
『え?今更聞くの?』
あっけらかんとしながらすばるは俺の問いかけにそう答える。
『蓮の涙袋とか、唇とかちょー好き。目も鼻も口も、ほっぺたまで全部可愛い。前から言ってんじゃん、俺蓮の顔まじでタイプなんだって。』
それは、恋愛感情がある“好き”ではなく、ただ俺の顔が好きってだけ?よくわからない…。なんだかちょっと複雑な気持ちだ。
俺が知りたかったのは恋愛感情があるかないかなのに。よく分からないまま、すばるは俺が何か言う前に続けて口を開く。
『なぁ、もっかいキスさせて?蓮の唇めっちゃ気持ちよかったぁ〜。』
いやいや、そんなこと言われても。
分かってんのか?俺は男なんだぞ?
普通、男同士でキスするか??
そう思いながらも、俺が拒否る暇もなくキスされた。
同級生の前で冗談みたいにキスしてくると思ったら、二人だけの時にキスされたことも。
そんな俺たちの関係って、一体なんなんだろう……。
『れ〜ん、…なぁ、ちょっと身体触らせて?』
中学三年、受験生のため俺の家で猛勉強していた最中、すばるは唐突にそう言ってきた。
『はぁ…?』
どこを?俺のどこを触るの?
思わず聞き返した俺の声も聞かず、すばるはいつもより深く俺の唇にキスをして、それから、俺のシャツの中にゆっくりと手を入れてきた。
『わっ!!』
冷たいすばるの手が腹に触れ、その感触に声が出る。スーッと指先で腹を撫でられ、その手は俺の乳首にまで上った。
『ちょっと!!』
驚きと、こそばゆい感触にまた声が出る。
『おいっすばる!?』
くにくにと触られている乳首に慌てふためいていると、すばるは俺のうるさい口をキスして塞いだ。
『はぁ、やば…、ぞくぞくする…。蓮ってほんっとにかわいいな…。』
うっとりした目で俺を見るすばる。
乳首を触っていた手がゆっくりとやらしい手付きで下へ伸びていく。
上手いとか、下手とかはよくわからないけど、気持ちの良いすばるからのキスに、抵抗できない。
ズボンのベルトを外されて、パンツの中に手を入れられる。
あっ…!そこはまずいって…っ!
そう思いながらも無抵抗な自分。
多分、嫌では無かったんだと思う。
いつのまにか自分がすばるのことが好きになってしまっていたから、最初から拒むなんて、頭に無かったのだ。
嫌だったら、不愉快だったら、今すぐにでもその身体を突き放しているはずだから。
『蓮のお尻の中……入るかな…?』
耳元で囁かれる内容に、その言葉の意味を理解しながらもやっぱり俺は無抵抗で、そんな俺にすばるは、確認するように問いかけた。
『蓮と、エッチしたいな…。しちゃダメかなぁ…?』
ちょっとおねだりするような、甘えた声で言ってきたすばるが可愛いと思った。
男同士なのにな…いいのかな、まだ中学生なのにな…こんなことしていいのかな…。
頭の片隅ではそんなことを考えながらも、ドキドキ…、ドキドキしながら俺は無意識のうちにすばるの身体に腕を回している。
その後の事は、恥ずかしくてあまり思い出したくは無い。初めてのことで必死だったすばるは可愛かったけど、残念ながら最後まではできなかった。
だからすばるは悔しそうに、ちょっと恥ずかしそうに赤い顔をして『またやらせて。』って言ってたのが印象的。
あれからもう何ヶ月経っただろう。
その『また』は、もうこない気がする。
あのあと俺はすばるに、街でスカウトされて芸能事務所に入所することを打ち明けられた。
俺はすばると同じ高校へ行くのだと思っていたのに、それからはガラリと俺の日常は変わってしまった。
親友?恋人?すばると俺の関係って、一体なんだったんだろう。
付き合って、と言われたわけじゃない。
付き合っていたわけではないのに、振られた気分になった。
知ってる人が芸能人になったのは初めてで、喜ばしいはずが、全然喜べない。
雑誌に載るようになって、テレビで顔を見るようになり、だんだん世間に知れ渡り始める。
忙しくなってくることを見越して、高校は通信制にしたらしい。
すばるが俺の側に居ないことに、寂しさを感じずにはいられなかった。
自分が思っている以上に、俺はすばるのことを好きだと、気付かされてしまったのだった。
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