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「あ、航の友達?ここ座りぃ。」
なっちくんが現れた瞬間、俺を奥の席に追いやって親切に席を詰めた大和。そんな大和の隣に、なっちくんが恐る恐る、不審そうにしながら席に座った。
なっちくん、その反応正解。だってこいつは正真正銘の不審者だから。
「なっちくんそいつ無視してくれたらいいからな。」
「え、…あ、うん。」
「うわーひどー。こいつひどない?」
「え、あ、…えっと…。」
なっちくん完全に不審者相手に戸惑っている。しかしそんななっちくんに、大和は気にせず話しかける。
「俺航のいとこやねん、よろしくな〜。」
「え、あ、はい。……えっ!?いとこ!?」
何気ないように自己紹介をした大和に、なっちくんは数秒遅れに驚きの反応を見せた。
「こらそこー静かにー。」
「シーッシーッ静かにな?」
「…お前の所為だろ。」
先生にまたもや注意されると、口元に人差し指を立てて『シーッ』となっちくんに言っている大和を、ぶん殴りたくなった。
なっちくんはこいつが俺のいとこだと分かった瞬間、俺、大和、俺、と見比べるように視線を向けてくる。
「…確かに雰囲気ちょっと航に似てるかも…。」
「なっちくん冗談言うのはやめろ。俺はこんなクズじゃねえ。」
「は?お前どついたろか?」
「や!めろって、お前もうほんとに嫌!」
また叩かれそうになって咄嗟に手でガードした。なっちくんは俺と大和のやり取りに、無言で苦笑していた。多分、なっちくんなら『この人こわ、関わりたくない』くらいには思ったはずだ。
俺もこんなクズ男には関わりたくない。
「やば、航がビビってるとこ見るの昔の矢田くん以来はじめてかも。」
なっちくんは俺と大和のやり取りを見ながら、そんな感想を漏らした。そして俺は、ビビりのなっちくんに『ビビってる』とか言われて泣きたくなった。
だってこいつ乱暴なんだもん!!!
性格悪いし乱暴だし本物のクズ!
早く帰ってくれ、ってずっと祈りながら講義を受けた。つーか先生にこいつ部外者です!ってチクりたくなった。
*
「あ、もしもし?今お前の大学来てんでー。」
講義が終わってすぐ、大和のスマホに電話がかかってきた。
大和が通話を始めた隙にさっさと次の教室に移動してしまおうと試みるが、大和に逃がすまいと首根っこを掴まれ、立ち去ることができなかった。クソ!
通話中、居場所を伝えている大和が電話を切ると、数分後に「偶然近くの教室におったわー。大和久しぶりやなぁ!」と大和の友人らしき人物が現れてしまった。
俺はほんとうに逃げたい。
いや、逃げさせてくれ。
大和に首根っこを掴まれている俺を少し離れたところで様子を窺っているなっちくんたち。そんなところで見てないで助けてくれ!
俺はジタバタと大和の手を振り払おうともがいた。
そんな俺に、大和の友人が「あ、」と目を向けてくる。
「この子か!大和のいとこの航!」
「あーそうそう。」
「大和から話聞いてるで〜!可愛い可愛いいとこが俺と同じ大学やってな〜!」
そう言って、ニシシと笑ってきた大和の友人の言葉に、大和はわざとらしくよしよしと俺の頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜて「あ〜可愛い可愛い。航カワイイワー」とからかうように言ってきた。
「うっぜえ!ちょ、まじ離せって次また授業あるんだから!」
うざい大和には構ってられん。と、真剣に大和を振り払うと、大和と大和の友人は教室に向かう俺のあとをまたついてきてしまった。
ちょっと、まじで帰ってくれよ!!!
「大和お前いとこにめっちゃ嫌われてるやん!」
「えぇ?ちゃうちゃう、愛情の裏返しやろ。」
「なに言うてんねんお前あほちゃう?どう見ても嫌われてんぞ!」
「そんなことないて。」
そんなことあるて。大和と大和の友人の会話に、思わず口を挟みそうになった。
いやそんなことはまあいい。
問題は2限目の講義の教室にまで奴らが侵入してきてしまったということだ。
バレても知らねえからな!
俺は無関係だからな!
あかりたちが座る後ろの席になっちくんと並んで座り、その後ろの席に座ってきやがった大和とその友人。
大和の友人は関西弁をくっちゃべる若干ヤンキーオーラを漂わせた感じの人で、雄飛で耐性がついたとは言え少しビビり気味のなっちくん。
「あ、今日の先発ピッチャー相手ジョンソンらしいな。」
「うわ、ジョンソンかぁー。前回完封食らいそうになったし投手戦はおもろないからまじ勘弁やな。」
誰だよジョンソン。そんなに野球の話がしたいならとっとと球場に行ってこい。
背後から聞こえる大和の声に、イライラしながらカチカチとシャーペンの芯を出す。
そんな時、「あれ?なんでお前がここにいるんだ。」と先生の目が大和の友人に突き刺さった。
「えぇ?先生なに言うてるんですかぁ。先生が単位くれへんかったからまた受講したんですよぉ。」
「あれ?そうだったか?まあいいや。」
良くない!良くないよ先生!
惑わされないで!この人絶対嘘ついてる!!
どうやら先生は大和の友人の顔を知っていたらしい。この会話から察するに、大和の友人は大和と同い年で2回生なのだろう。
さすがクズな大和の友人!
友人からもクズオーラを感じるぞ!
その後も後ろの二人は講義なんて聞かず野球トークで盛り上がっている。クズにもほどがある!と舌打ちしたくなっていると、先生の目がまたしても大和の友人に突き刺さった。
「こらぁ!楠木(くすのき)くんちょっとうるさいぞー?」
「あーすんませーん。」
えっ!?くずのきくん!?
先生今くずのきくんっつった!?
俺はクズかと思ったら名前にもクズが入っていた大和の友人に笑いがこみ上げてしまった。
「ブフッ」
思わず吹き出してしまうと、ペシンと頭を叩かれる。もちろん俺の頭を叩くのなんか大和くらいだ。
「なにわろてんねん。」
「クズだけにクズノキ?」
「は?お前全国のクズノキさんに謝れ。」
「いやまず俺に謝れ。くすのきじゃ。」
「いっ!たぁ!」
どうやら大和の友人の名前はクズノキではなくクスノキだったらしく、ピン!と頭をデコピンされめちゃめちゃ痛かった。
やっぱりこの友人もクズだ!!!
あまりの痛さに頭を抱えると、大和の友人は「確かにからかい甲斐があって可愛いわ。」とか言い出した。
「やろ?やしめっちゃ可愛がってんのに俺のことクズ扱いしよるし。」
「いや大和はクズやろ。」
「お前もな。」
「まあな!」
うわ!こいつらクズなの自覚済みだ!
自覚した上でクズを続けるなんてどうしようもねえなおい!!!
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