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「お前月曜日やたら機嫌良いよな。キモいんだけど。」
「気のせいだろ。」
昼休みに昼飯買って生徒会室で食ってたら、早弁してすでに昼飯を食い終わった絢斗が俺を観察するように眺めてきた。
「あれだろ?なち?だっけ?お前の彼ぴ。さては毎週会いに行ってるな?」
「あ、やっべ今日英語の小テストあるの忘れてた。」
「チッ、シカトすんな。」
「ぅわっ、パン投げんな!」
正面から俺の顔面に向かって飛んできた菓子パンをギリギリ手でガードすると、絢斗はまたチッと舌打ちをした。
「雄飛に恋人とかまじ似合わねえわ。」
「なにキレてんだよ。」
「お前最近AV借りにこねーしつまんねー。」
「だってオナ禁してますし。」
「は?オナ禁?お前バカかよ、やめろやめろ、オナ禁したってろくなことねえよ。」
そう言いながら、絢斗はロッカーの中からDVDのケースを取り出し、生徒会室にあるDVDプレイヤーにディスクを挿入した。言わずもがなAVである。
わりと大きめのテレビ画面に、絡み合う男女が映し出される。
『あぁ…ッ!アンッ!だめぇ、イキそぉっ…!』
それから数分間分早送りして、いきなり男が女に向かって激しく腰を打ち付けているシーンまで飛ばすから、生徒会室には大音量の女の喘ぎ声が響いた。
「おいおい生徒会室でAVはやめろよ。古澤会長に見つかったら怒られんぞ。」
「これお前の好みじゃね?」
「まあ好きっちゃ好きだけど。」
っていや見んな見んな。
俺にはもうAVは不要だ。
なちとのセックスだけで十分…、と言いたいところだが、テレビから聞こえる喘ぎ声に下半身がうずうずしてきてしまった。
するとそんな俺の下半身を見透かしたように、絢斗がニタニタ笑って俺に視線を向けてくる。
『アッ!あんっ!だめぇっ!ァッ!アン!イクイク!』
ニタニタしながら絢斗がテレビの音量を上げた所為で、さらに大音量の喘ぎ声が生徒会室に響く。
「おいバカ!やめろって、まじ怒られるぞ!」
俺の下半身どうこうではなく、この音量がさすがにまずいと思い、絢斗からリモコンを取り上げようとした瞬間、バンッと勢い良く生徒会室の扉が開いた。
あ、最悪だ。
古澤会長来てしまったじゃねえかよ。
「おいこら!廊下までエッチな声漏れてんぞ!!お前ら何回言ったら気が済むんだよ!生徒会室でAV見んな!!」
「ちょ、会長“お前ら”、じゃねぇっす。絢斗だけっすよAV見てたの。」
「口答えすんなー!!お前ら一週間校門の掃除でもしてろ!!」
「ゲッ、最悪…。」
って絢斗それ俺のセリフだ。これで何回目だろう、絢斗に巻き込まれて学校内の掃除をする羽目になったのは。
「…はぁ、早く休みきてくれ。」
相変わらずの友人に振り回されながら、俺は休みの日を楽しみに、高校生活を送っていた。
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「ねぇ、どう思う?なっちくんの彼女。」
「え?どうって?」
なっちくんと航が二人でトイレに行った直後、あかりが何かを疑うように話し始めた。そんなあかりに、沙希が不思議そうに首を傾げる。
「男じゃない?なっちくんが付き合ってるのって。」
「え、なんで?」
そしてそんなことを言い出したあかりに、沙希はさらに不思議そうな顔をした。
「だって首筋隠したなっちくんめっちゃ可愛い顔したよ!?」
「根拠それだけ!?」
少し興奮したように話してるあかりに驚く沙希。
「いや、あたしの勘は結構当たるよ。」
「あかりドヤ顔で喋んないで!!」
自信満々に語るあかりに、沙希は笑い始めてしまった。多分沙希はあかりが冗談で言ってるんだと思うけど、あたしもあかりの意見に同意だった。
確かに顔面真っ赤にして首筋を隠すなっちくんは可愛いかったよ。でもそれだけが根拠って言ったらそれはあまりに不十分すぎる。
けれどあたしは、もっと他のところでそうじゃないかなって思う根拠に気付いていた。
「その話はなっちくんからしてこない限りするのやめようね。」
少し真面目な顔して言えば、キョトンとした顔であたしを見るあかりと沙希。
「え、由香どした?真面目な顔して。」
「航となっちくんの共通の後輩ってことは、高校の時の後輩の可能性が高いよ。そうならその後輩は男の子だよ。あの二人男子校出身だから。」
二人は気付いてなかったから、それを言ったら二人ともハッとしたような反応を見せた。
「まあ違うかもだけど、もしそうならあたしらにはそれ言いたくないか言い辛いかってとこだよね。」
「あー。確かに。」
「だからあたしらからはあんまりそういう話持ち出さないようにしよ?って。」
「んー、分かったー。」
「りょーかーい。」
あたしの話に頷いてくれた二人は、なっちくんと航がトイレから戻ってくるまでに別の会話に切り替えようってことで、あかりのお気に入りのイケメン俳優の話になった。
でもイケメン俳優よりも航ダーリンの方がイケメンだって言いだして、「航むかつく!イケメンよこせ!」ってあかりが勝手にキレだした時、航となっちくんがトイレから戻ってきた。
「は?なんであかりキレてんの?」
「航のダーリンがイケメンだから。あたしにもイケメン恵んで?」
「この前拓也ちゃん紹介してやったじゃん。」
「だからあのお方はレベルが高すぎるから無理なんだってば!」
イケメンの話であかりがギャーギャー騒いでいた時、なっちくんはスマホをいじっていて、それから、スマホ画面を見ながら突然、パァッと満面の笑みを浮かべた。
「ん?なっちくんどした?」
「雄飛からメールきたぁ〜!」
嬉しそうに顔を綻ばせるなっちくんに気付いた航がなっちくんに問いかけると、なっちくんの口からは男の子の名前が出る。
あたしたち三人は、無言で顔を合わせた。
(今ゆうひって言ったな?)
(言った言った。)
(なっちくん…その顔は分かりやすすぎるって…)
どう見ても、好きな人からのメールに喜んでいるようにしか見えないなっちくんに、あたしたちは恋するなっちくんを無言で見守った。
航がそんな空気を悟り、
こっそりと笑っていた気がした。
9. 恋する少年なっちくん おわり
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