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この春から、1DKのアパートで一人暮らしを始めた俺の家に、雄飛は嬉々として毎週遊びに来てくれた。


「壁薄い?」

「ん?壁?わかんない。」


なんで壁を気にすんのか意味不明だったけど、何故か財布を手にして、その中からコンドームを取り出したから、俺はようやく質問の意味を理解した。

えっちしたら声聞こえねえか、とか、そういう心配をしてくれたのだ。しかしまあ部屋の壁が薄かろうが雄飛はえっちをする気は満々だ。財布の中にはいつも必ずコンドームが常備されている。


「お腹減ってない?なんか食った?」

「すげー減ってる、なち食いたい。」


そう言って、ニッと笑いながらべろっと舌を舐めずる雄飛。えろすぎる…。

お腹減ってるか聞いてんのに、減ってるって答えてから俺を食べたいって言われても。俺を食ったところで腹は満たされない。いやそもそも俺を食うってなに。


「まだ真昼間なんだけど…。」

「俺オナ禁6日目なんだけど。」


オ、…オナ禁とか言われても困るんだけど…っ!そういうのは隠しててほしいっつーか…!

雄飛の発言に何故か俺が顔を熱くさせながらチラッと雄飛に視線を向けたところで、雄飛はドサッと俺の身体を押し倒してきた。


「ちょーまじパンパン。触る?」

「いや別にいいですから!!!」


っていいって言ってるのに雄飛は俺の手を掴んで雄飛の股間へ俺の手を持っていく。やんわりとズボンの上から雄飛の股間を触ったら、そこにはもうすでに硬いものがあった。そして……、


「な〜っちゃん。はい、ゴー。」


にっこにこの笑みを浮かべた雄飛が、俺をベッドへと促したから、ああもうこれは真昼間からえっちコースだと、俺はその瞬間に悟った。

いや、良いんだけどさっ、良いんだけどさっ、真昼間はなんだか夜より部屋が明るくて照れくさい。

ベッドの上に仰向けになった俺に覆い被さってきた雄飛が、チュッと俺の唇にキスをしながら着ていたシャツを捲り上げてきた。


「あ、ローションあったっけ。」


と、そこでふと思い出したように手を止めた雄飛が呟く。


「…ベッドの下のカゴの中…。」


前に雄飛が置いて帰ったやつの存在を教えてやれば、雄飛はベッドの下を覗き込んだ。そして、ベッドの下に置いていた小さなカゴを引っ張り出してきた雄飛が、ニッと笑ってクシャクシャと俺の頭を撫でてきた。

えっちできるとなったらテンションが途端に上がり始める雄飛は、勢い良くシャツを脱ぎ捨てて、俺のシャツも脱がし、身体を引き寄せられ、お互いの肌が触れ合いながら、舌を絡めてキスをする。

いつの間にか俺の股間も熱くなってて、もうそれからは気持ち良さを雄飛に求めた。


「ン、…っ、ぁ…っ」


キスが気持ち良い。雄飛のキスで、俺はもう気持ち良くなっちゃって、身体が熱い。

そうしているあいだに、いつの間にかズボンもパンツも脱がされていて、ローションで濡れた手が俺のお尻を弄ってくる。

指を入れられて、抜き挿しを始め、着実に挿入の準備を進める。


「やべえ、我慢できねえ…。」


チュッ、と唇を離した雄飛が近距離で囁いてきた。「ハァ…」と息を吐く雄飛が、カプ、と俺の耳を咥え、ペロリと舐める。

その雄飛の口が下へと降りて、今度は俺の首筋を舐める。

「ハァ…」とまた息を吐く雄飛は、一旦俺の身体から手を離し、コンドームを自身のものに付け始めた。


ローションをヌルリと絡ませ、雄飛のものがツンと俺のお尻に触れる。

俺の身体に覆いかぶさってきた雄飛が、グッ、と俺の中へ、雄飛のソレを押し込めた。


「ン、ッ…ハァ…ッ」


雄飛の腰が、ゆっくりと動き始める。

雄飛の動きに合わせるように、息を吐く。


「ハァ、ッ…あ…ッ」

「あーやべ、すげえイイ…っ」


気持ち良さそうな顔をした雄飛と目が合って、ちょっと笑えば、雄飛はキスをしてくれた。それから、また雄飛は俺の耳を噛む。首筋を舐め、カプ、とまた噛む。


「ハァ、やべえ、止まんね…ッ」

「ぁ…!あッ、…ぁ…ッ!」


次第に激しくなっていく雄飛の腰遣い。快楽に耐えるように、俺は雄飛の身体に腕を巻きつけ抱きしめる。


「ッ、…ァアっ!やべえっ」


この時、雄飛は多分無意識に、俺の首筋に噛み付いたのだ。


「ぃたッ!」


俺のその声と、雄飛がイッたのは多分同時で、ピリッと痛む俺の首筋に、雄飛の熱い息が当たる。なに噛んでんだよって文句言いたかったけど、その時の俺も、息が上がってて喋れない。


お互いの呼吸が落ち着いた頃に、雄飛は申し訳なさそうに、「…ごめんな?」って謝ってきた。


「ううん、大丈夫…。」


ぺろぺろと舐められて、痛いけどくすぐったい。痛いけど、気持ち良い。その心地よさにちょっと笑えば、またキスをしてくれた雄飛。


ああ、幸せだ。これが俺の、至福の時。

今ではすっかり雄飛に虜の俺である。





「顔顔。にやけてるにやけてる。」

「あっごめん、トリップしてた。」

「そして気のせいでなければ股間膨らんでる…。」

「気のせいだろ!?」


航に言われて、思わず股間を手で隠してしまった。


「うん、ごめん気のせい。」

「おいっ!!!」


慌てて股間押さえた自分が恥ずかしい!ケラケラ面白そうに俺を見て笑う航に悔しがっていると、「まあまあ落ち着け。」と俺の肩に腕を回して、ポンポンと肩を叩いてくる航。


「毎週会ってんの?」

「うん。」

「よかったぁ、お前らちゃんと続いてて。喧嘩とかする?」

「まだしたことない。」

「ふぅん、喧嘩したらなっちくん絶対泣きそうだもんな。」


そう言って、航はニヤニヤと笑ってきやがった。なんか言い返したいけど、航の言うとおり、雄飛と喧嘩したら俺泣くかもしれないから何も言い返せず。


「航と矢田くんってどんな時に喧嘩する?」


参考までに聞いておこうと航に問いかければ、航はすぐに答えてくれた。それもちょっと内緒話をするように小声で。


「えっちしすぎな時…とか?」

「えっ」

「この前休みの日に朝からいちゃいちゃしてたんだよ。えっち始まっちゃってあいつ止まんねーわけ。こっちは腹減ったし疲れてんのに5ラウンド目突入しようとしやがってさすがにキレそうになった。

あ、喧嘩っつーか俺が一方的に怒ってる場合が多いな。うん。」

「……5ラウンド…。」

「朝から飯も食わずに気付いたら昼過ぎてたし。あの日めっちゃ疲れた。」


航は思い返すように語っているが、いつの間にか航の顔は、にやにやしたにやけ顔だ。


「……相変わらず仲良いな。」


喧嘩について聞いてたのにいつの間にか航ののろけ話聞いてるみたいになってるし。


「なっちくんもそのうち雄飛が我慢しないようになったらヤられまくりだぞ。がんばれよ。」

「…え、雄飛が我慢?…なんで?」

「え、だって我慢してるから噛まれてんじゃねえの?」

「……あ、…確かに…。」


喧嘩からだんだん話がエロい報告に変わっていったけど、航に言われて俺はハッと気付いてしまった。噛み噛みしてる時は、あんまり激しくされないから…。


「なっちくん5ラウンドで驚いてるけど、雄飛とか5ラウンド余裕じゃね?」


た、確かに…

雄飛なら余裕かもしれない…。


「性生活のすれ違いで喧嘩になることあるから気をつけろよ!って昔誰かが言ってた気がする。誰だっけ。あ、モリゾー先生?」

「うわぁ…聞いといて良かったかも…。」


雄飛に我慢とかしてほしくないから。


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