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「あ、またクソカベからラインきた。ひとまず未読無視してあとで返そーっと。」

「ん?りなどうしたの?」

「あー、あのね、お兄ちゃんの友達ですっごいラインの返信早いやつがいるんだよ。だから時間空けて返信してるの。」

「ふぅん、りなその人にめっちゃ好かれてんね。かっこいい?」

「んー…。」


りなは春休みに高校の友達とショッピングを楽しんでいる途中、クソカベからラインメッセージが届いて、友達とそんな話題になった。

かっこいいって聞かれたらちょっと返答に困る。りなの目は多分肥えているから。


「…まあ、悪くはないと思うよ。うん。多分。」

「うわー、微妙な反応ー。」

「やっぱりりなって理想高いかな…。」

「うん、高いね。まあお兄さんがあの二人だからそれも納得だけどね。」


友達はそう言いながら笑っている。そんなりなが好きになった人は、お兄ちゃんの友達だと思っていた航くん…。

航くんは、出会った頃よりうんと大人っぽくなった。やんちゃそうな印象が強かった航くんは、最近ますますかっこよくなったように思える。

お母さんが撮影したお兄ちゃんと航くんの写真をこっそり自分のスマホに送信するほど、りなは航くんが好きだ。


「でもりなもそろそろ彼氏欲しいなーって思ってるんだよ。」

「りな卒業式ん時3年の先輩に告られてなかった?その人は?」

「ないない。りな髪は黒い人が良い。」

「え、りなのそんなタイプ初めて聞いたよ。」

「そんでー、ちょっとだけ襟足伸びてるのが可愛いなーって思う!」

「えー、なにそれー。あたし男の子の襟足なんか気にしたことないよ。」


友達にそんなタイプの人を話しながら、りなはふと気付く。どうやらりなの初恋の人が、そのまま自分のタイプになってしまったようだ。


「…あ、またクソカベからラインきた。」


りなまだ返信してないのに。もー、仕方ない。既読つけといてやろう。と、りなはそこでようやくクソカベからのメッセージページを開ける。

【 りなちゃん進級おめでとう! 】

【 …|ω・`)チラッ 】

なんだこの顔文字は。さてはりなから1時間返信が無かったからそわそわしているな?

りなはそう予想しながら、ちょっとだけ笑って、クソカベに返信してあげた。


【 クソカベも大学入学おめでとう 】


そんなメッセージを送ると、ものの数秒で既読マークが付く。そして、既読マークがついた直後にまたクソカベからメッセージが送られた。

【 りなちゃんありがとう!!!!! 】

りなはその直後に【 じゃあね 】って文字が入ったスタンプを押して会話を終わらせた。

スタンプを押したあとはもう送ってくんな、っていう無言の訴えで、クソカベから【 りなちゃんまたね! 】ってメッセージが届いたのを確認してから、りなはスマホを鞄の中にしまった。


「クソカベが彼氏はちょっと今のところ考えらんないかな。」

「ねぇ、クソカベってそれあだ名?」

「うん、日下部って名前でお兄ちゃんと航くんがクソカベクソカベって呼んでるから移っちゃった。」

「ふぅん。へんなのー。」





「ほう…ここが、航と矢田くんの愛の巣か。」

「ほう…1LDKか。 いいなぁ。なかなか居心地良さそう。」

「へ〜、寮の矢田くんの部屋をかなり広くした感じ?」

「あ、やっぱベッド1つなんだぁ〜。」

「ってお前ら部屋ん中漁んなよ!!!」


入学式が終わった後、家に来てみたいと言い出したなっちくんの頼みをるいに報告すると、るいもその日、大学から仁を連れて家に帰ってきた。

マンションの部屋を借りてこの春からるいと一緒に住むことになった俺は、なっちくんを新居へ案内する。

先に帰ってきたのは俺となっちくんだが、俺はマンションの入り口に立っていた人物を見て、目を疑った。

何故なら、入学式後らしいモリゾーとクソカベが、俺たちの帰りを待つようにそこに立っていたからだ。

聞けば、るいからマンション名を聞いたモリゾーがわざわざ地図を見てここまでやって来たらしい。ストーカーかよ。

仁を連れて帰ってきたるいも、2人の登場に目を丸くして驚いていた。


ここで、冒頭のやり取りに戻るのだが、とにかく奴らは探るように俺たちの住む部屋を好き放題歩き回っている。


「大学からもそこまで遠くないし。うん。いい溜まり場ができたな!」


そして、にっこりと笑ってそんな発言をしたモリゾーに、るいは手元にあったティッシュの箱を、バシンとモリゾーの頭に叩きつけた。


「お前ら居座られたら困るわ!」

「痛っ。だってさぁ、お前ら居ねーとやっぱつまんねーよ。なぁ日下部。」

「いや、お前結構楽しそうに女子大生の観察してたけどな。」

「まあそれはそれ、これはこれ。」


女子大生の観察っておい。こいつに観察されてしまった女子大生が気の毒すぎる。

呆れた目でモリゾーを見ていると、ふとモリゾーに向いていたるいの視線が、俺に向いていることに気付いた。


「ん?」と笑みを浮かべて首を傾げると、るいが無言で歩み寄ってくる。


「どうだった?大学。」

「あ、中学の同級生の子に会った。」

「…ふぅん。」


言わなくてもいいことだけど、これからは一緒に居られない時間が増える。できるだけるいには、1日にあったことをたくさん話したいな、と思った。


「…女の子?」

「うん。女の子。」

「…ふぅん。」

「でも、心配しなくてもるい一筋。」

「……知ってる。」


ちょっと不満気な顔をしていたから安心させるように言えば、るいはニッと嬉しそうに笑った。


「ってお前ら聞いてんのかよ!」

「俺らの話無視していちゃついてんじゃねー!!」


せっかくるいと話してたのに。会話に割り込んできたモリゾーとクソカベに、るいはまたバシンバシン!とティッシュの箱で2人の頭をうざったそうに叩いていた。


「あいたっ!」

「いやんっ!」


モリゾーキモ…。


俺たちがそんなやり取りをしている中、なっちくんと仁が部屋のソファーに座ってスマホ画面を見せ合いながらコソコソと話している。


「見て見て、女子大生に囲まれるるい。」

「うはっ!やっべー!いきなりモテモテじゃん!あ!見て見て、俺も俺も。女子大生に囲まれる航。」

「うわー!友岡くんもやっぱモテるんじゃん!それるいに見せたの?」

「いやいや見せらんねーって!」

「だよなー!」


やたらと楽し気に話している2人の会話が気になりつつ、俺は干していた洗濯物を部屋の中に取り込んだ。


「お、航が家事してる。」

「がんばってるだろ。」

「うん。がんばってるから今晩泊めて。」

「なんでそうなんの!?」

「みんなで入学祝いパーティーしようぜ。」

「勝手にやっとけ。」


と、なんだかんだ言いながら、こいつらは結局夜まで俺たちの家に居座ったのだった。ふざけんな。


1. 大学生になりました! おわり


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