6 [ 37/172 ]
用意していた食材を全て食べ尽くし、バーベキューを終えたあと、少し休憩してから後片付けをした。
「来た時よりも美しく!!!」
ゴミ袋を持ってゴミを集めると、みんな俺の持つゴミ袋の中にゴミをポイポイ放り込んでくる。
そんな俺たちの姿に会長が「航えらくなったなぁ。お前みたいなのがちゃんとするとみんな真似するから良いよな。」っておじいちゃんのような温かい目をしながら、俺の頭を撫でてきた。
「おじいちゃん、俺良い子になったでしょ。」
「誰がおじいちゃんだこら。」
会長をおじいちゃん呼ばわりすると、俺の頭を撫でていた手が、ペシンと俺の頭を引っ叩いた。なんだか懐かしい会長とのやり取りの気がして、楽しかった。
何年経ってもみんな仲良しで居られるような、そんな関係が続くと良い。
「航、ゴミ。」
名前を呼ばれ振り向けば、りとくんがゴミを持って立っている。ゴミ袋の口を開けてりとくんの元に歩み寄ると、ゴミ袋の中にゴミを入れるりとくん。
そして、ゴミを入れ終わったら、チラ、と俺に視線を向けてきたりとくん。でも、すぐに逸らされた。
うわあ、やっぱこれ意識されてんじゃねえの。俺の自意識過剰ではないだろ。
なんで俺なんだろう。
りとくんが俺を好きになる要素ってある?
やっぱ俺の自意識過剰なのか?
りとくんが俺を意識してるような態度見せるから、俺も変に意識してしまって困るんだけど。
分かってると思うけど、俺お前のにーちゃんが好きなんだぞ。好きな人の弟とは、一生仲良くしていきたいんだぞ。
関係が拗れるのはごめんだぞ。
って考えたところで、別にりとくんから『好きだ』とか言われたわけではないわけで。
やっぱり俺の自意識過剰かって思ってしまうわけで。
でも、俺を見るりとくんの視線を受けるとやっぱり、変なことを考えてしまう俺であった。
「おーい航、ゴミゴミ。」
「ハッ!」
ぼんやりしてると今度はるいが俺の背後に立っており、弟とよく似た声で名前を呼ばれる。
「やっぱ兄弟って声も似るよなぁ。」
「ん?似てる?」
「うん。似てる。」
俺と兄ちゃんが似てるかってのはさておき、矢田兄弟はかなり似てる。
「…声と一緒で、趣味も似んのか?」
「ん?趣味?俺とりとの趣味は全然違うと思うけど。」
ぽつりと思わず口を滑らせてしまったことに、るいが不思議そうにしながら答える。
「まぁ、ならいいけど。」
「どうした?いきなり。」
「なんでもない。」
「りなと俺の趣味なら結構似てるぞ?」
「へぇ、じゃありなちゃん俺のこと好き?」
「うん。」
「やだ照れる。」
「俺の方が好きだけど。」
「それは言うまでもないだろ。」
言われなくても知ってる知ってる。るいお兄ちゃんのことなら任せろ、ってくらい分かってるけど、その弟のことはさっぱりだ。
さて、もうゴミ落ちてねーな。ってゴミ袋の口を縛っていると、ふらりと現れた雄飛が「航先輩、りとになんか言われました?」ってコソコソと問いかけてきた。
「ん?なんかって?」
「あ、なんもねーならいいんすよ。」
それだけ言ってスタスタ立ち去っていった雄飛。
おいおいお前今のあれだろ、『好きです』とか言われました?って聞きたいノリだっただろ!
俺は意味不明な雄飛の問いかけにもまた、絶対りとくん俺のこと好きだろ!!っていう結論に至ってしまった。
おいこらお兄ちゃん!てめーの弟絶対俺のこと好きだぞ!どうすんだよ!…と言ったところでどうもしないけど。
こうして俺は、変にりとくんのことを意識してしまったまま、一日を終えた。
そして、「航バイバイ」って別れ際に笑顔で手を振ってくるりとくんを、初めて会った時とは別人に思えて仕方なかった。
人って、案外簡単に変わるな。
「お前みたいに。」
「え?」
「……あ、なんでもない。」
るいを見ながら突然口から出た言葉に、るいは不思議そうに首をかしげていた。
どうやら俺、友岡 航は、矢田家のイケメン兄弟の、弟までも手懐けてしまったかもしれない。
いや違うかもしれない。
8. 友岡航の自意識過剰? おわり
[*prev] [next#]