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「りなちゃんりなちゃん、何食べたい!?」

「あ、りなとうもろこし食べた〜い。」

「オッケー!もろこしな!もろこし!」


まるで召使いのようにりなちゃんの周りをうろちょろしている日下部に、モリゾーと晃と一緒に日下部必死だな。って観察していた。

この日をそれはもう楽しみにしていたのだろう日下部は、『りなちゃん、りなちゃん』と片時もりなちゃんの側から離れない。

そんな日下部に、りなちゃんはちょっとうざったそうにしながらも笑顔で日下部の相手をしている。俺たちはそんなりなちゃんを、女神か!と称えた。さすがは矢田くんの妹だ。


「りなちゃんりなちゃん、ちょっとこっちおいで〜。」


日下部がとうもろこしを取りに行っている間に、モリゾーがりなちゃんを手招きした。


「ん?」と不思議そうにしながら、俺たちが座っている近くにやって来るりなちゃんに、モリゾーはヒソヒソとりなちゃんに問いかける。


「ぶっちゃけこの中だったら誰がタイプ?」

「えっ、タイプ?」


モリゾーの質問に、りなちゃんの頬が僅かに赤くなった。そして、その後りなちゃんの視線が航を追う。

日下部がいない隙になんつー質問してるんだ、と思っていると、りなちゃんのためにとうもろこしを取ってきた日下部が「あっ!おいモリゾー!俺がいない隙に!」と文句を言っている。


「いやあ、あそこらへんイケメン固まってるからりなちゃんにタイプ聞いてみようと思って。」


あそこらへん、と航や矢田くん、会長たちが固まって会話を楽しんでいる様子を指差すモリゾーに、日下部は「バカー!!りなちゃんに余計なこと聞くな!!」と発狂しだした。落ち着け日下部。


「で、りなちゃんのタイプは?」


しかしここで、発狂している日下部をスルーし、にこにこと笑って同じ質問をする晃。りなちゃんは頬を赤くして、コソッと名前を口にした。


「……航くん。」

「あわわわわわ聞いてないふりー!!!俺はなにも聞いてない!!!」


りなちゃんが航の名前を言った瞬間、両耳を手のひらで叩き、叫ぶ日下部。可哀想だけど、俺たちはそんな日下部にかなり笑った。


バーベキューを開始してから、楽しんではいた俺だったが、密かに抱いている不満があった。それは、ここへ来て雄飛が、りとくんとばかり喋っていることだ。


日下部がりなちゃんに会えるのを楽しみにしていたのと同じように、俺だって雄飛に会える日をいつも楽しみにしていたのに、雄飛は俺じゃなくてりとくんとばかり楽しそうに喋っている。

俺は、そんな様子がずっと気になって気になって仕方なかった。


雄飛とりとくんが仲良しなのは分かってるけど、そんなずっと一緒にいなくたって…って。りとくんに嫉妬をしてしまっている自分がいた。


しかし俺には、二人の間を割って入るような勇気はない。

ああもう、雄飛のバカ。って、あとで文句言ってやろ、って思っていた時に動いたのは、お節介な友人、航だ。


お節介ばかりの航だけど、振り返ってみれば航のお節介には助けられてばかり。


すっかり今となっては俺の頼れる友人となった航が突然、雄飛の背中を蹴りつけたかと思えば、雄飛はハッとしたような顔をして俺の方に近づいて来た。


「ちょっとなち借りていきます。」


モリゾーたちに声をかけてから、俺の手首を掴んだ雄飛が、「ちょっと向こう行こ。」とみんなから少し離れた場所へ俺を連れて行った。


二人きりになった瞬間に、俺の顔を覗き込んでくる雄飛が、「…拗ねてる?」と問いかけてくる。


きっと航になんか言われたのだ。

航に言われないと気づかねーのか、バーカ。


文句を言ってやりたくて、でも実際に雄飛を前にするとなにも文句が出てこない。


「そんなに俺と一緒に居たかった?」


ずっと黙り込んでいると、雄飛が俺に問いかけてくる。


「…雄飛は俺と居たくねーの?」


質問には答えず、そのまま雄飛に同じ質問を返せば、雄飛はジッと俺の目を見ながら答えた。


「みんなでいるときはあんまり。」


真顔で雄飛からそんな返事を返され、少しショックを受けた。まさかそんな返事をされるとは思わなかったから。

しかし雄飛は、ショックでなにも言えなくなった俺に、淡々と告げる。


「見られんの嫌だし。みんなに。それはそれ、これはこれ、みたいな。」

「…え、なにそれ意味わかんねー…。」


雄飛の発言が俺には理解できなくて、溢れ出た呟きに対して雄飛は答える。


「ほら、なんつーか、…照れ臭くね?この空気感とかさ、みんなに見られんの。」


そう言った雄飛と俺との距離はいつの間にかゼロで、雄飛はゆっくりと俺の唇にキスをした。

チュッ、と数秒間キスをして、離れていったあと、雄飛がチラリと俺の方へ向く。


「ほら、なちといるとこういう空気になるし。 そういうのは二人で居る時だけでいいっかなーって思って。」


そう言いながら、雄飛は俺の頭を撫でてきた。


「…ふぅん。そっか。なんかごめん。…あんまり雄飛とりとくんが二人で楽しそうにしてたから嫉妬した。」


雄飛に触れられる今、素直な気持ちが口からぽろぽろと溢れてくる。雄飛に触れていると安心する。

素直な気持ちを口にした瞬間、雄飛がクスリと笑い声を漏らした。


「まじか、嫉妬かぁ。ごめんごめん。」


笑いながら、俺を慰めるように頭を撫でてくる雄飛に、俺は雄飛の身体に抱き着きたくなった。

でも、この場でそれは照れ臭いから、俺も二人の時にしようと思う。


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