3 [ 34/172 ]
*
「レジャーシートオッケー、トングオッケー、包丁オッケー、まな板オッケー!」
家にあったクーラーボックスに必要なものを詰め込んで、持ち上げてみると結構重たかった。
「うわっ結構重いよー!!」
お気に入りのバッグには財布、メイク道具と日焼け止め、タオルやティッシュ、スポーツドリンクを入れて、と。
とりあえず大体の準備を終えてりとの様子を窺うと、りとは折り畳み型のコンパクトなバーベキューコンロを用意していた。
驚いたことに、お兄ちゃんに道具を持って来いと頼まれたりとが、文句を言うこともなく準備をしている。
「りとー、このクーラーボックス結構重いんだけど持てる?」
「ああ…うん。多分。」
りなはクーラーボックスを持ちたくなくてりとに言ってみると、りとはやっぱり文句も言わずに頷いた。ありがたいけど…りときもちわる…。って口に出したらりとに絶対なんか言われるから我慢我慢。
「じゃあ行ってくるねー!」
「うん、気をつけてねー!」
よっこらせ、とバーベキューコンロとクーラーボックスを持ち上げたりとの鞄と、自分の鞄を持って、りなはお母さんに声をかけてから家を出た。
お母さんは仕事が休みのお父さんと今日は二人でゆっくり過ごすだろう。
最寄駅から電車に乗って、乗り換えを一回。駅を出たところで、レンタカーを借りたお兄ちゃんが迎えに来てくれる予定になっている。
電車だと少し距離があるから、お父さん車運転してってお願いしてみたけど、お父さんは休みが嬉しすぎるあまりに家でゴロゴロしていたいらしい。チッ。
仕方ないから電車に乗ったりなとりとだけど、バーベキューコンロとクーラーボックスを持ったりとは、電車内でかなり目立っていた。
「はぁ…重っ…。」
少し息を切らして流れてくる汗を服で拭っているりとにスポーツドリンクを差し出せば、ゴクゴクと体内に流し込んでいる。
「重たそうだね。どっちか持とうか?」
「別にいい。」
「ふぅん、じゃあがんばれ。」
反抗期が終わったりとは、ちょっとだけ優しくなった気がする。るいお兄ちゃんにちょっと似てるかも。
りなはこっそりと、汗を拭っているりとの横顔を眺めながら、そんなことを思っていた。
駅から少し出たところでお兄ちゃんを待っていると、数分後にりなたちの近くに車が止まり、「りなちゃんりとくんやっほー」と助手席の窓から航くんが顔を出した。
そして、運転席から降りてきたお兄ちゃんが「りとサンキューな」とりとから荷物を受け取り、車に荷物を積んでいる。
「りとくんおつかれー、グミあげるー。」
助手席に座る航くんに視線を向けたりとは、ポンと航くんから飛んできたグミの袋をキャッチして、「サンキュー」と言ってりとは珍しくにっこりと笑った。
航くんはそんなりとの笑顔を見て、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
うわー、めっずらし。って、りなもりとの笑顔を見て、我が兄ながらにちょっとびっくりした。どうやら今日のりとは機嫌が良いようだ。お肉食べられるから?
車に乗り込んでから、りとは航くんから貰ったグミを一粒摘んでいる。
「いっこちょうだい。」と手を出すと、りとは「やだ。」と鞄にグミをしまってしまった。
「りとのケチ!!!」
最近優しくなったと思ったのに!
やっぱり前言撤回だ!!!
*
目的地の河川敷に到着すると、すでにそこにはみんな揃っているようだった。
ゴールデンウィークである今日、俺たちの他にもバーベキューをしようとしているグループが準備を始めており、かなり賑やかな雰囲気だ。
クソカベ、モリゾー、なっちくん、アキちゃん、それから雄飛と仁と古澤くん。
久しぶりに会った古澤くんは、「矢田先輩、友岡先輩お久しぶりです!」と丁寧に挨拶をしてくれて、前よりしっかりしてきた印象を受けた。さすが生徒会長である。
「りなちゃん待ってました!!」と相変わらずりなちゃんにデレデレのクソカベはさておき、「おーい後輩ども手伝えー。」と背後から現れたのは、クーラーボックやバーベキューコンロなど、荷物をいっぱい持った会長だった。
「おお!びっくりした、会長だ!」
「俺が誘った。」
まさかの会長の登場で、るいが驚く俺にそう言いながら会長の元に歩み寄って荷物を受け取っている。これは…海に行ったメンバー集結か。
「いつの間に俺は後輩に足に使われるようになったんだ。」と笑い混じりに文句を言っている会長に、るいが「ハハハ」と笑っている。
和やかな雰囲気の中、俺の隣に歩み寄ってきた会長に「肩モミモミしましょうか?」と言ってみると、「お、頼む。」と頷かれてしまったから、冗談で言ったけど俺は会長の肩をモミモミと揉んだ。
るいは俺が会長と仲良くしてても嫉妬することはなくなったから、なんだかちょっとした進歩のような気がした。
みんな仲良くできれば、それで良い。
[*prev] [next#]