機嫌が直らない航くん [ 28/172 ]
航にはたくさん謝罪をして、もうこんなことはないように、と反省もした。でも航はずっとむっすりした表情でソファーに座ってテレビを見ている。
ススス、とソファーに歩み寄り、航の隣に腰掛けたら、航は俺の身体をグイグイと押してきたから、俺はずるりとソファーから落っこちた。
「痛い痛い、航くん痛い。」
床にひっくり返って航を見上げると、航は冷めた表情で俺を見下ろしてくる。
「まだ怒ってんの?」
「別に怒ってねーよ。」
怒ってんじゃん。
どうしたら航は機嫌を直してくれるのだろう。
うーん、と腕を組んで考える。
そうしてお互い暫くのあいだ口を開くことはなく、会話がない時を過ごして数十分後、航の視線が俺に向けられた。
「…ぶっちゃけさぁ、『るいくんかっこい〜!』とか毎日学校で言われてんだろ?」
むっすり不機嫌そうに口を開いた航に言われた内容はそんなことで、俺はすぐに否定する。
「言われてねえよ。」
「嘘つくなよ。満更でもないんだろーが。」
しかし間髪入れずに冷たい口調で返され、すげえ辛い。なんだ満更でもないって。一体なんの話をしてるんだ。
今度は俺がムッとした表情が顔に出てしまい黙り込むと、航は「…るいのバカ。」と小さな声でそう言いながら、俺の膝を軽くつま先で蹴ってきた。
「…おまえモテすぎなんだよ。」
そして続けてそんなことを言ってきた航に、俺は思った。航はきっと、不安なのだ。
高校の時はずっと一緒にいれたけど、大学生になってからは一緒にいれない時間が増えた。
そんな中で、俺が家に女の子を連れてきたもんだから…航の不安は爆発したのではないだろうか。
勝手にそう解釈した俺は、航の身体に両手を伸ばし、強引に航の身体を自分の腕の中に閉じ込めた。
すると航は、そっと俺の背中に腕を回して抱きついてきてくれたから、その瞬間ようやく俺はホッとしたように息を吐いた。
「航ー…俺まじで航くんしかあり得ないから。」
航の首筋に顔を寄せながら言えば、航はモゾッとくすぐったそうに身体を捩らせた。
「チュッ」と航の首筋にキスをして、そのままキツく航の首筋を吸い上げる。
すると航は、首筋を押さえながら勢いよく顔を上げた。
「見えるところはやめろよ!!!」
「あ、ごめん。つい。」
キスマークを付けてしまったのは無意識で、謝れば航は「も〜!!!」と声を上げながら俺の身体から手を離して、洗面所へと向かって行った。
「くっきりついてんじゃねえか!!!」
そんな航の叫び声が聞こえ、よいしょと腰を上げて航がいる洗面所へ、俺も向かう。
トントン、と自分の首筋を指差しながら「航も付けていいよ。」と言えば、「そういう問題じゃねえ!」と航に怒鳴りつけられてしまった。
なかなか良くならない航の機嫌に、俺はやれやれと首を振る。
ススス、と航に近付いて、スススと航の着ていたシャツを捲り上げた。
「むっ!てめえなにしやがる!」
「お風呂、一緒に入ろっか。」
こんな時こそ、二人で一緒に風呂入って、まったりとした時間を過ごせれば良いと思うのだ。
だから、サッと航のシャツを脱がして、ズボンとパンツも素早くずらすと、全裸になった航が真っ赤な顔をして俺を睨みつけてきた。
可愛い顔してこっちを見ないで。
自身も素早く服を脱ぎ捨て、航の腰に両腕を回す。
素肌が触れ合って、とても心地良い。
背後から航の身体に密着して風呂場へ航を押し進めると、航は振り向いて叫んできた。
「おい!硬くなってんぞ!」
「ん?」
一体なんの話だろう。
俺はすっとぼけながら航の身体は離さずに、シャワーのお湯を出す。
「ああもう!るいのバカ!!!」
真っ赤な顔をして叫ぶ可愛い可愛い航の顎に手を添えて、強引に振り向かせてその唇にキスをした。
「…航、そろそろ機嫌なおして。」
そっと耳元で囁けば、航は振り返り、スリスリと俺の身体に頬を寄せてきた。
「…別に。もう怒ってねーよ。俺の方こそ、ひどいこと言ってごめん…。」
そして、ボソボソ、と小声で謝ってくる航。
なんで航が謝るんだよ。
航が謝る必要はねーよ。
と思いながらも、気持ちが高ぶって声に出せず。
ああもう、航が大好きだ、って、とりあえず航の身体を抱き締めて、またキスをした。
機嫌が直らない航くん おわり
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