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「……はぁ。分かった。じゃあ俺から母さん説得してみる。」

『お!まじぃ?サンキュー兄貴頼りにしてる!』


俺のその言葉を待っていたかのように、途端にりとはテンションを上げて返事をした。最初からこいつの目的はこれだったのか?と思えてくる。


ぶっちゃけ俺も、りとの一人暮らしは反対だけどなぁ。と思いながら、かと言って俺と航の家に転がり込まれるのだけは避けたい。


りととの通話を終わらせ、「はぁ…」と無意識に口から出たため息に、隣で大人しく俺の電話する声を聞いていた会長がクスリと笑った。


「やんちゃな弟を持つと兄貴は大変だな。」


会長はそう言って、「ほい。」とチョコ菓子の小袋を一つ俺に渡してきた。


「…ありがとうございます。」

「で、弟どうなりそうだ?」

「…一人暮らしさせてもらえなかったら俺のとこ転がり込む気満々みたいなんでとりあえず親説得してみようと思います…。」

「ふぅん。」


退勤してから随分時間が経ってしまった。

会長まで付き合わせてしまい、少し申し訳ない気持ちになりながら止まっていた足を動かし、暗い夜道を会長と並んで歩き始める。


けれど突然、会長が歩み始めていた足を止める。


どうしたのだろう?と振り返ると、会長は何故かニヤリと口角を上げ、楽しそうに笑っていた。


「…会長?」


不思議に思い呼びかけると、会長は楽しそうに笑ったまま俺に告げる。


「その案件、俺が引き受けようか?」

「はい…?」


会長の言っていることの意味がわからず首を傾げると、会長は再び歩みを再開させ、思い出話をするように空を見上げながら口を開いた。


「やんちゃ坊主の生活態度更生させんの、そういや中途半端に矢田に引き継いじゃったしなぁ〜。」


……あ、それって。

航のことを言っているのだろうか…?


黙って会長の話を聞いていると、パッと横を向いた会長と目が合い、その瞬間また会長がニッと笑う。


「弟、俺の家住まわせるか。」


まさかの会長からの発言に、俺は会長がどこまで本気で言っているのかわからなくて、暫しの間唖然とした。


「…え?…いや、冗談すか?」

「ん?すげー本気。」

「…いやいや、あいつ家事とか絶対やらないんでやめた方がいいっすよ…?」

「それやらすための同居だろ?腕が鳴るな。」


会長はそう言いながら、グルグルと片腕を回している。


「…会長、俺の弟あんま甘く見ないほうがいいすよ…。ひょっとしたら当時の航以上に厄介かも…。」

「ハハッ、それはどうだろうな。」


……会長、本気なのか?

もしそれを本気で言っているのなら、ありがたすぎる会長の申し出に甘えたいところなのだが。


「まあこれも一つの選択肢ってことで、矢田の母ちゃんに相談しろよ。」


会長との別れ際、俺の頭をポンポンと叩き、「じゃ、また明日。」と言って帰っていった会長の背中が見えなくなるまで眺めてしまった。


……やっぱ、会長はかっこいいな…。


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