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送別会はお開きとなった場で、数人で綾部を取り囲んで「綾部くんどうする?」「家わかる人いる?」という会話が行われる。

しかし綾部の家を知っている人は誰も居らず、次に連れて帰れと言いたいのか「横井くんって一人暮らし?」と聞かれてしまった。


「…え、いや、俺実家っす。」


そんな俺の返事に周囲は落胆する。さて、どうしようかと困り果てていた時、綾部のケツポケに入っていたスマホが震えた。

しばらくブーブーと震えているスマホに、「電話じゃない!?」と側にいた一人が綾部のケツポケからスマホを引き抜く。


スマホ画面を見ると、そこには大きく【 雄飛 】という文字が表示されていた。


「綾部くんの友達じゃない!?ちょっと横井くん電話出てみてよ!!」

「えぇ!?俺すか!?」

「早く!綾部くんの家聞けるかもでしょ!」


それはそうだ、と振動が途切れる前に渋々電話に出てみることにした。


「もしもし…」

『あ、なち?』

「あ…えっと、綾部じゃなくってあの俺、」

『…ぁあ?なちは?つか誰だよてめえ。』


……ゲッ、ちょっと待て、めっちゃこわ、電話に出たのが綾部じゃないと分かった途端にすっげー凄まれたんだけど。


「俺綾部とバイト一緒の者で!!ちょっと今困ってて!!話聞いてもらえると嬉しいんすけど!!」


相手に怪しまれないように、一気に捲したてるように話すと、相手は静かになり、『なんだよ、さっさと言えよ。』と促された。


その後、静かに耳を傾けてくれている様子の通話相手に、綾部に間違ってコークハイがいってしまい酔って眠ってしまったこと、綾部を家まで送るにしても家が分からなくて困っていることを話すと、少し考えるように黙り込んだあと、『どこの居酒屋すか?』と店名を聞かれ、店名を伝えたあと『ちょっと待ってもらっていいすか。』と言って通話を切られた。


通話が切れたあと、周囲からは「どうだった!?家聞けた!?」と聞かれるが、「ちょっと待ってって言われました。」とだけ伝える。

相変わらずスースー寝息を立ててあどけない表情で眠っている綾部。もしかして、と思ったんだが、なんとなく今の電話の相手は、この前お店にきていたあの怖そうな友達の気がする。

うっすら記憶に残っているその姿を思い出しながら再び電話がかかってくるのを待っていると、5分も経たないうちに再び電話がかかってきた。


「はいもしもし!」


飛びつく勢いで電話に出ると、相手からはやけに丁寧な返事が返ってきた。


『あ、今から迎えいくんで申し訳ないんすけどそれまで待っててもらっていいすか。』

「あっわかりました!ありがとうございます!」

『や、こちらこそすんません。そんじゃ、あとちょっとだけお願いします。』


何故か最後は申し訳なさそうに謝られたことに首を傾げながら、通話を終わらせ綾部のスマホをポケットに戻す。


「電話の人なんて!?」

「あ、なんか今から迎えに来てくれるって。」

「うそ!めっちゃ良い友達…!」


…友達、なのか?

俺にはなぜだか、もっと、

親密そうな関係に思えた。





「ねー、今日はわたるくんといちゃいちゃしたいなぁ。」


午後11時を過ぎたあたりで、リビングのテレビの電源を消したるいが、風呂上がりでわしゃわしゃとタオルで髪を拭いていた俺の身体に抱きついてきた。

完全にそれはえっちのお誘いで、俺はどうしよっかなーと悩むような態度を取りながら、暑苦しいるいの身体を少し振り払う。

やんわりとるいの手が俺の身体から離れると、タオルで髪を拭くのを止め、冷蔵庫前まで来てコップ一杯のお茶を注ぎ、ごくごくとお茶を飲む。

飲み終わったコップを流しに置くと、またしぶとく俺の身体に背後から抱きついてきたるいが、がぶっと俺の耳をかじってきた。


「ねーねーわたるくんってばー。」


今日のるいはどうやら一発ヤるまで寝なさそうだ。


「はいはいわかったわかった、もーお前は暑苦しいな。」


文句を言いながらもそう返事をすると、「やった〜」と緩い表情で笑うるいは、チュッと頬にキスをしてくる。そのキスは、チュッ、チュ、と首筋まで徐々に降りてきた。

気がはえーよ。ベッドまで我慢しろ。とるいの顔をペシッとしばきながらるいを背中に引っ付けて、テーブルに置いていたスマホを手に取り寝室へ移動しようとしたその時、俺のスマホがぶるりと震えた。


「ん?なんだ?こんな時間に。」


画面を見れば、そこには【 雄飛 】の文字が。


「もしもーし、雄飛どうした?」

『あ、航先輩…遅くにすんません。』


雄飛からの電話に出ると、やたら申し訳なさそうな雄飛の声。


「ん?大丈夫だけど。なんかあった?」

『あー…それが、なちがですね…、居酒屋で酔っ払って寝ちゃったみたいで…。たまたまなちに電話したらバイト先の人が出たんすよ。』

「は??」

『それで、もし可能なら先輩になちの回収行ってもらえないかと…。』


おいおい、なっちくんなにやらかしてんだ。俺と雄飛の通話を、ぴったり耳をスマホにつけて聞いていたるいの眉間にも深い皺が寄っている。


「わかった、行くわ。」


他ならぬ雄飛の頼みだ。二つ返事で引き受けた俺に、「ありがとうございます…!!」と安心するように息を吐きながらお礼を言う雄飛にクスリと笑う。

そりゃ心配だよな。本当は雄飛が行ってやりたいだろうけど行けねえもんな。


なっちくんがいる居酒屋の店名を聞いてから、雄飛との通話を切る。チラリとるいの方を見ると、るいは拗ねたようにぷくりと頬を膨らませていた。


「てことで俺ちょっと行ってくるけど、お前は…」

「行くに決まってんだろ。」


むすっと不機嫌そうなるいは、部屋着のままスマホと財布だけポケットにつっこみ、先に外に出た。

その格好で行くのか…?部屋着っつーか…寝巻きだな。まあるいは何着ててもかっこいいからるいがよければそれでいいけど。


俺は高校のジャージズボンを穿いていたから、こんな服装では出かけられず、すぐにジーパンに穿き替えた。


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